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闇の魔法少女が決戦をスルーした場合(2)

不知火も麦秋も、レスター=シュルツと戦ったわけではない。

"計画のこともそれ以外もすべて許すから、とりあえず1人で勝手に世界を変えようとするな"と説諭して、新しい前途も示して、それでどうにか彼の納得を得た。


日本では彼と不知火、英国ではひなた八雲やくもが協力して、2カ所で同時に起動していた『何だかすごそうな器材』(陽ちゃん談)を停止させたと言う。


シュルツきょうも、彼への義理のために2人の前に立ちふさがったわずかな魔導師たちも。

当然ながら本人たちも、魔導師連盟本部の施設や器材さえも傷つけず、破壊することなく。

理想的な作戦(ッミッション)完遂(コンプリート)を、見事にやってのけたのだ。

被害らしい被害と言えば、自ら動かしていた器材を止めるために最も大きく魔力を消耗したシュルツ卿が、『蒼い鳥(ブルー・バード)』の全員からこっぴどく叱られた上に1週間の入院を厳しく命じられた程度である。


「もし、わたしとか『ウィザーズ&マーセナリーズ』が大挙して押し寄せていたらと思うと、ぞっとしちゃいます」

「まあ、あんまり意味のないガチバトルになってたかも知れんけど。それはそれで、どーにか上手く行ってたと思うよ」

「そうでしょうか……。先輩は最初から、ベストな結果が出せると思ってたんですか?」


「もちろんさ。少しでも話すチャンスさえあればと思ったんだよね──麦秋に1分でも時間を作ってあげられれば大丈夫だと思った。だから、そうした。レスター(あいつ)がまじめで誠実で、実は結構な小心者だってのを、当然あたしら知ってたわけだし」


電気温水器が沸かした適温のお湯をちゃぷちゃぷ揺らしたりなんかしつつ、不知火が無邪気に言う。

『あいつ』とシュルツ卿を呼ぶ彼女の発音がとても優しいことに、一緒に湯に浸かっている香穂は気づいた。

憎み合っていたり、嫌い合っているわけではないと、考えるまでもなく伝わって来る。


「同じ相手を好きになった同志だからね。あたしがこの世界を離れてからも──少なくとも、あいつを嫌いにはならなかったよ」

なんとなく幸せそうな笑みを浮かべて、不知火が湯船にもたれかかる。

浴室のりガラスに想い人の姿が映ったから、かも知れなかった。


少し遅れてお風呂場に入って来た麦秋が、鼻歌まじりにシャワーを浴び、髪と身体を洗って湯船に滑り込む。

香穂が同居を始めたころに比べると、ずいぶんゆっくりとお風呂を楽しめるようになって来たらしい。

「いやー、お湯に毎日入れるっていいなぁ」

「うん!」

「そうだねぇ」


工費を母と割り勘にして湯船を広くした決断が功を奏した。

3人とも余裕を持ってぬるま湯につかる事ができている。


香穂は気を遣って先に上がろうと思った。

恋人同士かと思うような麦秋と不知火が無意識に作り出している、静かで穏やかな雰囲気があまりに心地よくて、結局そう思うだけになってしまった。

開き直って養女むすめの特権を活かし、2人の間に入る。

長い金髪と黒髪が湯船に泳いでいて、不思議な海にでも来たかのような錯覚を覚えた。


「なんだか、ママが2人いるみたい」

よほどリラックスしていたせいだろう。

絶対に黙っていようと思った本音がつい口をいてしまう。

かつて幼いながらも慕い合っていた2人の関係に口を出すなんて、本意ではないのに。


「あたしもママかい? ふむ……香穂ちゃんみたいな子が傍にいてくれるなら、悪くないね」

「ホントにそうなっちゃおうか、不知火?」

冗談っぽく言い合う2人の顔が上気して見えるのは、きっと湯気のせいだけではないだろう。


「そーいえば今フリーだもんな麦秋。あたしも気ままな身分だし、あんたさえよけりゃ大歓迎だ。ちょいと真剣に考えてみてよ」

「うん。今回はわりと本気っぽいよ、我ながら」

互いに向けた燃えるような情熱をひた隠しにした、穏やかなやり取りだ。


臨時の休暇をとても強引にもぎ取ったと言った、TV電話の向こうの八雲と陽の疲れた顔が頭をよぎる。

果たして自分は、不知火と麦秋のように落ち着いた会話ができるだろうか。

八雲が、陽が、大好きな日本を離れていた間のストレスを受け止めてあげる事ができるだろうか。

そして、その後でなら……素直に気持ちを伝える事ができるだろうか。


香穂は自分がのぼせてしまうかどうかより、そのことが気になって仕方ない。

2021/7/2更新。

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