19 利口な人は静かに怒る
さっきから、俺が唖然とすることばかりが続いている。
あの大きくなった植物にクリスターは羽交い締めにされ、口の中に花をぎゅうぎゅうに押し込まれた後、彼は気を失ったのだった。
しかし、リュードさんの父と名乗った男の『少々痛い目』はこんなものではなかった!
セイロン商会の裏にあった大きな木に、クリスターを磔にしたのだ!
正確には、頭以外は木に埋められたような状態にしたのだ。
気がついたクリスターは身動きがとれない状態に混乱し、口汚く文句を言い出した。
「てめー、俺様にこんなことして只で済むと思ってんのか!! おい、エヴィー、さっさと助けやがれ!!」
「た、助けるってどうやって・・・」
坊ちゃんの戸惑う様子から、何かを感じたようだった。
クリスターは自分の体が木の中に埋まっている状態なのだと、やっと気がついたようだ。
「ウギャーーー!!ヒー、ヒー・・・何だ、これはーー!!」
見ているこっちも何がどうなっているのか分からないのだ。
本人はもっと理解が追い付かないことだろう・・・
訳がわからなくて散々喚いた後、今度は懇願し始めた。
「頼む〜、助けてくれ!金ならいくらでもやる!」
そんなプロトタイプなお願いに、リュード父はうんざりしたような顔をした。
「ちょっとおしゃべりが煩いな」
そう言うと、クリスターの顔に手を翳した。
するとどうだろう・・・口までもが木に取り込まれてしまったのだ!!
彼は恐怖の余り、目の焦点も定まらないようだ。
眼球が忙しなく右往左往し、目尻には光るものがあった。
「これで、静かに話せる。 君にはこのまま、この木の栄養になってもらう!
心配しなくても、すぐには死なない。
ゆっくーりと長い年月をかけて取り込まれていくんだよ。
その間、己の今までの行いを反省しながら、静かに朽ち果てなさい!」
無情にもそう言い放ち、彼の目と耳の前に手を翳した。
もう、次の瞬間にはそこにクリスターがいたような形跡はどこにもなくなっていたのであった。
「・・・・・・あ、あ、あいつを殺したのか?・・・・」
リュードさんがそう尋ねる声は掠れていた。
「まさか!死に値するほどの悪いことはしていないよ。
だけど君のことを苦しめた罰は与えないとね。
彼は栄養になるんじゃなくて、木が彼を殺さないように栄養を与えてくれるんだよ」
俺はそんな彼のやり方に畏怖の念を抱くと同時に痺れていた。
今までこの世で一番冷酷な男は、水伯爵だとずっと思っていた。
彼はいつも無表情で、回りを冷めたような目でみている。
そしてその見た目通りに、目的のためなら手段も選ばないし、用無しの者を簡単に切り捨てていくのも何度も見て来た。
リュードさんの母親のときもそうだった。
だからこそ、シーラという女性の名前を覚えていたのだ。
けれども、この人からは伯爵のような冷酷さは微塵も感じない。
にこやかで温和そうで、言葉遣いも丁寧である。
なのに先ほどからのクリスターへの仕打ちは、ゾッとするほどに無情そのものであった。
恥ずかしながらいい年をして、この男性のことを『かっこいい!』と思ってしまったのであった。
圧倒的な能力も、その使い方も洗練されていた。
相手がまたクリスターだったことがより心に響いたのかも知れない。
いつも坊ちゃんのことをバカにしてきて、腹に据えかねるものがあったからだ。
坊ちゃんは確かに臆病者で、言いたいことを飲み込んでしまいがちだが、決してアイツのように愚かではない。
思いやりがあって伯爵家の誰よりも優れた人柄であると思っている。
そんな坊ちゃんはと言うと・・・・
やっと会えたリュードに近付いて「会いたかったです〜!」と嬉しそうに抱きついているではないか!!!!
ん! んん!? んんん?
目ん玉が飛び出そうになった!!!
まさかまさかまさか坊ちゃんがご執心だったのって、そっちだったの〜!!
俺は目をまん丸にし、嬉々としてリュードさんに抱きついている坊ちゃんを、口をあんぐりと開けたまま見ていたのであった・・・・・・




