第三章
完全に寒さが四六時中、身にしみるようになってからしばらくたった12月の日。いわゆるクリスマスイヴイヴの23日に僕らは待ちに待った長期休みに入った。とは言っても、部活もあるし、休み明けには学年末テストがある。…それになんといっても、クリスマスを一緒に過ごす彼女なんているはずもない。
僕は、どうやらそこまでませた少年ではないらしい。
完全無欠にちょっとヒビが入った気がした…。
「彼女なんていらねぇ〜だろぉ!まだ中学生だぜっ?オレとサッカーで青春を謳歌しようじゃないかっ!」
冬になっても、晃は夏のように陽気で熱い男なので、すこし辺りが暖かくなった気がした。
「そうだよな。まだ中学生だもんな。部活に勉強に、僕らは忙しくて恋愛なんてしてる暇ないもんな!」
僕は終業式の帰り道をいつものように晃と帰っていた。
「よっし!そろそろ本格的に勉強はじめようぜ!明日明後日部活ないから図書館付き合え!」
明日も明後日も部活はなかった。どうやら彼女がいる先輩たちが休みにしたらしい。どっちにしても、僕らに彼女はいないから晃の提案をのむことにした。
「じゃあ明日な〜。」
分かれ道で僕らは別れた。
図書館かぁ…。そういえばあの子は何をしてるんだろうか。あんなに可愛いんだから、きっと明日は彼氏と過ごすのかな…。
家について明日に備えて早めに布団に入った。
次の朝、やる気のある晃は集合時間より30分も早く来ていたらしく、
「遅いぞっ!」と腕を組みながら言った。…ってか集合時間5分前に来たのに遅いって…
そんな風に思いながら、僕ら二人は図書館へ向かった。
久しぶりに図書館に来た僕らは人の多さにビックリした。受験が近づいてるだけあって、図書館には学生でいっぱいで座る席がないほどだった。
「おいおい、せっかくやる気出てたのに勉強できないじゃんかよぉ…」
晃はガッカリしてしゃがみこんでしまった。
晃には気が抜けるとしゃがみこむ癖があった。
さて、どうするかな…と考えていると。僕は近くにあるファーストフード店で勉強することを思いついた。
その提案にしゃがみこんでいた晃は全身で賛成し、僕らはファーストフード店へ向かった。
コーラとジンジャーエールをそれぞれ持って僕らは空いていたテーブル席に座って教科書を広げた。
たまに晃が、わからないぃと嘆き出すけれども、集中して勉強できた。晃も、あれから少し自分で勉強したのか、以前よりも問題を解けるようになっていた。
「ちょっと、休憩するか。」
と、僕が声をかけると
「この問題が終わったら!」
と教科書を睨めながら言った。
一体晃に、何が起こったのか…。黙々と文字を書いていく晃の様子を見ていた。
「だぁぁぁぁ〜終わったぁぁぁ!って、何見てんだよっ!」
「いや、あんまり熱心にやってるからさ。心配しちゃって。」
「おいおい、忘れたのか!?オレはこのテストに全てがかかってるんだよ!部活のためなら勉強だって頑張るさ!」
その熱心な気持ちを部活に関係なく持ってくれたらいいのにな…という言葉は胸の内に秘めておいた。
「なぁ、明日も多分図書館に行っても席ないと思うんだよな。あの図書館狭いし。」
今日はクリスマスイヴだというのにあんなに人がいたんだから明日も当然いるに決まってる、と思った。
「だからさ、隣の市の図書館に行かない?あそこなら広いから、空いてないってことはないと思うんだ。」
僕の提案に晃は目を輝かせ
「おぉ!隣の市に進出かぁ!なんかワクワクしてきたな!」
と大賛成してくれた。
その後しばらく勉強を再開した後、明日の集合時間を決めて、僕らは帰宅した。
晃は明日も集合時間を早くしたので僕は風呂に入り、早めに布団に入った。
次の日、僕は10分早く集合場所に到着すると、相変わらず晃はすでにそこにいた。
僕が晃に遅いと言われたのは言うまでもない。
そんなことを気にせず、僕らは切符を買って電車に乗った。隣の市の図書館は二つ離れた駅にあるので、すぐに到着した。
しばらく歩いていると、大きい洋風の建物が見えてきた。
「いやぁ〜、やっぱりでかいなぁ!オレらの市の図書館とは大違いだな!」
晃は市外にあまり出たことがないらしく、めちゃめちゃ興奮していた。
たまに来る僕でも、やっぱり大きいなと思う、その図書館に僕たちは入っていった。
やっぱり人が多いことにかわりはなかったが、席にはまだ余裕があった。
てきとうに席に座り、二人は勉強を始めた。
しばらくして、勉強に疲れた僕は、頭を抱えている晃を置いて図書館内を見て回ることにした。
この図書館には僕らの市の図書館には置いてない本がたくさんあるから、歩いているだけで楽しかった。
ぶらぶら歩いていると、一人の後ろ姿に目が止まった。あのキラキラした黒髪は…もしかすると…。
近づいてみようと思っても足が動いてくれない…。
立ち尽くしているとその人が机の上を片付け始め、こっちを振り向く……え?
その人は髪型は変わっていたが間違いなくあのときの女の子だった。
ただ、彼女は涙を流していた…。
僕に気づかずにその場を去る彼女。
僕は彼女がいなくなっても動けずに立ち尽くしていた…。