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闇の魔法少女の仕事(13) -ナヴィ・ノワールの独白ー

「ありがとうございました、稲生見さん。これからは僕が……いえ、これ以上は虫が良すぎますね」

「ええ。その先は、御影先生だけに聞かせてあげてください」

不破誠は香穂に深く一礼してから、赤面したまま彼に身をゆだねる恋人を軽く横抱きにして帰って行った。


気障キザな男』

「似合ってるからいいんだよ。それにナヴィ・ノワールは人のこと言えるのかな?」

『無理だね』

「でしょ」


香穂は補助者の反応にケタケタ笑い、昼食の準備に取り掛かった。

『……僕ね、カホちゃん』

「んー?」

自分で作り置きしたピザトーストをオーブントースターに入れてタイマーをセットしながら、ナヴィ・ノワールの話を聞くともなく聞く。


『皆のストレスを受け止めるだけだったら、無理に高位闇魔導師ブラック・ウィドウだけがそうしなくてもいいんじゃないかって思い始めてるんだ』

補助者マスコットがそれ言っちゃ駄目でしょ。わたしが魔導師連盟にチクったりしたらどうすんの?」


『担当外されても暫く封印されてもいい。君にだけは話しておきたい──僕は誰より君を信用してるんだ』

トースターがチリチリと音を立てる。

食パンが焼けてゆくごとに、香ばしい香りが台所を包み込むようだった。


「わかったよ、ナヴィ・ノワール。誰にも言わない、お父さんにも」

『ありがとう』

ひと呼吸置いたナヴィ・ノワールが、考え考え口を開いた。

『御影先生が嘆いてたみたいに、今は言葉の力が軽んじられてる。戦い続けなきゃいけない以上、当たり前なんだけど』


「うん」

『でも、結局カホちゃんは皆のカウンセリングみたいなことをしなきゃならなくなってる。ケンカしたり愚痴を聞いたり、相談に乗ったりしなきゃいけない──これって本当は、たった1人で続けていけることじゃないよなって、今更だけど思うんだ。今まで気づかなかったのかって言われたら、どうしようもないんだけどさ』


彼がこれまでに何人の高位闇魔導師ブラック・ウィドウを担当し、どれだけ辛い業務を見て来たのか、香穂には分からない。

話してくれない限りは知りようがないことだ。

「ナヴィ・ノワール、おいで」

『……うん』


香穂は根掘り葉掘り追求せず、補助者マスコットを膝に乗せた。

まだ肌寒い日もある春だ。

彼の羊毛みたいな手触りの毛並みが暖かく、心地よい。


高位闇魔導師ブラック・ウィドウはね……魔導師の中でも、特に離職率が高い。短い期間で辞めてしまう人が多いんだ。考えてみりゃ当たり前だけど』

「実際わたしも、かなりしんどいなーと思うことが多いね。最初に思ってたのとちょっと違う感じだし」


『そうだね。僕としても、君には主に君の幼馴染たちと関わって行ってほしいと思ってた。ゲームの中みたいに、小隊パーティ組んで活動できればいいと思ってた。あの三人だったら君のことをよく理解してくれるだろうと思って……正直言って、アテにしてたんだ。でも、現状はどうよ? 全然違うことになってる』


「だから役場の人達に批判的なんだね。思った通りの仕事ができてないのは、ナヴィ・ノワールも同じだったってわけか」

『そう、なんだろうな。ちゃんと厚遇するから勧誘してくれって話だった。陽ちゃんの推薦があったのはもちろんだけど、稲生見さんの意向でもあったんだよ』

「そっか。お父さんが……」


『君があの人のことを"パパ"って呼ばなくなってから、気づいたんだ。この仕事を始めちゃったせいで、君たちの距離がどうしようもなく開いちゃったってことに。僕は……魔導師連盟は、君から家族を盗んでしまった』


「ナヴィ・ノワール、それだけは違う。距離を言うなら、わたしとお父さんは最初から離れてた」

『え』

「見たことない? わたしの戸籍謄本こせきとうほん補助者マスコット権限ですぐ見れるでしょうに」

『だって、そんなの一番のプライバシーじゃん。勝手に見るわけないよ』


香穂の母は、絵に描いたように正直な人物だ──だから信用できるのだけど──香穂が引き篭もることを選んだとき、いやそれ以前から、何でも話してくれる人だった。


香穂は母から色々なことを学んだ。

両親の実の娘ではないことも、ちゃんと教えてもらったのだ。

2021/4/20更新。

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