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休戦

「……香穂ちゃんってすごいと思うんだけど、私だけかな」

全魔力を使って(多分わざとだ)召喚した水のドラゴンを苦戦の末に倒されたシルヴィアが、膝から崩れた親友に肩を貸しながら言う。

魔力と身体能力を余すところなく駆使したことで、すっかり機嫌も良くなったようだ。


「そ、そうかなぁ……でも、そんな気がして来ないでもないな。ありがと」

香穂は懸命に強がりながら答えたが、手も足ももう言うことを聞かなかった。

「とっ……刀哉に弟子入りとかした方がいいかなぁ」

「色守流の月謝、けっこう高いよ。あと刀哉にも色々あるし」


「うかつでした……」

「向上心があるのは良いことよ、香穂」

"香穂ちゃん"と呼んでくる時と呼び捨てにするときが両方あって、その基準が未だに分からないけれど、何だか対等な人間として認められているようでうれしかったりする。


ほら、と手を差し伸べられるままに、香穂は親友の背中に背負われた。

運動不足と(ちょっとだけ)ジャンクな食生活で、横にも成長してしまっているはずなのだが、彼女は少しも文句を言わなかった。

「こんなこと言うとヘンなふうに受け止められちゃうんだろうけど、女の子は少しふくよかな方がいいと思うんだよね。柔らかくて優しい感じがするっていうか……そう言うのが好きなのもあるんだけど」


分からなくはない、と小さく答える。

辛いはずだ。優しさに触れなければならないはずだ。豊かさに包まれているべきなのだ。

異世界人の強靭な身体はともかくとしても、一度でも強い殺意に駆られてしまった精神は。


香穂は少しも迷うことなく決断した。

「わたしのぬいぐるみ、あげるね。あとでコレクションから一緒に選ぼう」

「いいの?」

「ふわふわぜいともふもふ勢の力を借りよう。遊璃ちゃんは今すぐ癒されなくちゃいけないんだよ」


「ありがとう、香穂ちゃん。ずっと親友ともだちでいてね」

「もちろんだよ。頼ってくれてうれしかった。ずっと仲良くできたら、うれしいなぁ、なんて……」

我慢できなくなってあくびをしながらでなければ、誓うような香穂の言葉ももう少し格好がついたかも知れなかった。


──。

徹夜で模擬戦ケンカしていたにも関わらず、遊璃は平気な顔で、香穂の家から学園へ登校して行った。

香穂はといえば日課の日光浴を朝日のあるうちに済ませた途端に我慢できなくなり、朝食をサボって昼過ぎまで眠りをむさぼっていた。

特別サービスだなんて言って昼食に握り寿司の出前を頼んだナヴィ・ノワールが、どこかウキウキした様子で待つ中、全く別の人物がドアベルを鳴らした。


「不破です」

の声に少し慌てて玄関まで出向くと、菓子折りを持った青年が待っていた。

塩顔のイケメンってやつなのだろう。二次元から抜け出して来たかのような格好良さだ。

「妹がお世話になったとお聞きしたもので」と微笑むけれど、目の奥が笑っていないようにも見える。


香穂が素直に菓子折りを受け取ると、実に整った一礼をして、そそくさと帰ろうとする。

「あの!」

「……何か?」

「違ったらごめんなさい、何か困っていらっしゃることがあるんじゃないかと思って」


変身したまま応対したことを少しも気に留めていないことや、目が笑っていないことなど、不破と名乗ったこの青年には気になる点が多い。

当然、男性として魅力的ではあるけれど、それは二の次──左手薬指の指輪を見れば、彼がどのような状況なのかは考えなくても分かるし。


「なきにしもあらず、と言ったところです。先ほどまでこのあたりで強烈な魔力が交錯していたように感じたのですが……貴女はお怪我などされていませんか?」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」


「それならよかった。くれぐれも無理をなさらないようにと祖母から言付かって来ましたし、僕もそう思います。気を付けてくださいね、稲生見香穂さん」

「ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみませんと、お祖母さまにお伝えください」

「わかりました。では、またいずれ」

軽く一礼して、不破青年は隣家へと帰って行った。

2021/4/15更新。

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