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八雲=ヘイゼルフォード(3)

褒めてもらえるような事をしてきた、している実感が、香穂にあるわけではない。

それどころか……本音を話せば全部がネガティブな言葉になってしまいそうで、それすらも怖い時がある。

出会ったばかりの同い年の先輩に、思わず甘えてしまった。


涙を拭って、自分から身を離す。

顔が真っ赤になってしまっているのを自覚しつつも、もう一度席に就いた。


「ごめんなさい八雲さん、わたし……」

「呼び捨てで良いです、香穂。私も本当を言えば、日本で──あなたの近くで暮らしたいくらいなのよ。陽センパイから話を聞くたびに会いたいと思ってた、嘘じゃない」


笑ってくれればいいよ、と言いながら、八雲が少しも照れることなく言葉を続ける。

「リアルでは会ったこともないのに、気づいたら好きになってた。……迷惑かけることにならないといいけど、と思いながら日本に来た。会えば止まらなくなるって分かってたもの」


「リアルじゃないところで会ってたってことね」

「はい。『ウィザーズ・プライド』で。時々、香穂たちのクエストに参加していたソロの高位闇魔導師ブラック・ウィドウです……絵文字だけでメッセージをやりとりしていました。今はゲームをする時間が取れなくて、自動ログインだけになってるんですけど」


言われてみれば、高難度のクエストには必ず現れてヘルプに入ってくれるアバターがいた。

刀哉に劣らず無口で、絵文字や動作ジェスチャーで会話らしきものを成立させていた。

最近は会えないなぁ、と思っていたところだったのだが、『ヘイゼル』の中の人が現れてくれるとは。


「八雲もゲーム好きなんだ」

「はい。以前は麦秋さんと格闘ゲームでいい勝負ができていましたが……」

「ああー……それは相当だね」

「でしょう? 一時期はゲームが大きな支えだったもの」


本当はゲームやアニメにどっぷり浸かっていたいのだと八雲が苦笑する。

麦秋さんみたいなことを皆が言うなぁ、と思い至って、香穂も同じく苦笑した。

やはり、誰にでも支えとなる物事が必要なのだと思う。


「『闇』の魔法のことだけど……過去に何か辛いことがあった人にしか使いこなせないんだとしたら、悲しくなっちゃう」

「使う人の心にトラウマがあるから闇の魔法を使えるのか、それとも他の魔法のように後から練習すれば上手に扱えるようになっていくのかが知りたい、と」


「うん。上手く言えなくてごめん。言いたいことを伝えるって、どうも苦手で」

「ん゛ー。装備品が歴代の魔導師の戦術とか動きを記録してるってところがきもだと思うんですよね、ミーティングでも話したことなんですけど」


八雲が指を軽く鳴らして転移魔法を使い、自分の杖を持ち出して来た。

"ダークセイバー"よりも長く、装飾的で美しい。


「私の魔法の杖(Magic wand)、"ダークロード"です。たとえばこれをどうにかして量産できたとして、皆がみんな同じように扱えるようになるかって言うと……香穂と同じく、疑問なんですよね。武器や兵器を量産化する時には、使い手がだれであっても同じような扱い方ができるのが理想だ、って何かのアニメで言っていましたが」


魔法の杖を兵器としてとらえていいものかは分からないが、と息をつく。

様々なことを考えるたびに"できない理由"にぶつかってきただろうと、香穂には容易に想像できた。

どんなことも諦めたくないという思いだけが、彼女を支えているような気さえした。


「八雲──大丈夫?」

「うん。私も色んな人に支えてもらっていますから。もっと話しましょう、香穂」


明るく頷きながらも、彼女は左手をテーブルの上でせわしなく動かし始めた。

何かを書いている。英文だ。

絶対に他人には話せない事柄を伝えたいのだろう。

香穂は目下の課題について引き続き話しながら、八雲の指の動きに注意を向けた。


"いっそ魔導師連盟をひっくり返してやろうかと考えることがあります"

"魔導師は大事な仕事を任されているはずなのに、誰も彼も、自由に働く事ができていない"

"私、本当は、何でも自分の思い通りにしたいの"

"そうできないんだったら、組織なんか叩き壊してしまえって"

"杖が言う、指輪が言う。最近はそんな夢ばかり見る……カウンセラー失格です"


どうすることができるだろう、と香穂は考える。

八雲の思惑通りに闇の魔法の研究が進めば、自分達の負荷を減らす事ができる。

魔法についての問題を手っ取り早く解決するなら異世界に頼るべきだが、そんな提案では八雲は納得しない。

同い年の割にはしっかりして見えるけれど、八雲も周囲や彼女自身が思っているほど強くないのだろう。

2021/6/1更新。

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