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八雲=ヘイゼルフォード(1)

胡桃が何の考えもないまま思いつきで行動するのを、少なくとも香穂は見たことがない。

今回、役場から魔導師部隊に関する業務の一部を引き継ぐに当たって、彼女が独自の策を用意していないはずがないと期待していた。


その通りになった。カレンダーが7月に移った途端に、小さな転機が訪れたような気がしている。

ちょっと都合が良すぎると思わなくもないけど、これまで自分なりに頑張って来たことに対するボーナスみたいなものだと好意的に解釈しておくことにした。


「楽になっちゃっていいのかしら」

「別に構わんでしょうよ。香穂ちゃんは自分が苦労しなきゃ駄目だと思ってるの?」


ご機嫌で適温の玉露を喫しつつ、シルヴィアが反問する。

そうじゃないけど──と言ったっきり二の句が継げず、香穂は困ってしまう。

「それに、まだ実際に業務が楽になったわけでもないじゃない。考えすぎよ」

「ぐうの音も出ません」


胡桃たち『Floriaフローリア』の社員がまず着手したのは、私立柊華学園に併設された研究所から人材と器材を借り受けて自社の魔法研究所を建設する事業であった。

『闇』の魔法を根本から見直し、実戦に投入できるようにする──胡桃の発想と研究所員の総意で決まった初仕事を手伝うために、香穂は昨日から一麻留邸にお邪魔している。


先に『闇』の魔導師からなる部隊を設置していたオークリー=ロッジの魔導師連盟本部から、その部隊長である八雲ヤクモ=ヘイゼルフォードを招いてのミーティングを終えたばかりであった。

絶賛エンジョイ中の休憩時間が終わったら、いよいよ八雲との正式な面会だ。


「ちょっと心配だな。緊張してるでしょ、香穂ちゃん」

「まあ……友達も増えたのは増えたけど、やっぱり人見知りしちゃうのも直ってないし」

「同じ力を扱ってるんだから、全く性格が違うなんてことはないと思う。似てる部分を探してみるといいよ」


何とかなるから行って来い、と親友に優しく背中を押されて、香穂は大広間から別室へ向かった。

普段はナヴィ・フルールが使っていると言う小さな部屋は整理され、アパレル・ショップの店内のように美しく飾りつけられている。


八雲は、窓の近くに配置された小さなテーブルの窓側の席に座って待っていた。

「すみません、お待たせしちゃって」

気に(don't)しないで(mind)、たった今来たところです」

「ありがとう」


香穂は静かに椅子を引き、腰かけた。

緊張(Are)して(you)いますか(nervous)? 大丈夫、私もです」

八雲が苦笑して、香穂の前に手を差し出した。

軽く握って開くと、可愛らしいキャンディが2つ出現した。

「おいしいの、どーっちだ? ……ふふふっ」

「……!」


香穂は驚きながらも、赤い包み紙を指さした。

小さい頃に陽ちゃんとよく遊んだ軽いゲームだ。

受け取った包みを開ける。香穂の好きだったいちごの飴だ。


遊ぶように節をつけた問いかけの答えは──どっちもおいしい。


八雲も茶色の包み紙を開き、バターの飴を口に放り込んだ。

2人してかろかろと音をさせながら、何となく見つめてしまう。

明るい銀髪、大きくて赤い瞳。アルビノだろうか、肌も透き通るように白い。

絶世の美少女である。


「"飴玉ゲーム"ですよね、さっきの」

「陽センパイに教わりました。香穂さんならすぐに気付くからって」

八雲が微笑する。

「いつか会えたら香穂さんと楽しくお話をしたいと思っていました。緊張、解けましたか」

「はい」

「よかった。……お仕事、大変じゃないですか?」

「正直大変ですけど、慣れてきました。八雲さんは部隊を作ってもらったんですよね。どうやって連盟を説得したんですか?」

「数字は嘘をつきません──胡桃さんと同じく、事実とデータを使いました。文句もものすごく言ってやりましたけどね、もちろん」


「あはは……。どうして『闇』の魔導師になろうと思ったんですか」

「カウンセラーの先生にとてもお世話になって──そういうお仕事をしてみたいと、早くから思っていました。都合よく魔法の才能がありましたから、近い仕事ができそうだと考えたのです。それに、ぶっちゃけ衣装がかっこよかったんですよね」


「あー、わかります」

「でしょー!?」

2021/5/28更新。

2021/5/29更新。

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