損な役回り!?(2)
跳ぶような足音がする。
近づいてくる。
締めきったドアを蹴破るような勢いで、部屋に飛び込んで来る。
「香穂ちゃん!」
「……陽ちゃん。 何で……」
「走って来た! 魔法使ったら始末書!」
ぜえぜえと肩で息をしながら、陽が後ろにいる。
1分くらいしか経っていないはずなのに。
「1Kmくらい楽勝だっての」と勝ち誇ったように言いながら、近づいてくる。
半ば強引に香穂を椅子から立たせると、お姫様を扱ってでもいるかのように、軽々と抱え上げた。
されるがまま、殺風景なベッドに降ろされてしまう。
ものすごい力だ。
陽が筋トレにはまってるなんて話を聞いたことはないし、火事場の馬鹿力というわけでもないのだろう。
ベッドのすぐそばに座った陽を見つめる。
「魔法、使ったら……始末書なんじゃ?」
「何十枚でも書いてやるわよそんなもの」
たっぷりとお日様に当てた布団みたいな匂いがする。
香穂は、ようやく身体の緊張を解いた。
「……叱られると思ったの。陽ちゃんに」
「それで泣いちゃったの?」
「うん」
「いちばん損な仕事だからかな、と思ったんだけど」
「それは……うん、それもあったかも。ちゃんと出来るかどうかが心配で。うまく出来なかったら他の人が困るし──きっとまた、色んな人に叱られちゃうんだろうなぁって思っちゃって、それで、我慢できなくて」
「察しが良すぎるよ香穂ちゃんは。それに、他人のことを考えすぎる、想像しすぎる。予測を立てすぎる──それも、香穂ちゃんに不都合な予測ばっかり。それじゃあ傷ついたって"やっぱり"って思うだけじゃなんじゃない?」
「……うん」
「不利な出来事を誰のせいにもしないところ、とても強いと思うし……わたしは大好きよ。でも、例えば進んで皆のストレスのはけ口なんかになりたかった? 香穂ちゃんをこの沼に引き込んだわたしが、それを予測できてなかったと思う?」
「……思わない」
「そう。わたしのせいなんだよ、香穂ちゃん」
「……」
「わたしが、今になって、あなたを魔導師に推薦したの。香穂ちゃんが苦しい環境にいるのを知ってて見過ごした。叔母様が居れば大丈夫だって言い聞かせて……助けなかった。助けになろうと思えばいつだってなれたの、それなのに」
告白を聞いても、従姉を責める気にはならなかった。
陽ちゃんの一言で決まったというなら、それは元々、自分に資質があったということだ。
と、香穂はぼんやり考える。
「じゃあ、もっと早く知ってたら? わたしが魔法を諦めなかったら?」
「違う役目になってたと思う。あなたが強くなる──ううん、傷つくのに慣れる前だったら」
香穂は半身を起こすと、従姉の美しい黒髪を撫でる。
変身した時には白い髪飾りの似合う茶色に変化する長髪が、やわらかく指にかかる。
「なら、陽ちゃんのせいなんかじゃない。助けを求めることはいつでもできたのに、わたしがそうしなかった。陽ちゃんやパパやママがどう思っていても、今のタイミングで魔導師になったのは、わたしなの」
「でも……」
「そういうことにさせて。じゃないと、わたし保たない。……ごめん、陽ちゃん」
「わかった」
「ごめんね」
「ううん。一番大変な仕事になるだろうけど、でも、やっぱり香穂ちゃんと一緒に仕事ができてうれしいんだ、わたし」
「そう言ってもらえるなら、わたしも頑張れる。来てくれてありがとうね」
「従妹ひとりの助けにもなれないなら、高位輝光魔導師なんていつでも辞めてやるわ」
「や、さすがにそれはやめて!? いま陽ちゃんが辞めたら絶対ヤバいって……!」
一度は魔法を捨てた自分に声がかかるくらいだ。
魔導師連盟は人員を集めるのに苦労しているに違いない。
いくら何でもこの瀬ノ尾市や日本や世界がどうなってもいいとまでは決して思っていない。
香穂はベッドを降りると、陽から"ダークセイバー"を受け取った。
強烈な魔力と共に、気力が満ちて来る。変身がようやく完了した。
歴代の闇の魔導師たちは、自分と同じように悩みながら責任を果たして来たのだろう。
こうなってしまったからには、香穂もそうするべきだ。
それに、曲がりなりにも、一度は強く憧れた魔法少女の末席に加わることができるのだ。
少しくらい喜んだっていいはずだ。
高位闇魔導師の装備──衣装は、何気にかっこよくて可愛いんである。
2021/4/11更新。




