16 年齢は外見だけでは見抜けない
男は、母が別の誰かと結婚して、息子の俺がいると勘違いしたようなのだ。
「違うの!あなたが父親なのよ!」
母の告白に、男は心底驚いているようだ。
「でも、僕がここに戻って来たら、誰もいなくなっていたよ・・・」
「父に妊娠を知られて、この子に危険が迫ったから逃げるしかなかったの。
屋敷のみんなも解雇されたから、ここには誰もいなくなったの」
男は俺をじーっと見てきた。
目を逸らしたら、なんだか負けのような気がした。
母は嘘などついていない。
今ならわかる。
母はずっと、この男のことを想って待っていたんだろう。
「僕が父親になっていたなんて!本当に嬉しいよ!」
そう言うと、男は再び母を抱きしめたのであった
「シーラ、今までありがとう・・・遅くなってごめんね」
母の嗚咽が聞こえてきた。
男は母と二人で話がしたいと申し出てきた。
俺たちはその間、自室で待っているように言われた。
「文句をいっぱい言ってやろうと思っていたのに、シーラさんの嬉しそうな顔を見たら、何にも言えなくなったよ。」
ヒカリは先ほどまで、目を潤ませていた。
「ヒカリ、あの人のこと、すごい顔で睨んでたね」
ヒカリがそうやって怒ったり泣いたりしていたから、俺は意外と冷静でいられたのかもしれない。
「だって、女性に『君は随分と変わったね』は無くない?!人は年を取る生き物なんだからさー」
「そ、そうだよね。」
相づちを打ちながら、ヒカリが自分に言われたかのように怒っていることが面白かった。
「緑さんって、妙に若くない? 本当にお父さんなのかな?」
「俺もそれは気になってた。けど母さんがそう言うんだから、そうなんだろ」
俺と母も別れて大分経つが、母はあまり変わっていなかった。
だがあの男と母の間には20年もの月日が流れているのだ。
お互いに年をとっていて当たり前だ。
だが男はとてもじゃないが母と同年代には見えない。
20年前は子供だったのではないかと思えた。
だがこのカラクリはすぐに謎が解けた。
「え? 能力がある間は年とらないの?」
ヒカリの声は心なしか弾んでいた。
「どうやら、見た目は老いないみたいだね。
でも、子供で能力者になった子は成長するみたいだよ」
緑の人はプランという名前であった。
母との話が済んだので、こちらにも話をしに来たのだ。
彼は緑色らしく植物に関する能力者なのだそうだ。
彼は今までのことを正直に話してくれた。
「君たちも能力者だから、自分の価値について常に他人からどう思われているか、わかるだろう。
シーラがこの国の王女だとわかって、僕は怖くて逃げたんだ。
もしかして僕が能力者だから、近づいて来たんじゃないかと、疑心暗鬼になったんだ」
この人も能力のせいで酷い目にあったのだろうか・・・
「だけど、やっぱり彼女のことが忘れられなくて時折ここを訪れていたんだ。
誰もいなかったけどね・・・植物たちが彼女の思い出を教えてくれた。
まさか僕の子供を産んで一人で育てていてくれたなんて!!
彼女のことを信じきれなかったのは僕だ。
本当に申し訳ない」
「俺に謝ってもしょうがないでしょう・・・ですが能力者が酷いめに遭うのはわかります」
同じ能力者だからこそ、その苦悩は理解できた。
「もしかして、君も酷いめに遭ったのかい?」
急に出てきた父親には何の気兼ねもなく、伯爵家でのことを吐き出せた。
「それはリュ・・・君があの水伯爵のところで受けた全てかい?」
念を押されたが、いちいち細かいことを覚えていなかった。
「大体はそんなところです」
「よく頑張ったね・・・逃げることができて、本当に良かった。
良かれと思って伯爵家に預けたはずなのに、シーラもさぞ辛かっただろうな」
「母は、俺が伯爵のところでどんな扱いを受けていたのか知りません。というか、言えなかった・・・。
母がこんなに大変な思いをして俺を育ててくれていたことを、ここに来てから初めて知ったんです。更に追い打ちをかけるようなことは言えませんでした。
だからあなたも黙っていて下さい」
そう言って顔を上げると、緑の人はギョッとするぐらいに泣いていたのであった。




