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戦い終えて(2)

「ちょっとおぉぉ! 誰か説明してよぉ!」

生まれて初めてではないかと自分で思うほどの大声を上げた。

不知火が気づいて(あるいは最初から説明役だったのか)、すぐに香穂の前に降り立った。


「なーに。()()()()()()サプライズさ」

「それで3階建ての家が建つってどういうことなの!?」

「え? 増築してるだけじゃん? ああーデザインとか気に入らなかったかい? やっぱり相談するべきだったかねぇ……あたしと麦秋からの、プレゼントのつもりだったんだけど」


「あ、いえ、そのぉ、気に入らないとか、全然そういう訳じゃない、んですけど」

「なーんかよそよそしいなぁ。知らせなかったのは悪かったけどさ、もうただの先輩後輩じゃないんだぜ? 例の約束、もう忘れちゃったのかい」

「お、覚えてますよ。忘れるわけないもん……もしかして、もう手続き終わっちゃってるとか?」

「察しがいいねぇ。──ほれほれ、香穂ちゃんだって疲れてんだ。新しいママに甘えてもいいんだよ」


顔を真っ赤にした養女むすめのしどろもどろな様子が面白いのか、少しばかり意地悪な笑みを浮かべた不知火が香穂をからかう。

「むぅぅ~っ、ま、ママのいじわるっ」

思い切って開き直り、不知火を『ママ』と呼んだ。

怒ったフリをしたままで(似合わない)、両腕を小さく広げて微笑む不知火の胸に飛び込んだ。

よく頑張ったね、と言いながら、やさしく頭を撫でてくれる。


すこし冷たい手の感触が髪を通るごとに、短い間に突然の事態にさらされ過ぎた心が落ち着く気がした。

麦秋が既に不知火と一緒に生活している(そして自宅の3階に引っ越して来る)ことを聞き、物凄ものすごくうれしいと素直に伝える。

すぐ傍で倖が見守ってくれていることを思い出し、冷静になって尋ねる。


「……法律とか、いろいろ、どうやったの? まさか役場に武器とか持って突撃したんじゃ」

「ないない。あたしゃ異世界人だよ。籍入れるかどうかだの同居相手の性別だの気にしなくていい付則きまりがあるだろ。あたしが思う魔導師連盟の最高の功績がさ」


「……そうだね。そうだった」

「そうさ。あたしらなら、望む通りに家族になれるんだ」

「うん。忙しすぎていろいろ吹っ飛んでたみたい。ごめんね、不知火ママ」

「香穂の素直なの、好きだよ。がんばるのも、強いのも優しいのも全部。あたしは今まで母親になったことがないから不足も不満もあるかもだけど……香穂をずーっと大事にするからね」

「よろしくね、これから」


新しいママ──麦秋ママが一番愛する恋人のことを、香穂はまだ、ほとんど知らない。

とんでもなく戦いが上手なことだけだ。今まで、ずっと遠い場所から、名前も顔も知らない先輩たちと一緒になって助けてくれていたことだけだ。はすな言葉遣いが良く似合ってて、魔法で若さを保っていることくらいだ。

好きな料理は何だろう? 趣味は? 好きな旅の仕方は、休み方はどうだろう。

欲しいと思っていた全部が手に入って、長いこと見ていた夢までも()()()()()()()()()()()で叶ってしまいそうなとき、不知火ママならどうするだろう?


「あのね、不知火ママ」

「何だい香穂ちゃん」

「訊きたいこと、教えてもらいたいこと、いっぱいあるの。話したいことも……」

「ああ、いいよ。あたしもたくさん話したい。遊びたいし、香穂ちゃんの話を聞きたい。麦秋が──香穂ちゃんが、あたしを選んでよかったって思ってくれるように」


あこがれの存在だった枢不知火と、新しく、ごく親しい関係を結んでゆく。

他人と深く関わりすぎない方がいいんだと勝手に決めて、その様に過ごして来たから──正直、コミュニケーションってやつが得意ではない。

でも、こればっかりは白灰倖のナヴィゲーションにも、魔法の力にも頼れない。

他の誰でもない自分達が互いを選んで、家族になるのだから。


「いいのかな? こんな幸せで」

「いいじゃん。もっと幸せになっちゃおう」


集まった多数の人々が自分のことを全く気にせず工事を進めてくれていることに心から感謝しつつ、香穂は不知火ママと存分に言葉を交わす。

2021/8/2更新。

2021/8/3更新。

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