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意外と軽い衝撃(1)

うだるような暑さと相変わらずの忙しさが続いたまま、7月も半ばに入った。

母と一緒に昼食を食べながら、香穂は最近気になっていることを言葉にする。

「ねえ、ママ」

「んー?」


羽水うーちゃん達が調べたことって、やっぱり全部ホントなのかな」

「私にもよく分からないけど」

そうじゃなかったらこうはならんわね──と呟きながら、麦秋がTVをつける。

ニュース番組もワイドショウも、アニメやバラエティ番組の枠さえも潰して、今朝からたった1つの話題で持ち切りだ。


ストレスを大きく緩和する医薬品として、これまで違法だった『内なる獣』を発現させる薬が合法化された。

服用した者の健康を害することがないように研究開発が進められ、保険適用のうえで一般販売されることになったのだ。


「遅かれ早かれって感じだけどねぇ」

呆れ返ったような、何かを諦めたような。

そんな複雑な表情を、麦秋がヨーグルト飲料と共に飲み込む。「香穂はどう? やっぱりショック?」


「うーん……どうだろ? 前からおかしいと思うことがたくさんあったし」

香穂が魔法少女として魔導師部と魔導師連盟に所属した期間はわずかだった。


そのわずかな間にも、連盟の在り方や目的について疑問を持たざるを得なかった。

ずっと抱えて来た違和感の正体を明らかにできる人々が『内なる獣問題』の真相を探り当てるのと、魔導師連盟が真相を明らかにする時期が、ぴったりと重なった。


「たぶん、羽水ちゃんとか八雲ちゃんとかが"さっさと発表しろ"とかって脅かしたんじゃないかな」

「あり得ないとは言い切れないよね……」


魔導師と『内なる獣』20年来の戦いはすべて、選ばれた人員とランダムな敵役による戦闘行為を娯楽として成立させ、一度限りの変身能力を発揮させることでストレスを緩和する薬を完成させるための実験に過ぎなかったのだ。


最初に異世界から『ヒトを獣人に変えて暴れさせる』ストレス解消にピッタリでちょっとヤバい薬を持ち込んだのは魔導師連盟だった。

その対策のために魔法を普及させ、オークリー=ロッジと瀬ノ尾市と十岐川市を研究の拠点として整備したのも魔導師連盟だった。

羽水がコネを駆使して調べ上げた情報が全て真実だとすれば、3つの地域には莫大な交付金や助成金がじゃぶじゃぶとつぎ込まれていたことにもなる。


凶悪な犯罪や暴力・虐待などを抑止し、ひいては一掃するために世界中にばらまかれるはずだった危険な薬は極めて限定的に流通した。

ついに処方名『イテマウド』となり、一般の向精神薬と同じように処方できる状況になった。


だが、香穂は今までの戦いが壮大な自作自演マッチポンプだったと今さら知ったところで、大きく衝撃を受けるなどと言うことはなかった。


それは幼馴染たちや知り合いの魔導師にとっても同じだったようだ。

先ほどから『"イテマウド"ってなんだよオイ』とか『もっとマシな名前にすればいいのに』とかのメールが次々と入って、スマホが鳴りやまない。


痛い思いも苦しい思いもして、悩んだり悲しんだりして、命を賭けて真剣に戦って来たのに。

急に、安全な薬を作るための実験だったと分かってしまった。

戦いにちょっとしか参加していない香穂はともかく、今まで『内なる獣』に振り回されてきた人々からすれば、たまったものではないだろう。


笑い話やジョークにしたって、これほど笑えない話はあり得ない。

「おっ、不知火から呼び出しだ。やっと来た」


可愛らしいメロディでメールの着信を知らせる愛用のスマホを、麦秋が手に取った。

「え? やっとって……」

「ちょっと魔導師連盟をつぶして来るよ。香穂はどうする? 一緒に大暴れする?」

まるで遊園地に行くかどうかを尋ねるように気楽に、麦秋が言った。


「ちょっ、ま、ママ!?」

「ネタバラシのOK出たし、話してからにしようか。魔導師連盟の連中が狙ってる、もう一つの計画」

「いやちょっと待って待って、急展開すぎるでしょ!? 全然追いつけないんだけど!?」


「そんな大したことじゃないよ。落ち着いて聞いて、香穂」

「あ……う、うん。魔導師連盟の計画って?」


「今までの戦いで蓄積された魔力を使って、例の薬の実験場になってた拠点をこの世界から切り離してしまおうってだけの話だから。いい加減で短絡的で安直なプランに過ぎないわ」

2021/6/29更新。

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