13 他人事であっても腹が立つ
横で見ていても、ヒカリが母に対してドン引きしているのがわかった。
そして正直、俺もちょっと怖かった。
その昔、母があの花の苗を見つけて来たとき、異常なまでに喜んでいたことや、とても大事に育てていたことも思い出した。
だからこそ、ここの庭に見慣れたその植物があることに気を取られたのだ。
「どうしてここを離れ、アクーア国に行ったのですか?」
この国の皇女である母が、どうしてチャーコブから出たのか気になった。
「父も母も私の妊娠を知って、それはそれは怒ったの。
『相手は誰だ』としつこく問い詰められたわ。
だけど、私はあの人のことを何も知らなかった。名前さえ知らなかったもの。
花の精だと正直に答えたら、父は酷く怒ってここにいたみんなを責めたわ。
『お前たちの監督不行き届きだ!』と全員を解雇したの。
そしてあなたが男の子だったことが、もっと父の怒りを買ってしまったの・・・
あなたを育てるにはこの国を出るしかなかった」
おじいさんの怒りもごもっともだ。
娘がよくわからん男に妊娠させられたなんて、面目丸潰れだ。
相手の男がその醜聞を広めでもしたら、王家はとんだ笑い者になるだろう。
父親を名乗る男が、王家を脅してくるような輩なら、この先ずっと面倒なことになる。
しかも生まれたのが男児となれば、それを盾に使い道はいくらでもあるだろう。
「母さんは、こんなに酷い目に遭わされても、その花の精のことを恨んでないの!?」
「恨む?どうして? だって彼はあなたに会わせてくれたじゃない!!」
母さんはこういう人だった。
生い立ちをきいて、世間知らずだったことや、人を疑わない純真なところがあったことに、やっと合点がいった。
だからこそ母は水伯爵の言葉も鵜呑みにしたのだろう。
『そんなに大事だった俺を、どうして伯爵のところに預けたの?』とは言えなくなってしまった。
母は本当に伯爵のところに行けば、命の心配もお金の心配もなく、俺が安心して暮らせると思ったのだろう。
そして俺がいなくなったからこそ、この国にやっと帰って来れたのだろう。
母のことを苦しめていたのは俺だったのかも知れない。
用意された部屋に行くためにヒカリと廊下を歩いていた。
「伯爵家でのこと、よく黙ってたね・・」
ヒカリはそう言って、俺の頭を撫でた。
子供扱いしてきたことに少し腹がたったが、彼女に打ち明けていたからこそ、母には黙っていられたのだろう。
「母さんの今までの苦労を聞いたら、それは言えないよ」
「そうなんだけどさー」
「どうして、お前が泣くんだよ〜」
俺に代わって、ヒカリが泣いていた。
「だって年取ったら、涙腺が弱くなって勝手に涙が出るのよ」
「年って・・・どう見ても俺より年下だろ」
「そうだったー」
泣き止まないヒカリに『どうしたらいいのだろう』と戸惑う。
母さんがやってくれていたように、彼女を抱きしめ、背中をゆっくりと叩いた。
こうしてもらうと不思議と気持ちが落ち着いたからだ。
ひとしきり泣いた後、ヒカリは鼻をかみながら、今度は怒っていた。
「ねえ、その花の精って、何なの!全く酷い男だと思わない!!
大体ねー、子供はひとりで出来るもんじゃないんだぞ!責任をとれよ、責任を!逃げんなー!!」
ひどい鼻声で、身も蓋もない文句を言っている。
「大体、男というのはそういう無責任なところがある!!」
いや、ドヤ顔で俺に言われても・・こっちは被害者なんですけど・・・
それになんだか趣旨がずれていってるなー。
「何? 悪い男にでも騙されたことあるのか?」
冗談のつもりで訊いたのだが、ヒカリはそれに対してはガン無視をした。
「絶対に許せん、そんな男は成敗してやるー!!」
リュードも協力しろと、否応なしに強制参加させられることになったのだった。




