2 転機はやってくる
翌朝、皆の態度は急変した。
お父さんは私を一目見て固まってしまった。
そりゃそうだろう・・・
昨日まで直視できないくらいに、白い光を放っていたのに、一晩でそれがなくなったのだから!
光を見れるのはごく一部の人だけらしい。
見えるのは現能力者と元能力者。それにその素質のある人だけだ。
彼からしたら、いい金蔓が来たと思ったら、一夜限りの幻だったのだ。
「おい、今すぐにその女を放り出せ!」
彼は見るからにイライラしていた。
「それと国王様に今日の面談は取り止めであると連絡を! ちょっと待て、直筆を添えた方が良さそうだな・・・」
そんなことを昨日の従者に話しながら、目の前をスルーして行った。
少し離れたところでは、彼の息子たちの話し声も聞こえてきた。
「あ〜、本当に良かったぜ!!あんな言葉もわからないような頭の悪そうな女を落とせだなんて、冗談きついぜ」
「フン、その割には懸命に口説いていたじゃないか」
冷めた次男は軽蔑を込めて言った。
「か、顔はそこそこだから、相手をしてやっていただけだ!」
「あの人どうなるんだろう・・・・・」
三男は心配そうにしてくれていた。
「知るかよ、あんな女! 父さんが価値ナシと決めたんなら今すぐに追い出されるだろうよ!」
言われなくてもここを出て行きますよ。
出口を目指して進むのだが、広いから少し迷っていたら、青い光を放っていた子がそこにいたのであった。
「出て行くのか・・・その方がいい。お前まで飼い殺しにされる必要はないだろう」
「あなた飼い殺しにされているの?」
思わず訊いてしまい、二人はバッチリと目があった。
「おまえ話せたのか!!」
「諸事情ありまして、言葉が話せるようになったんです」
「それより、その白光はどうしたんだ?」
「ああ、これ! 小さくする方法を教えてもらったんですよ」
昨夜、彼女にも眩しいと文句を言われたのだ。
みんなが『道に落ちている靴下』のような目で見ていた理由がようやくわかった。
私が放つ光が眩しくって、あんな顔をさせていたようなのだ。
『スマホっていうの?あの音量を下げるような感じで小さくしてみて!』
そう言われてもなかなか出来なかった。
蛇口から出る水を細くする感じで、というアドバイスでやっと出力を下げられたのだった。
彼女曰く、同じ能力者でしか気付かないほどに、弱い光になっているはずらしい。
「あいつに教えてもらったのか?」
「あいつって誰?」
なかなか会話が噛み合わない。
「それより、飼い殺しってどういうこと?」
彼も青い光を放っているということは、何かの能力者なのだろう。
因みに私は怪我や病気を治せるらしい。
完璧な聖女ポジだが、そもそも光を見れる人が少ないので、広く一般的に知られていないらしい。
存在自体を知っているのは、各国の中枢にいるような権力者や有力者のみのようだ。
だから、彼らは必死になってこの情報をひた隠しにしているようなのだ。
その時にお父さんが通りかかった。
「おい、まだ、目障りな女がいるぞ! 早く追っ払え!」
この家の主人の一言で、すぐに出口に連行されて、ゴミのようにポイっと捨てられてしまったのであった。
「こんなところで、一体何をしているっ!!」
虫の居所が悪い汚物は、今度は俺に向かって文句を言ってきた。
面倒なので無視をして行こうとした。
「この間も女達を追い返したらしいな!!まさかお前、不能なのではあるまいな!」
この国は近隣に水を売って大儲けしている。
それもこれも水伯爵で有名なこいつの一族の中から、能力を引き継げる者が現れるからである。
青は水を操る能力だ。
この汚物もその能力を父親から受け継いだらしい。
だが能力は永遠に続くわけではない。
青い光が弱くなってくると、そろそろ能力が無くなるといわれている。
そして光を見れる者にしか、この能力を授けることはできない。
彼の息子たちはその光が見えなかった。
彼は困り、目についた女には手当たり次第に手を出した。
それでも彼の子供は誰一人として『どうしてお父さんは青いの?』とは聞いてこなかった。
そんな時に汚物は俺を見つけたのであった。
母親と一緒に花を売っていた俺は、あいつをみて「怖い!」と母の影に隠れたのだ。
「何がそんなに怖いんだい?」
「だって、青いから・・・」
この一言で、俺の人生は激変した。
母さんは俺のことを絶対に離さないと言ってくれていた。
なのに・・・なのに・・・
俺はここに養子に出されたのであった。
「あなたがいなくなったら、この人とやっていくの」
母さんは見たこともない男と何処かに行ってしまった。
俺にはもう帰る場所がないのだとわからせる為に、二人で暮らしていた家を俺の目の前で焼いたのだ。
それ以来この男のことは汚物と呼んで、心底軽蔑している。
この家から能力者がいなくなることを何よりも恐れているのだ。
だから俺は女を抱かない。
それが俺にできる復讐だからだ。
「おまえ、青い光が弱くなってきているんじゃないか・・・そうなったらここに置いておく理由はないんだからな!!」
言いたいことだけ言うと、その場から立ち去った。
俺はこうやって脅され、不能だとバカにされても行くところもなく結局、ここに留まるしかない。
汚物は今も血縁者に能力を引き継がせたいと思っている。
次々と女に子供を産ませているのが何よりの証拠だ。
だが敵はあいつだけではない・・・
俺を見かけるたびに嫌味を言ったり嫌がらせをしてくる長男や、俺のことはいないものと見なして徹底的に無視してくる次男、おどおどと人の顔色ばかり窺っている三男。
3人の誰かに、光が見える子が生まれてくるかも知れないのだ。
そうなったら俺はそいつに能力を譲り、本当にここを追い出される・・・
俺はただ、問題を先送りにしているだけでしかないのだ。
さっきの女、光について何か知っていそうだった。
光を弱くできるとはどういう意味だ?
ここで飼い殺しにされてたって、いつかは捨てられるなら、自分からこの家を出て行ってやろう。
そう考えた俺は、意を決してここを飛び出したのだった。