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闇の魔法少女の仕事(55) ─瑞穂陽の場合─

陽が怒りに任せて杖を振り上げた。

圧倒的な熱量を伴う光の束が放たれる。

香穂と倖はあえて動かず、防御魔法を素早く展開して耐えた。


高位輝光魔導師サン・メッセンジャーの攻撃魔法は射程範囲が異常に広く、威力も凄まじく高い。

相手を傷つけないように振るうには大きすぎる力だ。

"遊んでるみたい"に見えるとすれば、それはひとえに陽の努力の成果であり、巧みな立ち回りの成果なのだろう。


「何なんだよ! 何なんだよぉ! 誰よりも結果出してんのにさぁ! わたしらがどんだけ頑張っても意味ねぇじゃん、アブない薬に頼ってばっかじゃん、皆さぁぁ!」

薬自体はもうアブなくなくなったが、そんなことは関係ない。

今の陽は自分の中にため込んだ怒りを発散することしか考えていないし、香穂もそれでいいと思う。

「なんなのバカなの!? 他人ヒト殴りたいならボクシングあるじゃん、ムエタイ空手あるじゃん、総合格闘技やれよプロレスやれよ、合法的にブン殴れるぞ!?」


「身体鍛えんのが面倒なんだと思うよ! それに皆がヒナタちゃんほど前向きなわけじゃない、みんながきみみたいにできると思ってるなら大間違いだ!」

これまでの経験則からか、倖は香穂よりも積極的だ。攻撃魔法とともに鋭い言葉を放つ。

挑発して、更なる怒りを開放しようというのだ。


「はっ! 前向き! 前向きか!? わたしの何処が前向きだっての!?」

ガラスが砕けるような音が拠点に響く。

倖の放った数十本の魔力の矢が、杖の一振りだけですべて砕かれたのだ。


「全然凹まねぇとでも思ってんのかよ!? 他人に一言も文句言わずに済ませてるとか思ってんのかよ!? マスコットやってたくせに何見てたんだよお前はよぉっ!」

「だったらもっと見せろ、瑞穂陽! あんたは何が嫌で、何が好きなんだ!? 全部聞いてやるから言ってみやがれっ!」


倖が懸命に陽との距離を詰める。

香穂はひたすら防御魔法を重ねがけし、同時に倖とつないだ蜘蛛の糸を通じて膨大な魔力を供給しなければならない。今ちがう角度から攻撃されたら一発でアウトだ。

だが、幸い、陽の気が済むまで、八雲は姿を隠したままでいてくれるらしい。

「わたしは家族が嫌いだっっ! わたしの好きな従妹いとこを利用して自分たちの気持ちを保ってた連中がっ!」

「だったら離れりゃいいだろ!?」

「できりゃあそうしてるわ! 鍵一にーちゃんみたいに魔法からも離れて!」


ようやく距離を潰した倖が杖と体術を用いて格闘戦を仕掛けた。

すでに頭に虎の耳を生やした陽も、杖を捨てて素早い身体捌きで応戦する。

「わたしが魔法から離れたら、一体誰が瑞穂家の名誉を保つんだとかってさ! 泣き落とししようとしたり問答無用で叱りつけたりさ! いつまでもうるせぇんだよなぁ! そのくせ獣人どもとのケンカが終わるたんびに一々連絡して来てごちゃごちゃ言うんだ……要はわたしのやり方に文句だけつけてぇんだよ! まあ陽ちゃんは世界最強の天才魔導師サマですから!? できますけど!? 全部の期待に応えちゃったりしますけどぉぉ!?」


倖が繰り出す拳を紙一重で避け、バカみたいな量の魔力を載せた拳で正確なカウンターを決める。

派手な格闘戦もできるところから人気に火が付いた魔法少女・瑞穂陽の面目躍如めんもくやくじょであった。


香穂はさすがに見かねて、ひと蹴りで吹っ飛ばされて間近に戻って来た倖の前に出た。

「陽ちゃん」

「香穂……もう降参すんのか!? 怒っていいって言ったじゃんかよぅ!」

「ちがう。わたしも戦う」

「できるもんかっ! 勝負ハナシになんねぇっつってんだよ!」

「できる。できなくてもやる。陽ちゃんの話、聞くの」


拳をぎゅっと握りしめ、杖を構える。

倖の勇敢な立ち回りが背中を押すようだった。


獣の呼吸音と共に、杖を拾い直した陽が一瞬で迫る。

手加減してくれているわけではない。瞬間的に魔力を回復させたのだ。

見切られるのを承知で香穂から仕掛けた。

杖がぶつかるたびに魔力が干渉し、高い共鳴音が鳴った。


「小賢しいっ!」

多重起動した『分身』が、すべてを喝破するような虎の大音声で掻き消える。

判断力が落ちているどころではない。いつもおっとりしていておもしろい陽の、青空のようなその心には──彼女とは別の何かが潜んでいたのかもしれない。

2021/7/21更新。

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