12 思い込みも過ぎれば狂気
ヒカリとリュードは、街から数キロ離れたグリノーというところに来ていた。
街の北部は人口が少なく、シーラさんという人物もそんなに居なかったのだが、条件に該当する有力な情報をもらったので、少し足を伸ばしてここまで来たのだ。
グリノーはこじんまりした村なので、目当てのシーラさんもすぐに見つかるだろうと思っていた。
だが村で聞き込みをしても、誰もそのシーラさんを知らないと言うのだった。
「もしかしてガセネタだったかな、せっかくここまで来たのに〜」
もう暗くなってきたので、今夜は一泊することにした。
次の日、二人はこのまま帰るのもちょっと悔しいからと、観光に行くことにした。
みんなが口を揃えて王家の離宮が立派だと言うので、ちょっと見てから戻ろうということになった。
庭の一部は、一般の人も入っていいようで、近所の人達がのんびりと花を眺められるようになっている。
「美しいお庭だね〜、来た甲斐があったね!」
しかもこれがタダ!!何と心が広いのだろう・・・
リュードが何も返事をしないので「ん?どうかした?」と尋ねてみた。
「いや、何でもない」
彼は首を横に振った。
庭師さんたちがやってきて、各々の持ち場に着き、庭の手入れが始まった。
「あのーすいません、この辺でシーラさんという女性に心当たりはありませんか?」
その庭師さんは女性のようで、日よけを取ると長い髪が落ちた。
「シーラは私ですが」
「か、か、母さん!!!」
「リュード!!!!」
このようにして二人は感動の再会を果たしたのであった。
私たちは立派な離宮に通された。
グリノーのみんながシーラさんのことを知らないと言ったのは、彼女がこの国の王女様であったからだった。
そして男と逃げる発言も、やっぱりウソであった。
伯爵が知らない男性を連れて来て、そう言うように仕向けたそうだ。
次々に明かされていく事実にリュードは憮然としていた。
「どうして教えてくれなかったの?」
「・・・・・・・・ごめんなさい」
シーラさんもなかなか言い出せなかったのだろう。
だけど彼女の半生はリュードも絶句するほどのものであった。
シーラさんはこの国の第4王女として一番最後に生まれたそうだ。
彼女は生まれつき股関節が変形していて、少し足を引きずるようにしか歩けなかった。
そのことを隠したかった国王や兄姉達によって、彼女は王宮の奥深くで人の目に付かないようにひっそりと成長した。
だが兄達が結婚し、子供が生まれ出すと彼女の居場所は段々となくなり、この離宮に連れて来られたのであった。
だがここでの生活は、彼女にとってはそんなに悪いものではなかった。
大きな庭に出ることができたし、ここの使用人たちは親切で彼女をとても大切にしてくれたからだ。
多感な時期、彼女にとってこの離宮だけが、世界の全てだったのだ。
庭師のおじいさんが、そんな彼女のために育ててくれていた10年に一度しか咲かない花が、咲いたその日に、彼女はとある人と出会ったそうだ。
『珍しい花の香りですね』
そう言って、その人はどこからともなく庭に現れたのだそうだ。
『ええ、そうなの!10年にたった一度だけ花が咲くのよ!!』
「私はその花をやっと見ることができて、興奮していたの・・・
彼を不審に思うことよりも感動が勝っていたの。
彼は私の側に来て、二人でその花を見つめたわ!
その人はお気に入りだった本の扉絵から出てきたような、それは美しい姿だったの。
私は彼がすぐ側にいることにドキドキして、ついつい彼を見てしまったの。
『花を見なくてもいいのですか?』とこちらを見ていらして、私たちは目があったわ」
「それで、それで!!」
私は興奮していた。
荒んだアラフォーにこそ純愛が染みる。
続きを聞きたくてしょうがなかった。
ふとリュードの顔が視界をかすめた。
おいっ、何て顔してんだ・・・感情どこに行った?
わかるよ、親の恋愛話って、はっきり言って興味ないよね〜。
あっちのテンションとこっちのテンションの落差がすごいもんね。
「おかーさん、こう見えても若い時モテたんだから!!」とかムキになって言われても『嘘をつくなーーー』って叫びたくなるよね。
子供のときならまだしも、リュードぐらいの年頃にはキツいよね。
だがその後、リュードの表情は真っ青になりだすのだ。
その扉絵の男性こそが、リュードの実父だったからだ。
シーラさんと扉絵の男性がどうなって、そこに至ることになったのかは、さすがに説明してくれなかった(そりゃそうだ、息子の前だもん)
だが彼は、その10年に一度の花が萎んだと同時に、いなくなったのだそうだ。
「彼はあの花の精だったのよ!だから私は、今もこうしてあの花を大事に育てているの」
オッオゥ、シ、シーラサン!! 正気デスカ
「ようやく蕾がでてきたのよ!!もうすぐあの人に会えるわ!!」
何だかホラーっぽくなってきたけど、お母さん病んで無いよね??
これホントに大丈夫??




