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闇の魔法少女が決戦をスルーした場合(1)

「最初は問答無用で計画を叩き潰す予定だったんだけどね」

と、不知火が話を切り出した。

麦秋が『魔法都市異世界化計画(仮)』の首謀者をこん々と説得して、想定よりもかなり穏便な形で事を済ませてしまったのだと言う。

「あんまり戦わずに済んだし、器材もぶっ壊さなかった。あたしって必要だったか? とか思っちゃうくらいなんだけど……まあ、ちょっとは役にも立てたし、戻って来た意味はあったかな」


不知火が照れ笑いしてカップ麺をすすった。

CMの依頼が入りそうな、豪快で胸のすく食べっぷりを、今度は麦秋が微笑んで見ている。


約20年ほどの距離と心の隔たりを一瞬で飛び越えただろう、絶対的な関係。

『絆』『愛情』『信頼』……。

さまざまな言葉が香穂の脳裏をよぎるが、どれもこれも2人の関係を適切に示す事など到底できなさそうな言葉ばかりだ──しっかり勉強してボキャブラリーを増やしてきたつもりだったのだけど、それでも。


「んっと……最終決戦をお任せしてしまって、すみませんでした」

改めてド緊張しつつも何か話さなきゃと少しだけ焦った香穂は、やや間を置いて、ようやく言葉を選び取った。

土産話をせがむ前にひとこと言っておくべきだったのだが、つい興味を優先してしまった。


「ははっ、別にいいよ、あたしと麦秋をそんだけ信用してくれたってことだろう」

輝かんばかりに美しく黒い長髪(腰まである)を上機嫌で撫でつける不知火に、もちろんですと答える。

家族として強く尊敬する母・麦秋。

会うことは難しいと分かっていても、間接的に頼り切っている大先輩・不知火。

彼女達を信頼せずに、誰を信頼できると言うのか。


「麦秋から久しぶりに連絡をもらった時から、会いたいと思ってたよ。良い子だね、香穂ちゃん」

「そ、そうでしょうか……?」

「ありゃま、もう顔が真っ赤だ──本当に褒められ慣れてないって感じだな」


『そうなんだよ、シラヌイちゃん』

我慢できなくなったとでも言いたげな調子で言って、ナヴィ・ノワールが姿を見せた。

『僕が褒めるのヘタってのもあると思うんだけど』


「あんまり"すごい"って言われ過ぎても困っちゃう子もいるからね。あんたの態度が間違ってたなんて思わないさ、ナヴィ・ノワール」

『ありがとう』


満足そうに笑んだ不知火が、またピリ辛のカップ麺を啜った。

「んで、『お願いポイント』をどうするかは決めたの? あの時もずいぶん悩んでたみたいだったけど」

『あー、うん。決めたよ。僕は人間になってカホちゃんを助けるんだ。これから魔導師の需要も高まるんだろうし』

「いいじゃんいいじゃん、どんどん手伝ったげてよ。名前とか見かけとか、もう決めてる?」

『これから、だけど……』

「よし、食べ終わってお風呂入ったら会議だな」


まるで自分のことのように息巻いて、不知火がカップ麺をやっつけにかかる。

久しぶりに食べるインスタントな味がよほどおいしいのか、豪快な食べっぷりが変わることは決してない。


食事に集中する幼馴染に代わって、麦秋が口を開く。

「香穂にお願いがあるんだけど、いいかな」

「なんでもするよ」


「レスターの話を……ゆっくり聞いてあげて欲しい。私より香穂の方が話しやすいかもって、私が勝手に思ってるだけなんだけど」


レスター=W=シュルツ。

『魔法都市異世界化計画』の首謀者であり、オークリー=ロッジにシュルツ卿ありと言われる実力者であり……。

少年だった頃に、瑞穂麦秋を熱烈に愛した男だ。


かつての恋愛がうまく行かなかったから、とかの単純な動機でこの街を異世界みたいにしてしまおうと考えた訳ではないはずだ。

興味や好奇心が全くないかと言えば決してそうではないが、小さな最終決戦を華麗にスルーしてしまった手前、自分ができることを探して、きちんとこなして見せるべきだろう。


自分にとっても、あらゆる意味で強敵だろうと香穂は思う。

だが──改めてお願いされるような事ではない。

麦秋に今までの恩返しをする、またとない機会である。

2021/7/1更新。

2021/7/2更新。

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