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17 思い立ったが吉日


一頻(ひとしき)り泣いた後

緑の人の目は真っ赤になっていた。


「大丈夫ですか?」

思わず聞いたが、相手は何のこと?という感じだったので、目が赤いことを教えた。


「ああ、そうか。確か前もそうだった。アーハッハッハッッ」

彼は高笑いをしている。


ヒカリと目が合った。

二人で『何がおかしいんだ?』と首を捻り合い、彼が笑い止むのを待つ。


「ごめん、ごめん。 植物と生きていると心穏やかでいられるから、久しぶりの怒りの感情に持っていかれそうなったよ」

彼の瞳はもう緑に戻っていた。


「今から、水伯爵ペリエのところに行く!」

「「ええーっ!!!」」

「その前にシーラにも事情を説明しないとね」


母は呆然としていた。

「何も今すぐに行かなくったっていいじゃない・・・」

再会の余韻に浸る間もなく出掛けることを、母は拒んだ。

また戻って来ないのではないかと、そんな心配をしているようだった。


「だけどね、シーラ。息子がこのお嬢さんを連れて伯爵のところを飛び出したんだよ。きっとみんなが心配しているよ」

「それはわかるけど・・・」

「僕は父親として、初仕事がしたいんだ。

こんなに大きくなってしまったら、してあげられることなんて、そんなには無いからね」

その言葉に母は嬉しそうであり、寂しそうだった。


そんな母を見ていたら「そう慌てなくても、しばらくゆっくりしてからでもいいじゃないですか!」と口をついて出た。


「まあ、それもそうだね」

緑の人は俺の気持ちに気がついたようだった。


「だいたい、リュードが駆け落ちなんてしてくるから、こんなことになったのよ!」

母は俺の気も知らずにプンプン怒っていた。


この齢で、恋する母の姿を見るのは複雑なものがあるなと思いつつ、すみませんと謝っておく。


その夜、部屋でヒカリが聞いてきた。

「ねえ、伯爵のところに行って何をするつもりなんだろうね」

「さあね」

「謝らせて『二度と俺の息子に手出しするな』って言うとか?」

「あのさ・・・俺、あの人のこと父親だと思ってない」


「わかったー、お母さん取られて怒ってんでしょ? 妬かない妬かない。

お姉さんが慰めてやろうか。うりうりしてやろうか?」

「何がお姉さんだ!このツルペタが!」

うっかり本当のことを口走ってしまった。


ヒカリは俯いて何かを確認した後に、急に何も言わなくなった。


しまった、やってしまった。

「まだ成長途中だから大丈夫だ!」と取ってつけたように取り繕う。

「ふん、別に慰めてもらわなくて結構よ!リュードが瀕死になっても、絶対に助けてやんないんだから!!」

「それは困る」

「だったら、()()()()()()は?」

「ごめんなさい」

そんな話をしていたら、何だか両親のことで別段深刻になることもなく、時間は過ぎて行ったのだった。



旅立つ前日のことだった。

「ヒカリ、一生のお願いだ。一緒に付いて来てくれ!!」

リュードは降って湧いた父親との二人旅が、気まずくてしょうがないらしい。


「一生のお願いをするということは、私のお願いもきかなくちゃいけないことだって、わかってるわよね!」

脅すような言い方だが、きちんと言質を取っておきたい。

ここで恩を売っておいて損はない。


緑色のプランさんは「お金の心配ならいらないよ」と言ってくれたが、私は現金を持っていたかった。


旅の前にセイロン商会でライターを売っておきたい。

プランさんは早く水伯爵のところに行きたそうだったが、私の我が儘に付き合ってくれたのだった。


支配人はにこやかに店内に迎え入れてくれた。


「これはこれは、お待ちしておりました。

今日こそ、あの素晴らしい品を売っていただけますでしょうか?

色んなところから問い合わせをいただくんですよ」


「それは買取額、次第ですね」

最近、夢で彼女に会えていなかった。

安売りはしたくない。


「まだお若いのに商売上手ですね〜。」

そう話す支配人の顔は少し引きつっている。


「そうだ、頼まれていた張り紙の件ですが、たくさん情報がきていますよ〜」

「それはありがとうございました!」

「情報を渡すことですし、この間と同じ金額でどうでしょうか?」

「同じですか・・・じゃあ情報はいらないので、金額を上げてください」


「いい加減にして下さい!店の一番いいところに貼ってやっていた代金と、情報を書き留める手間賃はどうなるんだ!!」

支配人の口調は変わった。

「それを入れても、この前の金額より二割は上げてください。」


他の商会で聞いてみたら、もっともっと高額で取り引きできそうだったのだ。

でも、張り紙のことを快く引き受けてくれたのでセイロン商会で売ろうと思っていたのだが、前回と同額はあまりにも安い。


「おいっ、出番だ!」

支配人が手を二回叩くと、扉から強面の男が数人出て来た。


男たちはライターを奪おうと私に狙いを定めている。

私はカバンをギュッと抱きしめた。


そのとき、リュードが男たちに向かって放水してくれたのである。

「どわー、何だ!」

男たちは、どこからともなく出てくる水に戸惑って、顔を覆っている。


突然のことに、あっけにとられていた支配人だったが、我に帰ると「しっかりしろ!ただの水だろ!」と男たちをけしかけた。


『ただの水』と言う言葉はリュードをとても怒らせたようで、水量を更に上げだした。

水の勢いに、男たちはその場に留まることもできない。

余りの水圧に後退するしかなく、男たちは店の外にまで追い出されたのであった。


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