麦秋(2)
フレンチトーストは完璧だった。
ヨーグルト飲料のおいしいと思っている点も共有できたし、奮発した冷凍フルーツも期待通りだった。
2人と1匹は大いに満足して朝食を終えると、そのまま居間のソファに座って話し込む。
「結構な無茶をしたんだってね」
「うわ、もう話が行ってるの? 早いなぁ」
「嫌味ばっかり言ってくるのが居るのよ──でも、そう言う気質なんだろうな、その人は嫌だ嫌だって言ってる物事をよく見てよく知ってる。ママにとってはいい情報源なの」
笑ったり楽しそうにしている姿は可愛いし、仕事も良くできる後輩なのだと言う。
イヤミキャラが似合っていないためによくブレてしまうらしく、そのギャップも面白いんだとか。
「そういう見方ができるのって、やっぱりママはすごいな。わたしは無理そう」
嫌な言葉や態度を嫌なものとして受け取ることしかできなかったから。
それが負担で仕方なかったから、香穂は引き篭もることを選んだ。
上白糖をふるいにかけるみたいに、付き合う人間を限定して、選んだ。
変幻自在な考え方と強い心を持つ母に、少しでも似ていればよかったのに、と、思う。
「香穂ちゃんは香穂ちゃんの考え方でいいの」
「う、うん……」
「それに、すっごく間接的だけど、彼女も香穂ちゃんを褒めてたよ」
「ええー? なんで?」
「知ってるかもしれないけど──オークリー=ロッジの本部でも、"どうせ何を言っても変わらない"って思ってる魔導師の方が多いんだってさ。忽那さん、残念がってたな」
「忽那さん?」
「うん。香穂ちゃんのクラスメイトにいたよね。その子のお姉さん」
「そっか……」
意見を言う人の方が珍しいとは。想像しているよりも、魔導師連盟は組織として腐り始めているのかもしれない。
母と一緒なのに、何だか複雑な思いに駆られてしまいそうになる。
「香穂ちゃん、お小遣い足りてる? 給料7割カットってかなり痛いでしょ」
「うん。でも大丈夫、節約するし、それに……」
ママには別の形で甘えたいのだと伝えた。
「良い子ね、香穂ちゃん」
半ば強引に母に抱き寄せられて、娘はつい照れてしまう。
「そんなこと」
「あるの。香穂ちゃんは良い子。誰が何と言おうが、私の大事な娘」
「……」
「ずっと守れなくてゴメンね──あなたが元気でいてくれるなら、仕事なんてどうでもよかったはずなのに」
そう出来なかった理由や事情があるはずだ。
この場で聞いてもいいのか迷って、詳しくは聞かないことにした。
髪を撫でてくれるに任せて、別の話をしてみる。
「陽ちゃんは元気?」
「活躍してるよ。世界一とまではいかないけど……やっぱすごいわ、あの子」
香穂が魔法少女のチュートリアルを終えてすぐのタイミングでオークリー=ロッジに転属になった従姉とは、最近あまり話ができていない。
従姉が魔導師として優秀だと認められるのは、香穂も自分のことのようにうれしい。
なかなか会えないだの話がしたいだのと贅沢なことを言っている場合じゃない。
でも……。
「会いたい? いつでも電話していいって言付かってるけど」
「今度、電話してみるね」
何か話さなくちゃ、と思う。
何も話さなくてもいいか、とも思う。
母にとっての理想的な休日って、一体どんな一日なんだろう。
「ママが安心するのって、どんな時?」
「仕事が終わってお家に帰って、少しだけお酒を飲んで、香穂ちゃんのことを考えて、寝る時。どうしたの?」
「わたし……何も知らないから。世界とか、日本で起きてることも。他の魔導師の皆のことも」
「ダディのことも?」
「うん」
「私に分かることなら、私から話すよ。何が知りたい?」
「んーっとねぇ……オークリーにわたしと同じ仕事してる人がいるのかどうか、とか」
「忽那さんと陽ちゃんの受け売りだけど、居るらしいよ。1人じゃ業務を捌ききれないって連盟に文句言いまくって、専属の部隊を作ってもらってるんだって」
「うへぇ……いいなあーっ」
「心の叫びが出たわね」
「ごめん、ママはいつも頑張ってるのに。ママの話、愚痴とか……いつもの仕事みたいに、聞きたいのに」
「いいよ。香穂ちゃんの気持ちが聞けて、ママ嬉しい。これも忽那さん情報だけど、香穂ちゃんの為に動いてくれてる人もいるから。だから、諦めないでね」
「うん……」
2021/5/19更新。




