闇の魔法少女の仕事(11) ─花咲はやての場合─
歓談を楽しみながら豪華な昼食を食べ終え、充分な食休みまで取った。
少しばかり荒みかけていた香穂の心も落ち着きを取り戻し、万全の態勢で仕事に臨めると自覚できた。
もう大丈夫だ、とやんわり伝えると、優しい三兄妹が丁寧な言葉で依頼を改めてい言い置き、次男の八尋を残して帰って行った。
香穂は依頼人の許しを得て高位闇魔導師に変身し、ソファに深く腰掛けた。
「今日は僕の依頼を引き受けてくれて、ありがとう。同じ年だし、敬語ナシでいいかな」
「うん、いいよ。どんなお話なの?」
「……僕ね、身体と心の性別があってないみたいなんだ。いきなり相談しても困らせちゃうだけだなって思ったんだけど、花火が香穂ちゃんに頼ってみればいいって言うから……。ごめんね」
もちろん、香穂は半人前の魔導師であって専門の医師ではない。
話を聞く限り、八尋も兄に手伝ってもらったりして自らの性別違和について良く調べて理解しており、本題がそれでないことがすぐに知れた。
人数としては、香穂が関わった人々はまだ多くない。
けれど、最近ではちょっとしたカウンセリングみたいな仕事も含んでいるのかな、と思うようになった。
ただの引きこもりでしかなかった自分に専門的なことを話したり実用的なアドバイスをしたりすることができるわけではないと分かっている。
だから香穂は、"ダークセイバー"を始めとする装備品の機能に全幅の信頼を置いている。
「香穂ちゃんの魔力を貸してくれないかな、って思ってて」
もう本音なんか見抜かれちゃってるかもだけど、と苦笑しながら前置きして、八尋が小声で本題を切り出した。
「『Fragile』の中に、好きな子が居るんだ。その子も性別違和で……」
「ほほう。どの子か聞いても良い? 誰にも言わないし、何だったらこの記憶だけ消すし」
香穂は飽くまでも冷静に、5人のサイン入りの集合写真を持ち出した。
『Fragile』が『ウィザーズ・プライド』とコラボした際に記念のグッズとして販売された物で、香穂の趣味を把握している一麻留胡桃が買い求めてくれた大事な品だ。
「や、別に記憶消したりしなくてもいいけど」
なんて笑いつつも、恥ずかしそうに赤面しながら、八尋は写真の中の1人を指差して見せた。
「おお~、詩緒くんじゃん!」
「うん……」
『花咲はやて』は身体の性別が女性、心の性別が男性。
はやての好きな『空木詩緒』は、身体の性別が男性で、心の性別が女性。
「わたしから見れば、何か問題ありますかって感じだけど──」
香穂は、他にどうすればいいかよく分からないこともあって、ただ正直な感想を述べた。
「でも、二人にとっては、そうじゃないってことよね」
「うん。詩緒ちゃんはかなり悩んでる。僕が支えになりたいんだけど、僕も弱いから」
「“はやてちゃん”って呼ばれるのがまだちょっとキツい……とか?」
「そうなんだ。家族の皆が男の子として接してくれたし、今でも周りの人がよく分かってくれるから。甘えちゃってるなんて思いたくないけど」
芸名とは言え、中性的な名前を用いてみたくなる気持ちが、香穂にも少しは理解できる。
香穂だってゲーム上のアバター『ストレイ・キャット』になりきることを支えにしてきた。
目の前で苦悩をのぞかせる不破八尋は、芸能活動をする以上に、生きてゆくために『花咲はやて』を必要としているのだ。
空木詩緒との恋に堂々と進むのが八尋の目的だと理解できたけれど、それとは別に、八尋が香穂の魔力を借りたいと申し出た理由が気になって来る。
根掘り葉掘り尋ねるのはどうかと思ったし、できればそんな事をしたくはない。
ナヴィ・ノワールに目配せして確認する。
同意を示して軽く頷いてくれた。
即決だ。いつも通りの。
それが一番楽な形だと思う。多分、お互いにとって。
「マジでっ!? え、なに、理由とか聞かなくていいの? かなーり借りちゃうよ? 返せないかもだよ? ホントにいいのっ!?」
「ゴシップ雑誌とかワイドショーの仕事じゃないからね。それに、いろんなリクエストに応えることになるって、わたしも尊敬する人から聞いてるのよ。というわけで、魔力のレンタル引き受けました」
2021/4/16更新。




