闇の魔法少女の仕事(28) ─一麻留胡桃の場合─
「……っっ! 何でそこまで言われなきゃいけねぇんだよ!? 香穂のこと信用してたのにっ!」
「ほら、すぐ怒る。図星でしょ胡桃。認めちゃえば楽になるかもよ? それに、怒ると隙だらけよね」
香穂が"ダークセイバー"を振るう。
杖が胡桃の右手をしたたかに打ち、剣を取り落とさせた。
鉄壁の魔法防御が崩れ、高位闇魔導師の魔法が効力を示し始めた。
複数の小さな蜘蛛が糸を吐き、彼女の身体をがんじがらめにしていくイメージを、無理矢理に共有させる。
胡桃は地面に崩れ落ちて、それからすぐに自らを抱きしめた。
「くっ……」
「剣がなければ何もできない? 周りに誰かが居なければ何もできない? 甘えていなければ生きていけないと思ってる?」
香穂の言葉は、すべて胡桃が常に思っている事だ。
必死に押し隠して、誰かのために戦っていれば、考えずに済むと思って来たことだ。
彼女の心を片手で握りつぶしているかのように、香穂には容易に理解できる。
庭の芝生に膝をつき、逃れようとする瞳を視線でからめとる。
「傷つくのは嫌? 痛いのは嫌? でもそれも言いたくない? 反応が怖い? 愛されないのが怖い?」
「ああ、ああ……そうだよ! 全部、香穂の言う通りさ。あたしは弱いんだ。困ってる誰かの話を聞いて、軽くアドバイスでもすれば……次はあたしの話を聞いてくれるだろ」
「だから相手を選んで相談を受けていたの?」
「うん……」
「誰にも言えなかった? 後ろめたくて? 軽蔑されて、好きでいてもらえなくなるから?」
「そうだよ」
「好きでいてもらわなきゃ、どうして困るの? 他人なんてどうでもいいじゃない? 外から胡桃を見て、近づいてきてるだけなのに?」
「どうでもいいなんて、思いたくないんだ……あたしは、たくさん助けてもらって来たから……」
「助けてくれた? 本当? 体操のコーチは?」
「……みんなを、変な目で見てた。お父さんに頼んで更迭してもらって、そのあとストーカーしてたのがわかって裁判になった。今はどうだか知らない」
「悪い人だったってわかるまで、"みんな"はどうした?」
「あたしを非難した、金持ちの娘だから、好きじゃない先生を代えさせたんだって」
「金持ち? 本当? お父さんは?」
「カネがあったのは本当。パパはいつからか、利益ばっかり求めるようになった。違法なことはしてなかったみたいだけど、下請け会社の人をいじめたりしてた」
「いじめてるのを見た? 胡桃は?」
「誰にも言わなかった。お小遣いをもらって」
「嬉しかった?」
「ぜんぜん。でも、まだ言えてない……」
「味方が居ないから?」
「ちがう。ママは胡桃の味方」
「本当?」
「成績がいいと褒めてくれた。習い事もたくさんした。努力も人を蹴落とすのも嫌いだった、けど頑張ったから、いつも1番か2番を取れてたんだ。成績悪くても叩かれたりはしなかったよ」
「本当? 最近は?」
「……お父さんの悪口ばかり。ケンカも、あたしの前で。有利な離婚にするのに夢中で、あたしの方を見なくなった。好きでいさせてくれなくなった」
「それでも、それなのに、頑張ってないといけなかった? 誰の前でも? 友達の前でも?」
「うん。みんなすごいよね。遊璃は魔法の天才だし刀哉は古流剣術を守ってる。香穂も、自分の得意なことを早く見つけて、それで進んで行ける環境を自分で作った」
「胡桃だけが劣っている? 4人の誰より上手に戦えるのに、そうしないから?」
「あたしは誰にも暴力とか振るいたくなかった。両親や周囲にまでそうしてしまいそうだから、怖くて。だから戦って、自分が傷つけばいいと思ってた。ずっとだ……誰かを守ってれば言い訳も立つしさ」
「乱暴にしてみたい? 思い切り暴れてみたい? 胡桃も天才なんだって、認めさせたい? 努力してるんだって、分かって欲しい?」
「……そうだね、香穂ちゃん」
胡桃が蜘蛛の糸を自力で断ち切って、立ち上がる。
少し遅れて、香穂も。
「嫌な役、させちゃったね。これでケンカ相手もして欲しいなんて、ムシがよすぎるよね」
「……だいじょうぶよ、胡桃ちゃん。それが仕事──ううん、わたしが胡桃ちゃんを助けたいの」
2021/4/28更新。




