闇の魔法少女と後輩たち(1)
稲生見香穂は憤慨していた。
新しく後輩になった3人のための義憤であった。
アテにされた割にテキトーに済まされた感のぬぐえない資格試験から、2週間が経っている。
シエル殿下の取り扱いについてついに結論を出した魔導師部が、ようやく香穂とナヴィ・ノワールの申請を通し、魔導師連盟の基準を適応して、3人の少年少女に対する正式な評価を下したところだ。
「もぉーっ、何なのよこれはっ!」
アッシュ=アンダーソンについての低すぎる評価とその理由が嫌と言うほど羅列された数枚の文書を、香穂は拠点の事務机にぶちまけた。
魔力をどれだけ保持しているかを示す基準、『魔力量』の評価が最低ランクの『D』。
体力や知力、言語能力についても軒並み『D』が並び、唯一、対象を空中に長時間浮遊させる特殊な魔法を持っていることのみで、魔導師の資格を得る事を了承された──というようなことが書かれてある。
ナギとアッシュの姉弟は、件の資格試験が終わってすぐに『蒼い鳥』が管轄する総合病院で診察と手術を受け、それぞれ身体機能を劇的に改善させる事ができた。
その上で体調を万全に整えてからの、魔導師連盟による評価だったのである。
それがどうだ! アッシュのせいでは決してないのに、浮遊魔法を除けば彼に価値はないとでも言いたげな、この無礼きわまる文書はっ!?
軒並み優秀であると太鼓判を押された残る2人と比べて、この扱いの違いといったら!
『カホちゃん、気持ちはわかるけど落ち着いて。連盟からの評価を覆して化けた人はいっぱいいるさ』
「むぅぅ、たとえば?」
『僕が最初に担当したシラヌイちゃんがそうだった。PCで検索かけてみな、"枢 不知火"だ』
苗字を入力するだけで該当者が出て来た。
枢不知火──高位闇魔導師。最初期の能力評価オールD。
「オールDって、これマジで?」
『この場合、僕は嘘をつかない。あの子のこと……その、大好きだったから』
補助者がうっかりバタ惚れしてしまう人物。
装備品が持つ記録と記憶の中でも特にすさまじい戦績を上げていた、『闇』の魔法少女がまだ戦場に出て『内なる獣』と戦っていた頃の、エース中のエースだった人。
その人も、最初から評価されたわけではなかった。
『努力の人。他人の痛みや苦しみに、心から寄り添える人。ついでに言えば当時の魔法少女の稼ぎ頭。随分と子ども達に夢を与えてたと思うぜ……』
「彼も、枢先輩みたくなれるのかなぁ」
『きっとね。目立つのは"雷"の魔導師を引き継げそうなナギとか、純粋なアタッカーのニルスだけど、アッシュがいれば立体的な戦略が採れるだろ。彼も努力を苦にするような人じゃないだろうし』
「そうだね……わたしが世話を焼くまでもない、か」
『そんなことないさ。3人は異世界から来たばっかりだし、親身になれる人が多い方がいい。カホちゃんならできる──この2週間の間に何人と面会したと思う?』
「ほぼ3日に1回、5人でござるよ。みんな病んでるんだね……」
敵も味方もみーんな病んでるような気がしてきつつある。
このまま魔導師の数を増やすのが先か、『内なる獣』が爆発的に増えてどうしようもなくなるのが先かの、先の見えたレース・ゲーム。
現状を打開できる方法なんて、あるんだろうか?
『カウンセリングとか、戦い以外のエンタメとか。『内なる獣』が出てくるようになってから、今まで軽く見られてきた物事の価値を復活させていくしかない──だろうね。カホちゃん1人だと大変だけど……やってみる?』
『内なる獣』と『魔導師』の戦い。
現在の娯楽で言えば、香穂たちの世界でこれ以上のものを見つけるのは難しい。
古今東西、他者が命がけで戦う様子を、絶対に安全な場所から熱狂的に見守ることほど楽しまれてきた娯楽も少ないだろう。
既存のエンタメが絶滅してしまったのではなくて、今は目立たなくなっているということを、ナヴィ・ノワールは言いたいのだ。
手っ取り早いストレス解消の方法が、システムとして確立されてしまっている、と。
「エンタメの復活か……なんか話が大きくなって来ちゃったな」
『……君をがっかりさせたかったわけじゃない。ただ、それだけ、出来上がってしまった仕組みを変えるのは難しいってことだ』
刀哉も同じことを言っていた。
どれだけ疲れてもどれだけ憂えても、たった1人で現状を変えることなんてできない。
「……」
香穂は黙って台所に立つと、後輩たちの好きなスイーツを作り始めた。
2021/4/27更新。
2021/4/28更新。




