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闇の魔法少女の仕事(47) ─色守刀哉の場合─

素早く気分を切り替えたらしい刀哉が、香穂の差し出したハンカチで残りの涙をきれいに拭い去った。

「ありがとう、香穂、祝」

「いいえー」

「大丈夫よ。せっかく時間があるし、もっと話そうよ」


祝がバスケで鍛えた脚力を活かして自販機で買って来たジュースを飲みながら、刀哉の悩みについて一緒に考えることにした。


「まったく新しいことがしてみたいですか。それとも、もしも形は違っても、今までの努力を活かして行きたいですか」

「どっちも、ある……かな」


一般に言う"女の子らしい"口調に近づけようとして苦労しながら、刀哉が真剣に言う。

常にりんとした古風な言葉づかいも、今までの鍛錬も、十二分に彼女の個性と呼べるものだ。

それごと積み上げて来た物を壊してしまいたいと思ってしまうような、そんなヤワで破滅的な思考の持ち主ではない。

久々に泣けたついでに、自分でもちょっと気を楽にしてみよう、といったところだろう。


香穂はアイテムボックスを開くと、大事にしまってある赤いチェック柄の表紙のノートを持ち出した。

かつて胡桃と刀哉が、香穂が引きこもっても困らないようにと作り上げた、特製の『コネ・ノート』であった。


香穂自身にぜいたくな教養と遊びの時間を与え、後輩のニルス=エールやアンダーソン姉弟きょうだいにこの世界での趣味を発見させた実績も加わった、香穂にとっては華々しい宝物の一つ。


「懐かしい! まだ持っててくれたのか」

「今でも活用できるっしょ」


剣技や投げ技、組み技だけでなく、古来より伝わる"楽な身体の動かし方"や最新の身体の鍛え方、体調管理の方法までを幅広くレクチャーするのが総合武術『色守流』だ。

プロ棋士や茶道・華道の教授、プロレスラーやラグビー選手など。

このあたりの出身の有名人が結構いて、その人たちのほとんどが色守流を多少ともたしなんだことがある。


大先輩たちとまったく面識を持っていなかった香穂でさえ、色守流の名前を出せば、人間関係の最初の一歩を楽に築く事ができていた。

まして早くから流派の後継者として共に鍛錬した刀哉自身が尋ねれば、みなえりを開いて話をしてくれるに違いない。


自宅にいた間に楽しませてもらったぜいたくな遊び方を刀哉にも──と思って(この間わずか30秒)ノートを持ち出してはみたものの。

良く思い出してみれば、色守流は"武人たる者、同時同様に教養人たるべし"という、開祖『色守幻釉しきもりげんゆう』以来の大きな目標を掲げている。

「……って、刀哉だったら一通り教わったことあるよね」


「まあね。でも、うれしいよ」

刀哉が整った顔立ちをやさしく笑み崩す。

この微笑みに、石動佑時いするぎゆうじも即ノックアウトされた事だろう。


「刀哉は色んな武術を使えるんですよね?」

「うん。一応ね。得意なのは刀と柔術だけど、槍とか西洋剣術もできなくはない、かも」


「すごい」と快哉を上げたしゅうだったが、刀哉への提案は忘れなかった。

「ゲームのモーション・キャプチャーを試してみたら、と思ったんです。特撮ドラマのスーツアクターとか……あなたの努力は充分な武器に出来ると思うの」


この提案には香穂も大いに同意した。

アクションゲームや対戦格闘はもちろん、戦闘グラフィックにこだわるタイプのRPGなどにも、刀哉の超ド級にリアルな"動き"が必要になる。

スーツアクターでも善もしくは悪の女性幹部役でも、日曜の朝から冴えに冴えた動きをするキャラクターが特撮ドラマの選択肢に入れば、一定の人気を獲得する事ができるはずだ。


エンタメ業界だったらひっぱりだこだし、スポーツ界からだって引く手あまた。

現代の美少女剣士を待っているだろう未来を勝手に妄想し、それを祝と2人して伝えまくってみた。


「そうか……そうなんだ。できることがあるんだね、私にも」

「そうです。戦うだけが全てじゃないんですよ。がんばって取り組んで来たことが全然役に立たなくなっちゃうなんて、そんな事あってたまるもんですかって話です」


一気にしゃべり倒した祝が、額にうっすら浮かんだ汗を手で乱暴に払う。

刀哉がまた微笑んで、冷たい缶ジュースを彼女の頬にいきなり押し当てた。「ひゃあっ!?」


「はははっ……。友達のために一生懸命になれる──私も見習わせてもらわなくちゃ」

2021/6/24更新。

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