生徒会室にて 【月夜譚No.89】
彼は人差し指で眼鏡を押し上げると、その目の奥を光らせた。彼の後輩がその正面で正座をし、項垂れている。膝の上には、原稿用紙の束が乗っている。
ここは、校舎三階に位置する生徒会室。眼鏡の彼はこの部屋の主である生徒会長、その下で会計として働くのが後輩の彼である。
さて、何故このような状況になっているのかというと、会計が大きな計算ミスをやらかした上に、その反省文も適当に書いたであろうことが丸出しだった故である。
人間誰しも間違いを犯すもの。計算ミスは大目に見て反省文で手を打った会長だったが、流石に適当に書いたとなると堪忍袋の緒も限界だったようだ。
会計はその地位に抜擢されるだけあって、その計算能力は校内随一と言って良い程のものだ。しかし如何せん不真面目で、校則や国の法には触れることはないものの、友人間では「遊び人」と称されて一部に一目置かれているらしい。
彼の他にも良い人材は生徒の中にいるはずなのだが、何故彼を選んだのかは会長にしか判らない。
会長が眼鏡から腕を下ろすと、会計はびくりと肩を聳やかせた。どれ程大きな雷が落ちるのか、考えただけで頭が痛い。