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闇の魔法少女の仕事(8) ─二々山遊璃の場合─

二々山遊璃(ににやまゆうり)ことシルヴィア=ローンは、生まれついての魔導師である。

日頃はひた隠しに隠している膨大な魔力の発動には一切の補助を必要とせず、担当の補助者マスコットすらついていない。


それもまた彼女の孤独を深める原因なのかもしれないと思うが、今の香穂に余計な思考を追及しているヒマなどない。

剣と魔法の文明が強く活きる異世界に生まれた者ならではなのか、魔力だけでなく身体能力もめちゃくちゃに高い。

目立たないキャラクターを目指して来ただけに、彼女の身体能力が発揮される場面も、体育の水泳の時間のみに限られてきた。


でも、今はそうじゃない。

馬鹿みたいな威力の攻撃魔法と格闘技のプロかと思うほどの体術を組み合わせて駆使し、『内なる獣』どもには決して存在しえない(と言われている)高い戦略性と思考力でもって容赦なく攻め立てて来るのだ。


「タバコの火傷なんかさ……ホントはきれいに治せるんだよ、私。治癒魔法も要らないの」

無造作に振りかざした杖から、鋭い氷の矢が生み出された。

隙間なく繰り出した鋭い蹴りを紙一重で避け、氷の矢を弾き落とす──香穂のローブと靴は戦士の動きまで知っているらしい。

「でも、治さないんだ」


伯父が憎いからだ。

憎くて憎くて仕方なくても、本当の姿になって手の爪をちょいと振ってしまえば、自分の人生の方が終わってしまうからだ。

傷を治せるとわかってしまったら、もっともっとエスカレートしていくのが、考えなくても分かるからだ。


シルヴィアはどうやら、思うことを全部言葉にしてくれているようだ。

日ごろからは考えられない早口で、それこそ流れる水のように話し続けてくれる。

「私、泳ぐの大好き。身体が水を求めてるのかなって考えることまである。ストレス解消ならお風呂とか水浴びとか泳ぐのでいいんだ、でもね、でも、最近はなんか我慢ができなくなっていくみたいで、怖くってさ……本音、伯父に言っちゃったんだ」


「何て言ったの?」


「新しいところに一人で住んでみたいって。学校とかの環境を変えて、もっと泳げるようになりたい、って」

「伯父さんは?」

()()をやめるつもりはないんだってさ。『拾ってやったんだから少しは俺の役に立てよ』とか言いやがった。絶対オフレコで頼みたいんだけど、その時初めて殺してやりたくなったわ」


口調こそ暗くなったり苦しくなったりしているわけではない。

けれど、感じる。

"邪智の指輪"が伝えてくるまでもなく。

異世界の天才魔導師シルヴィア=ローンは、怒り狂っている。


それを否定する気など、香穂には少しもない。

彼女の言葉を引き出しながら、有り余る魔力を受け止めるだけだ。


またも、シルヴィアが杖を振り上げる。水で形作られた巨大なあぎとと牙が香穂を襲った。

いつもなら結界で守ろうとするところだが、『闇夜のノクターン』に使う魔力を練っている場合でもない。

"ダークセイバー"の力を信じるしかなかった──杖に魔力をまとわせて、大きく振る。

いつか色守刀哉しきもりとうやが見せてくれた剣術に及ぶべくもないけれど、何もしないよりいくらもマシだ。


「……痛い」

反撃が功を奏してしまった。シルヴィアの驚異的な集中力が途切れ、魔法の行使も止まる。

刃がかすめたように、彼女の頬がわずかに切れている。

「ごめん! 大丈夫!?」

「まだ足りないよ、香穂。傷つけられるなら貴女からがいい」


シルヴィアは頬の血を指で拭うと、再び杖を構え直した。

長い杖が強く輝き、次々と攻め手を彼女に与える。

回転させれば渦巻きが起き、横に振り抜けば氷の刃が現れた。


親友がしっかり手加減してくれているのが分かるのに、香穂はいつも通りの防戦を強いられる。

ローブと靴の命じるままにに身をゆだねていなければ……とっくに重傷を負っていただろう。

それでも、なんとか不利なケンカくらいにはなっているはずだ。シルヴィアの表情を見る限りは、自分の推測が間違っているとは思えなかった。


幼馴染と傷つけあうなんて思いもしなかったけれど、これで彼女の樹が少しでもまぎれるならいいと思う。

彼女の環境を変えてあげる事ができない以上、格闘戦なんてごく間接的な手段でしかないけれど。

できることをすればいいのだと気分を切り替えて、香穂は親友が召喚した翼を持つドラゴンと対峙する。

2021/4/15更新。

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