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モノクロと創生書  作者: 沢渡氷雨
第4章 東倭連邦
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黒衣の青年少女

リネアに促されて、黒い着物を着込んだ二人が前に出た。白い髪の男と、さっきアオイを襲った少女だ。

「ここ空いてる?」「ええ、どうぞ」

ジンヤやクラスメイトたちも並んで座る長机には、色鮮やかな懐石料理が並んでいた。

アオイはアルスの隣の空席に座り――そこで、懐石料理の鍋を次々と空にしていく悪魔を見た。

「………アルタイル……!?」

その声に反応して、赤い瞳がアオイのほうを見る。

「あ?――アオイぃぃ!!」

涙ぐんだ自称神の精霊少女は、箸を放り出した。

「おい、机またぐなって……」

「うるせえ!心配したんだぞバカヤロー!!」「それはお前だけだと思うなよ馬鹿ぁぁ!!」

彼女は一目散にアオイの胸に飛び込んできた。普段は暑苦しいだけに感じるこの体温も、久し振りに再開した彼女の存在を確かめる大切な証拠だ。ただ、暑苦しいことに変わりはない。

そのときアオイは、アルタイルの下半身が透けていることに気付いた。

「お前それどうしたの?」

「ああ、お前の腕の呪印、透明人間にぶった切られちまったから。現在しゅーふくちゅーだ」

申し訳ないことをしたとアオイは心底思った。


「それじゃ二人とも、自己紹介して」

「はーい♪」「………はい……おい、やめろ馬鹿鴉」

黒髪の少女が、男の胸を押して下がらせた。

そのまま、ぺこりと会釈する。

「アサギ・ベニアケです!"漢字"ではこう書きまーす」

アサギが指先で空に線を描き、それをなぞるように「紅緋 浅葱」の文字をかたどった橙色の光が浮かび上がる。

「あれやりたいな……どうやるんだろ」

そもそも、この世界に漢字表記の名前があったということが嬉しかった。

アサギの自己紹介は続く。

「好きなものは男の子で、嫌いなのは怖い人!あとは……」

言うと思っていた。

「大好物はアオイくんでーす!」

一瞬の静寂。

「ぶふぉっ!!」

――知らねえ。

「あ゛?」 「「は?」」 「…………!?」

驚愕と羨望と嫉妬だろうか、この視線は。アオイが盛大に噴き出したことをきっかけに、食堂の空気が荒れ始めた。

「あの、ねえ、アサギさん!?それきっと間違ってるよ!仕切り直して――」

「さっきしたこともう忘れたの?ぼく、もうどこにもお嫁行けなくなっちゃった。これは仕方ないことだよね?」

「ヒィッ!!」

アオイの背後に瞬間移動したアサギは、彼の硬直した右手を掴み、もう一方の手の指をいやらしく這わせた。

「「「「お前何したの!?」」」」

「アオイくん何したの!?」

「アオイさん何したんですか!?」

「ああああああああああああああ!!」

集中砲火を喰らったアオイは、真っ赤に染まった顔を机に打ち付けた。赤いのは腫れのせいだ!涙は痛みのせいだ!!

「もー、ダメっすよアサちゃん。彼の隣はもう空いてないんすからぁ」

笑いを含んだリネアの言葉に、アオイは良からぬものを感じた。

恐る恐る、視線を上げていく。

真っ赤に赤面したアルスと目が合ってしまった。

「「――違う!!」」

二人は同時に首を振る。

きっとそういうことではない。物理的に空いていないという意味――いや、右隣の席が空いている。

「あれ、勘違いしちゃいました?別に誰とは言ってないんすけどねえ」

はめられたのだと気付いた。だかしかし、アルスがたいしてアオイを特別視していないことは割れているし、巨大鳥事件の直前にヘイトを溜めたばかりではないか。彼女にしてみても、突然名指しされて動揺したといったところだろう。

つまり、別段何も無かった。

「ちなみにアサちゃんはウチの一番弟子っす。そいじゃ次ー」

「………ソウマ・ベニアケ。嫌いなものは男。以上だ」

白髪の青年は抑揚のない声で吐き捨てるように言い放った。

アオイは、お前男だろうが、と言いたくなるのを堪えた。

とはいえ、彼が男を嫌っていそうなことは知っていた。――桜のトンネルの下で睨まれたあの時から。

ゆえに、同姓の"ベニアケ"であることに大した疑問を抱くことはなかった。日本の"佐藤さん"のようなものか、とだけ。

「うー……ん?まぁ、こういうコなんで大目に見てやってほしいっす。ちなみにソウくんが二番弟子、今んとこ弟子はこの二人だけしかとってないっす。唯一、あの部屋の屋根裏を無許可で通行できる権利も持ってるっすね。強くてとても頼りになるっすよ」

「むっふふぅ」

「………」

アサギは偉そうに胸を反らし、一方ソウマは無口のままだった。

これも予想の範囲内だったが、アルスの恨めしそうな視線がアサギの胸に向かっている。冷静になって見てみると、後ろから抱きつかれたときに妄想したほどのボリュームは無いのだが。

「んで、だ。なぜこの二人を紹介したかといいますと」

リネアはアオイの右隣の席に腰を下ろした。アオイの瞳を真っ直ぐに覗き込み、意味有り気な笑みを浮かべる。

「合理的な結論を出した結果――アオイくん、ウチの弟子にならないっすか?」

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