新たな魔法少女(2)
昼食はジャンクな物を食べてよい事にしている。
カップ麺を残さず食べ終えてから、香穂は恐る恐るPCの画面を開いた。
──まあね。まあ気持ちはわかるよカホちゃん。
ナヴィ・ノワールは決して怒ることなく待っていた。
──僕も、こんな無茶をゲームの運営さんが通してくれるなんて思ってなかったしさ。
ゲーム中に香穂を勧誘することを思いついたのはナヴィではないのだろう。
三人のネトゲ仲間でもない。
彼女がこっそり動いたに違いない。
『陽ちゃんでしょ』
──正解。魔力も借りて来たから、すぐ実体になれるよ。
『OKOK。本当のわたしを見て、がっかりしないでよ?』
"大笑い"したナヴィ・ノワールの姿が画面から消えた。
香穂は慌てず周囲を見回す。どうやらわざと気配を消しているようだ。
「後ろだよー」
丸い声の方へ振り向くと、ドット絵と全く同じウサギのキャラクターが画面から抜け出して来ていた。
体長は手乗りサイズなのに、全身がまるまるとしているせいで大きく見える。
真っ黒な体毛が綿菓子みたくもこもこと広がる様は兎というより羊のようで、食べられるのではないかと思うほど可愛らしい。
『僕を食べちゃダメだよ、僕は復活できるけどカホちゃんがお腹壊しちゃう』
「復活できるんかい」
『ちなみに味はビターチョコレートの甘いやつです! えへん!』
「苦いのか甘いのかどっちかにして!?」
可愛らしくふんぞり返るのに手招きすると、嬉しそうに寄って来た。
両手にぴったり収まったかと思うと、長く巻いた毛がぶわっと広がって香穂の手からはみ出てしまう。
仕方なく膝の上に座らせると、猫みたいに喉を鳴らし始めた。
『ウサギの見た目と羊の毛、そして猫なで声が特徴の変な生き物であります。どうぞご贔屓に』
「自分で言うかなソレ」
『事情ははっきり話した方がいいんだろ。それに、魔導師連盟だけが君のことを掴んでるなんて、僕から見ても公平じゃあない。隠し事を避けるスタイルで行くぜ』
「分かった分かった。で、どうすればいいんだっけ? 陽ちゃんから聞いた事あるけど、魔法のことは一回忘れちゃったから」
『簡単だよ。現実でもこれを受け取ってくれればいい』
ナヴィ・ノワールは何もない空間から、長い杖を取り出した。
『君が使う武器、"ダークセイバー"だ。強いぜ~』
「何でそんなに気楽に……ああー、わたしが怖がらないようにだね。気を遣わせちゃってるねぇ」
目の前のことに無頓着になることが精神的に強くなることだなんて思わない。
けれど、考えすぎたり怖がったりして前に進めないようでは困る場合もある。……と母にも諭されている。
この場に限ってはナヴィの態度を見倣って、簡単に済ませることにした。
いかにも禍々しいオーラを放つ杖を、なんとなく掴む。
「……ひぅっ!?」
『大丈夫? 無理なら離していいよ』
『ダークセイバー』はどうやら、歴代の魔法少女に受け継がれてきた武器であるらしい。
激戦の記憶や『内なる獣』の情報が、強い魔力と共に流れ込んで来る。
何時間もあるアニメを思い切り早回しして見るような感覚。
「……うぅ、魔法少女って大変なんだ……あんな可愛くても、一生懸命戦うんだもんね。そうだよねぇ……」
事情を知ろうともしなかったことも。
魔法を扱えるようになるための学習から逃げ出してしまったことも。
父を嫌いになってしまっていたことも。
全部まとめて誰かに謝りたい気分でいっぱいだ。
『魔法少女も魔導師も心が強くないと務まらない。"闇"の力を扱うなら、特にね』
「わたしにしか出来ないって言ったの、嘘じゃない?」
『嘘じゃない。隠し事しないって言ったはずだろ、嘘もつかないよ。カホちゃんは弱くなんかない、自分で自分の道を選んで進める人が、どうして弱いんだい』
「うん……」
香穂はとめどなく流れる涙を必死に拭い、気分を無理矢理にでも平静に保とうとした。
「訓練とかするのよね。連盟の本部とかに行かなくちゃだめなのかな」
『ああ、大丈夫。カホちゃんの家を用意しておいたから、行けばなんとでもなるよ。本部には稲生見さん居るし、僕もあんまり行きたくないしさ。自宅で完結しちゃおうぜー』
ナヴィは有無を言わせず周囲の物品を浮かび上がらせ、何もない空間に片付けてゆく。
魔導師連盟が標準スキルその一、『アイテムボックス』である。
2021/4/7更新。




