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闇の魔法少女の仕事(6) ─二々山遊璃の場合─

「香穂ちゃんってすごいと思うんだけど、私だけだったりするのかな」

「そうかな? 自分じゃよくわかんない。でも、ありがと」


二人と一匹ぶんの皿を手早く洗い終えて、香穂は幼馴染の賛辞に応える。

疲れた時や遅く起きた昼時にインスタントだったりジャンクだったりな食べ物を口にする以外は、基本的に自炊をこなして来た。

ごはんを作れるのは当たり前のことではあるのだけど……褒めてくれる人が居るって素敵だ、と思う。


「先にお風呂入る?」

「長いよ」

「知ってる。ゆっくりでいいから」

薄く微笑んだ遊璃が居間を経過して風呂場へ向かった。


香穂の家は横並びタイプの2LDKだ。

一般的にリビングを配する位置に魔導師(自分から『魔法少女』と名乗るのが何となくおこがましいと思ったりする)としての拠点がでかでかと存在している以外は、普通の間取りの普通の自宅である。


幼馴染の長風呂に慣れている香穂は相棒と協力し、寝室の可動式の壁を動かして仕切りを作る。

『来客用のベッドも買ってあるよ』

「用意がいいのね……予知?」

『僕は気遣いのできるマスコットなのです。ちなみに予知は使えない』

ふんぞり返った相棒に頼んでそのベッドを持ち出してもらい、お泊りの用意を整えた。


拠点で寝てるからね、と告げたナヴィ・ノワールは、さっさと歩いて行ってしまった。

彼なりの気づかいだと思うことにして、お風呂の用意を整える。

今そうするかどうかは遊璃ゆうりの気分次第だけれど、昔はよく一緒に風呂に入っていた。


速足で宅内を歩き、風呂場の扉をちょいと開けて顔をのぞかせる。

湯船には遊璃が浸かっている。

「一緒に入ってもいい?」

「どうぞー。ぬるいよ」

「全然OK、ぬるま湯大好き」


テキトーな部屋着をポイポイとカゴに放り込んで、強めのシャワーを浴びる。

鼻歌なんか歌いながら身体を洗っていると、

「……何か、久しぶりな感じ」

遊璃が小さく話しかけて来た。

適温の風呂に入ったことで、少しは機嫌がよくなっているようだ。


「だね。前はよく四人でお泊り会とかしてたのに」

「……みんな、変わったってことかな」

「色々あるもんね」


遊璃が湯船の端へ移動して作ってくれた場所に、香穂は注意しながら身体を滑り込ませた。

「むぅ……いつの間にそんなに成長したのよ」

「一体どこの話をしてますかっ!?」

「いいじゃない、減るもんじゃなし」

「う……ま、まあね」


相変わらず薄くにじむように、けれど確かに、遊璃は笑っている。

異なる世界で生まれて戻って来た彼女の肌はとても白く、短髪も極めて特徴的な瑠璃色だ。

本来の二々山遊璃(ににやまゆうり)は他人が隠しもせずに妬んだりやっかんだりするほど美しい。

だからこそ、理不尽な憎悪と共に押し付けられた煙草の形の多数の傷跡が、余計に痛々しく思えた。


昼間に現れた『内なる獣』による役場への被害は全くなかったというから、普段は隠しているこの姿をも晒して本気で戦ったに違いない。


「気づいたら動いてた、って感じかな。後であんな面倒なことになるとは思わなかったし」

「そっか……だからインタビューされて困ってたのね」

「市長賞はしっかり貰ったけど」

「あはは」


「……これ、誰にも内緒なんだけどさ。私、いつも自分が魔導師なんてやってていいのかって考えてんだよね。守るどころか傷つけたい奴とかいるし」

「うん」

遊璃の活躍ぶりを伝え聞く少ない機会があると、香穂も同じ事を考えてみたりしていたものだ。

『剣と魔法の世界』で生まれて5歳まで過ごした彼女が、その異質な才覚を発揮して──時には無理や無茶をしてまで守る価値が、この街にあるのかと。


「まあ、まだ続けてるってことは、私にも分からない理由が、私の中にあるってことなんだろうけどさ」

「……うん。わたし、聞いてるだけになっちゃってて、ごめんね」

「なんで謝るの? 話して楽になれることって、けっこう多いんだよ」

「そうだけど……」


「ねえ、香穂ちゃん。もし、もしも私が『内なる獣(ビースト・ウイズィン)』になっちゃったら。そしたら、香穂ちゃんが止めてくれる?」

「当たり前だよ! わたし頑張るからさ、ちょっとでもヤバいと思ったら、すぐ来てね。絶対だよ。何なら今日これからだっていいんだからね」


「そんな都合よくは行かないと思うけど……まあ、よろしくね。あと事前に謝っときます、迷惑かけてごめんなさい」

最近ちょっとヤバそうだから暫く泊めて欲しいという切実な依頼を断る理由など、香穂には何一つなかった。

2021/4/14更新。

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