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第三話 余計な事はするもんじゃない

パーティ編前編

 いくら体が体験して記憶があるとはいえ、やはり実物で物を見るというのは違うのだと思い知らされた。パーティ会場は宮塚学園にある講堂。だが、そこは想定していた体育館の様な場所とは違い、最初からダンスホールに使われる事を想定しているのか、とにかく豪華絢爛だ。光り輝くシャンデリア、真っ白な壁と大きなカーテン。会場のあちこちに用意されたビュッフェ形式の食事に、加えて出来立てを提供する為に料理人が調理する環境までしっかり整っており、そこいらの高級ホテルの出来立てバイキングとは比べ物にならないレベルだ。黒のパーティスーツに着替えた俺だが、間抜けに口を開きっぱなしにするところだった、それほどまでに圧巻である。


 さて、ぶっちゃけるとこのパーティが初体験であり内心実は楽しみにしていた。個人的には友人を増やすきっかけにもなるし、ゲームに登場するヒロインをこの目で確認出来るというのも多少ながらワクワク感はあった。だというのに。


「初めまして征那様、わたくしは」

「ちょっと、押さないでくださる?!」

「実は前からお会いしたいと思っていたのです!」


 なんかめっちゃ囲まれた。やばいくらいに囲まれた。これアレだ、サバンナにある小さな池で水浴びしようと無邪気に乗り込んだ子牛がワニに周囲を囲まれてた的な感じだ。目付きがギラギラしてるし凄い怖い。加えて今日は隣に昴さんも居らず、逃げ場も無い。そして今俺は、ハーレム系主人公に少し申し訳なさを覚えていた。あれだけ無条件にモテて、なんでやれやれと言った感じになるんだ、普通は嬉しいだろ、と。それは間違いだった、これは確かに嫌だ。こんな感じで囲まれ続けていれば確かにうんざりもするし、原作の征那が荒んだ理由はこの辺にあるかもしれない。

 人はおだてられると舞い上がってしまうものだ。荒鷹征那という人間は家族と四宮霧香以外は基本的に信用していなかった人間だ、こうして囲まれて、傲慢な性格になると同時に他人を信用出来なくなったのもあの冷酷な性格になった原因かもしれない。


 俺だって何も知らずにこうして囲まれていれば、多少なりとも傲慢に育っていたかもしれない。だからこそだ。



「申し訳ないけど、向こうに行きたいから空けて貰っても良いかな?」



 無理やりにでもその場を離れ、向かったのはドリンクコーナー。ウェイターにノンアルコールのモヒートを頼む。それを受け取り二階の展望席ソファに腰掛ければ、遠巻きでこちらを窺うお嬢様方々、想定してたよりも辛いなこれは。モヒートの喉を通り抜ける涼しさを味わいながら、会場を見渡す。そしてまずは一人、男子に囲まれている四宮霧香、遠目から見ても分かる、間違いなく美人に成長すると約束された美貌。その時、離れた位置で目が合った四宮霧香が、見知った顔という俺に向けて小さく手を振る。そういう事はしちゃだめだ、普通なら勘違いしてしまう。こちらも小さく手を振り返しながら、なるべく目を併せない様に別の方を見る。



 次に目に入ったのは九条沙綾の姿だ。長めの栗色の髪をポニーテールにし、薄めのオレンジ色のドレスがとても似合っている。彼女はゲームではフェンシング部で、スポーツ系女子で性格も明るく人当たりが良いタイプだった筈だ。あの五人のヒロインはやはり一目で分かるほど特徴的だ。広い会場だが次々と見つかる。



 静かに窓際のソファに座りながらも、周囲から視線を集めているのは鶴ヶ崎桐琴と蘆ヶ谷玲香の二人、確か二人は親戚同士でお互いの仲も良く、深窓の令嬢の様なミステリアスな雰囲気もまた視線を集めてしまう。鶴ヶ崎桐琴はミディアムなストレートの黒髪で、初等部から高等部までずっと書道部。一方の蘆ヶ谷玲香はセミロングで少しウェーブがかった髪形で、こちらも初等部から高等部まで手芸部に所属していた筈。どちらも同年代の幼さが残る少女たちと違い、どこか大人びた感じの顔立ちである為、余計に人気を集めるのだろう。物静かなのも御淑やかで、確かに美人であるし人気者になるのは確定だ。



 そして最後に園崎蓮菜、彼女は如何にもと言った感じの少し小生意気なグイグイ来る勝ち気なお嬢様で、今はアップにしているが、普段は薄めのネイビーブルーの髪をツインテールにしていた。リーダー的な素質もあり、やや強引な所もあるが面倒見も良く、内気な者からすれば少し怖く感じるが、体育会系な溌溂とした生徒からすれば人望が厚かった筈だ。



 ある程度観察し、一応は顔も覚えた。ゲームの時と今では成長もあって多少なりとも違って見えてしまう、これで実は人違いでしたとなれば全く笑えないので、念のためだ。



「やぁ」



 そんな時、隣から掛かって来た声に振り向く。そこに居たのは四人の男子生徒。



「荒鷹家の人だよね?」

「そうですけど、そちらは?」

「あぁ、ごめんごめん。自己紹介が遅れた、僕は白鳥宗斗しらとりしゅうと。一応はラウンズに入会が確定してる人に挨拶して回ってたんだ」

「そう。もう知ってるんだろうけど、荒鷹征那、これからよろしく」

「俺は宮城悟みやしろさとるだ、よろしくな!」

千堂千尋せんどうちひろです」

有都蓮司ありとれんじです、よろしくね」


 一人ずつ、名前を聞いて軽く握手を交わすと同時に、そっちから来たかと衝撃を覚える。何を隠そう、この四人は俺と同じく主人公のライバルキャラポジションの者達だからだ。白鳥宗斗は鶴ヶ崎桐琴、宮城悟は九条沙綾、千堂千尋は蘆ヶ谷玲香、有都蓮司は園崎蓮菜、それぞれライバルキャラになる。運命は収束するのか、こうしてライバルキャラが五人で揃うというのも中々に奇妙な感覚だ。


「ところで、もう見たとは思うけどあの五人には会った?」

「あの五人?」

「今年入学する五人のお嬢様方だよ、たぶん言わなくても分かると思うけど」


 白鳥の言葉に、ついに来たかという感じもある。このファーストコンタクトが恐らく、彼等にそれぞれ何らかの恋愛感情を抱かせる切っ掛けになったのだろうと。とは言え、五人で向かうのも良いが、俺としてはなるべく慎重に事を進めたいし、自意識過剰という訳ではないが、あの方にはこの方がふさわしい、みたいな勝手なカップリングをされても面倒なのだ。


「四宮さんとは去年パーティで一回だけ。それ以外の四人とは特に接点は無いかな」


「そうなんだ。これから皆で挨拶に行こうかなって思ったんだけど、荒鷹君はどうする?」

「俺は遠慮しますよ。降りたら騒がしくなりそうだし」

「あ~、さっき囲まれてたもんなぁ荒鷹」

「遠くから見てたけど凄かったね、僕らの所にもお嬢様方は来てたけど、あれと比べるとねぇ」


 白鳥の誘いを断り、先の喧騒を呟けば、宮城と蓮司が大げさに頷きながら口にする。この四人も相当整った顔立ちしてるからな、ショタコンの人が目の当たりにしたら攫われるんじゃないかと言わんばかりだ。そんでもって、俺達が全員で行ったとしよう。間違いなく阿鼻叫喚の状態になるのは目に見えている。俺はそんな中であの五人に突っ込んでいく勇気は無い。家は大物だけど中身は小物なんです。


 離れて行った四人を見送り、もう一度ソファに深く腰掛ける。うん、あの四人が動くと女子たちも同じく動き始める。大行列みたいになってるけどよく平然としてられるな彼らは。最初にコンタクトを取ったのは窓際に座っていた二人。最初の時点で騒がしいのを嫌って離れていた様子の二人だが、四人が引き連れた女子たちに対して、あからさまに嫌そうな感じになっているのがすぐに分かった。御淑やかな表情に変化は無いように見えるけど、僅かだが目元が吊り上がっている。なんで離れた場所も見えるのかという今更の疑問に対しては、よく映画で出て来る、棒みたいなのが付いた小型の双眼鏡を使っているからだ。所謂オペラグラスという奴である。


 挨拶もそこそこに去って行く四人が向かった先は四宮霧香の所だ、彼らが動いた事で男子生徒の壁も一気に割れる。まぁあいつ等が近づいたら流石に遠慮しないと雰囲気悪くなっちゃうからな。近くのポジションを取っていた男子生徒も、たぶんあの取り巻きの中でもそこそこに親の権力が強いのだろうけど、あの四人には敵わないらしい。白鳥は大手外資系企業の御曹司、宮城は海外向けのスポーツグッズや車を扱う社長の息子、千堂は大手家電を扱い国内でも知らない人はいないとされる企業の息子、有都はホテル事業で海外でもリゾート関連で根強く、一番取り入りやすそうな雰囲気はしているが大グループの息子と強すぎる。


 その後も彼等の大移動が続き、九条沙綾、園崎蓮菜と挨拶を終えた所で、各々は解散して自由にパーティを楽しんでいる。やっぱり余裕がある分、どれだけ周囲に囲まれてもあまり気にしていない様子だ。俺はと言えば、あの中に突っ込んでいく勇気は無いため、殆ど人が寄らず、加えて俺がいるせいなのか、誰もが遠慮して近づかないお陰で俺しかいない展望席。まぁこれはこれで良いけどさ、聞こえて来る音楽のお陰で暇という訳でもないし。そう思っていた時の事だった。



「あら?」

「げっ」


 離れていたし、小声だったため聞こえていなかったとは思う。よりにもよって現れたのはまさかの四宮霧香その人。すいません向こうからフラグが走ってくるなんて聞いてないんですけど!


「隣、大丈夫ですか?」

「ど、どうぞ」


 俺のアホー!! 理由でも付けてこの場から離れれば良いのに、変にどもった挙句に相席するとは何事か! おしおきとして昴さんのクッキー一週間禁止だ! 俺の馬鹿! 馬鹿!



「先ほど、手を振ったのですが気付いて貰えて良かったですわ」

「……まぁ、四宮さんは目立ちますから」

「そういう荒鷹様も先ほどは大変人気でしたわね? 挨拶に行こうと思っていたのですが、大変そうでしたし、少し疲れた様子でこちらへ向かったので、時間を置いておきましたの」

「気を使わせて申し訳ないです。流石にあれだけ囲まれるなんて考えても居なかったので」

「荒鷹様のお顔は美しいですから、仕方ありませんわ。まるで女性の様な綺麗な絹の糸みたいな金髪、宝石の様なサファイヤブルーの瞳と整った顔立ちですから」

「恐縮です。それでも四宮さんには及びませんし、さっき挨拶に来た四人の方が俺なんかよりも良いです」

「謙遜なさらずに、誇ってくださいな。私はその青い瞳と金色の綺麗な髪色、好きですわよ?」


 んごあーっ!! ダメだ、天然モノの男殺しですよこの人ー! 今すぐ国は四宮さんを保護して天然記念物に指定しないとダメですよ! え? 無理? あ、そう。


「そう簡単に、男性に対して好きという言葉は誉め言葉でも使わない方が良いと思います」

「思った事を口にしただけです」


 成程、荒鷹征那って人間が惚れた理由が何となく分かった気がする。家柄が良いとか、顔が良いとかそういう所を一切抜きに、媚びた感情も無く接してくれるところに惚れたんだろうな。正直、これは惚れても仕方ない部分はある。何も知らなければよっぽど心に決めた相手に一途か女嫌いでもなければコロっと落ちますよこれは。


「あ、四宮さんこっちに来たんだ!」


 Here Comes A New challenger!! お代わりとかしてないんですけど俺。なんだってこう集まって来るのか。


「お二方もいらっしゃったんですね」

「えぇ、ちょっと人目が増えてきてしまって玲香さんが疲れてしまったみたいなの」

「あらあら、大型メンバー勢揃いみたいな感じになってるじゃないの」


 おうおう、集まるわ集まるわ。なんだこの状況は。昇って来た九条さんを皮切りに、鶴ヶ崎さんに蘆ヶ谷さん、そして最後に園崎さんまで来て混沌とした空間だ。俺はキャバクラにで来たのか? いや、パーティかこれ。


「荒鷹様、どちらへ?」

「いや、お嬢様方が集まりましたし、お邪魔かなと」

「そんな事はありませんよ? 折角だから私も挨拶したいですし!」


 九条さん、そのパスは求めて無かったよ俺は。


「そうですか。飲み物を取ってこようと思いましたが、皆さんは何を飲みますか?」

「うーん、それじゃあ私は紅茶でお願いしますわ」

「あ、私も!」

「私もそれで構いません、玲香は?」

「紅茶で大丈夫」

「私も紅茶で良いけど、チョイスには結構煩いわよ? 私」


 園崎さんの余計な一言で無駄なプレッシャーが肩に圧し掛かりつつ、再び向かったドリンクコーナーで紅茶を頼む。俺はフォートナムメイソンのアッサムをミルクティーに、それ以外はハーニー&サンズのホットシナモンスパイスをチョイスし、手軽に食べられるイチゴのクリームロールケーキを頼み、そのまま紅茶が乗ったトレイを持って展望席へと戻る。ミルクティーは出来るまでちょっとだけ時間が掛かるのでロールケーキを取りに行くついでに持ってくればいい。


「どうぞ、紅茶です」

「あら、随分と豪華なウェイターさんですわ。ありがとう荒鷹様」

「いえいえ」


 大人数用のテーブルへと移動していたらしく、それぞれの前に紅茶を置き、再び下に戻ってロールケーキとミルクティーを受け取って再び展望席へ。まだ五歳だから結構疲れるが、此処で肩で息をするのは見苦しいので細かく呼吸を整えて平然とした顔を整えなければいけない。


「紅茶だけでは寂しいと思ったので、ロールケーキも持ってきました」

「わぁ! イチゴの奴! さっき食べようとしたら丁度無かったんだぁ! ありがとう荒鷹様」


 ……余計な事したかもしれん。変な事して好感度なんて上げなきゃよかった。後ろを振り向いて先ほどの四人を生贄に抜け出そうと思ったが、呑気に楽しく談笑してるだけじゃなく、こっちを見た四人が頑張れと言わんばかりに笑い掛けて来るのが猶更に腹立つ。おいこら白鳥、良い笑顔してんじゃねぇこの野郎。


「いきなりですが、一応は自己紹介しておきます。荒鷹征那、座右の銘は余計な事はしない、です」

「か、変わった座右の銘ですね……あ! 私、九条沙綾って言います、よろしくお願いしますね!」

「鶴ヶ崎桐琴です」

「蘆ヶ谷玲香宜しくお願い、します」

「園崎蓮菜よ、まぁ一応はこれからも宜しく」


 本当に宜しく出来るのかどうか。展望席で飲むミルクティーは、何故か妙に苦く感じた。あ、砂糖入れて貰うのすっかり忘れてた。

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