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ワイルド・マーセナリーズ(1)

香穂は適度に休息をとりながら、八雲と共に3日間、様々な実験と測定に取り組んだ。

わずかな滞在期間の間じゅう、研究所員や親友たちの間で引っ張りだこになっていた彼女と話し合いを重ね、オタク趣味についても語らった。


つい今朝がた、名残惜しそうにもじもじする八雲を転移魔法テレポートでオークリー=ロッジまで送り届けた時には、ちょっとだけ泣いてしまった。


『よかったね、カホちゃん。また頑張れそう?』

異世界から戻ってすぐに合流したナヴィ・ノワールに、浅く頷いて見せる。


所属が瀬ノ尾市役所から『Floriaフローリア』に変わったと言っても、香穂の仕事に大きな変化があるわけではない。

それどころか、魔導師たちの戦いは日々、激しくなる一方だ。

Floriaフローリア』が正式に魔導師部隊を運用するようになって3日ほどしか経っていないのに、エースと呼ばれて活躍していた魔法少女達ですら苦戦する強力な『獣』が出現し始めた。


現状を重く見た胡桃は、すぐにカウンセリングと福利厚生を専門とする部署を立ち上げた。

魔導師たちに休息時間を多く与えて、心身の負荷を少しでも軽減する試みのためだ。

大人達が誰も考えようとしなかったことを、自分の手でやってみたかったのだと誇らしく言って、今日も胡桃は3階の社長室に消えて行った。


「昼から大事なお客があるから香穂ちゃんも待っててくれよ」とわざわざ念押しされたため、香穂は家に帰らず『Floriaフローリア』の社屋を改めて散策してみることにした。

基本的には勝手知ったる親友の屋敷だが、かねてから計画されていたらしく、3階建ての豪邸はところどころがリフォームされている。


玄関を入ると、すぐに1階の壁という壁をほとんどぶち抜いて作った広大なオフィスルームだ。

商品開発部や外商部、法務部など。

魔法に関する業務も行っているという以外は、至って普通の職場である。

ひとつひとつの部署にお邪魔するのは避けたが、胡桃の計画に賛同した(あるいは利害の一致を見た)優秀なビジネス・パーソンが集まって、多岐にわたる業務を粛々とこなしているのが分かった。


『なんか奥の方からケンカみたいな声が聞こえるんだけど』

「説明ありがと、ナヴィ・ノワール。大丈夫だと思うけど行ってみようが」


諍いをするような声が漏れ聞こえるのはオフィスルームの最奥、社名にもなっているファッションブランド『Floriaフローリア』の開発室であった。

思った通りだ。

ドアをそっと開けて広い部屋を覗くと、ナヴィ・フルールとDr柿園がディベートに興じていた。

ケンカ腰のようにも聞こえるけれど、それは2人とも服飾に強いこだわりを持っているからだ。


「あーらカホちゃんじゃない、いらっしゃーい」

『お久しぶりねカホさん、今このおっさんと熱い議論を交わしていたところなの、コストを重視するか、品質にこだわり抜くかで……一度に20人分の実用的でおしゃれな服を作ってくれと頼まれたら、香穂さん、あなたならどうする? ぜひ聞いてみたいのだわ』

アタシはオネエよ失礼ねぇ、と憤慨ふんがいしつつ、Dr柿園がサイダーを供してくれた。


ファッションのことは勉強してもあまりよくわからないけれど、とにかく事情を聴いてみることにした。

スパイスを加えたサイダーを味わって爽快そうかいに喉を潤し、詳しい説明をDrに求める。

「いずれ社長から発表があると思うけど、新しく戦闘部隊を組織しようって話が固まってんのヨ」

『社長の肝煎きもいり、その名も"ワイルド・マーセナリーズ"ですわよ』

「そこで装備品やらの手配を任されたんだけど、2人が2人とも張り切りすぎちゃっててさァ」


「なるほど。当面は20人で活動するから、その為の準備をして欲しいと頼まれたわけですね」


「引用とまとめをありがとン。ついでにこの場の話し合いをまとめて頂戴ちょうだい、とまでは言わないからさァ。ちょっとデザイン案だけでも見てやってくんないかしら? 中立な意見が欲しいのョね」

『わたくしからもお願い致しますわ』

Dr柿園のサングラスとナヴィ・フルールのぐるぐる眼鏡が同時に光を放った。

……怖い。

2021/6/4更新。

2021/6/6更新。

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