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第二章




夏休み呆けもようやくとれてきて、だんだん夜になると冬が顔を出し始めてきた、とある秋の日曜日、僕は部活も休みだったので、近くの図書館に来ていた。


だんだん受験生らしき学生の姿が見え始め、図書館にはいつもより人がいた。



そんな中、勉強の休憩がてら本を探していると、自分より背の小さい女の子が高い棚にある本を取ろうと頑張って背伸びをしていた。


その姿には少し心をくすぐるような可愛らしさがあった。

女の子は背伸びをしても届かない本をじっと見上げ、少し困った様子でキョロキョロし始めた。そこで僕らは目があった。



二重がくっきりしていて少し垂れた優しそうな目で、それでいて触らなくても流れるようにサラサラだとわかるくらい美しく輝いた黒髪を持つ女の子に、僕は少しドキッとしてしまった。

僕は幼馴染みの女の子としかあまり話したことがなかったので、緊張しながら近づいていって



「本、とってあげるよ。どれ?」


と言うとその子は



「これ…っ!」


と、背伸びをして一冊の本を指差しながら苦しそうにいった。



その本は、夏目漱石の

「こころ」という本だった。


それを手に取り、彼女に渡す。


「ありがとう。この本、読んでみたくって。」



顔を赤らめて恥ずかしそうに言う彼女を見て、なぜか僕は心臓が飛び出そうだった。それを隠すように少し微笑んでその場を去った。


机に戻ってもドキドキは止まらなかった。僕は初めて女の子が可愛いと思ってしまった。今まで可愛いなんてこと思ったことなかったのに…。中野友季もあれくらい可愛いんだろうか…。さっきうまく笑えてたかな…



勉強しようとしても、全く頭に入ってこなくて、かわりにあの女の子の顔が頭から離れなくなっていた。



でも、その中で、不思議なことにあの子の顔を見たことがあるような気がした。


どこか昔に見たことがあるような…でもあんなに可愛いのなら、芸能人に似たような顔がいたのかもしれない。

名前くらい聞いてみればよかった…って僕は何を考えているんだっ。忘れよう…


そう思って、僕は図書館を後にした。



家に帰って、ご飯を食べて、風呂に入って、また勉強を始めようと思っても、まだあの子のことが忘れられずにいた。



僕は頭が変になっちゃったのか…



寝れば忘れるだろうと思い、僕は早めに布団に入った。




次の日、僕は寝坊をしてしまって朝練習に間に合うように走って学校へ向かっていた。

ギリギリ間に合って、練習が終わる頃にはもうあの子のことは頭から薄らいでいっていた。



「そろそろ次のテストちかづいてきたぞ!やべぇ〜!葵!勉強教えてくれ!」


放課後、いつものように晃と帰り道を歩いていると晃が嘆いてきた。



「冬休みもまだだから大丈夫だよ。そう焦るなって。」


「でもよぉ、次は学年末だから範囲が今までより長いだろぉ?お前みたいに頭よくないから、早めにやらないとヤバイんだよぉ…。」


「わかったよ。じゃあ日曜日、部活が終わったら図書館に行こう。」



図書館…という言葉を口にした瞬間、またあの子が頭の中に出てきた。



「どうした?葵、なんか悩みでもあるのか?オレがきいてやってもいいぞ〜。」


晃は鈍いのか鋭いのかわからない男だ。僕は何を血迷ったか、晃にあの子のことを話してしまった。もしかしたら、誰かに話したかったのかもしれない。



「へぇ、そんなに可愛かったのか。じゃあまた図書館にいるかもな!」



「いてもいなくても、僕はみっちりお前をしごいてやるから安心しろよ。」



「くぅ〜っ。こりゃ地獄の日曜日になりそうだ。」



「なぁ、晃。お前人を好きになったことある?」


「なんだよ急に真剣な顔で。オレはサッカー一筋だぜぇ〜!」



はしゃぐ晃と笑いながら、僕は密かに心のどこかであの子がまた図書館にいたらいいなぁって思っていた。




次の日曜日。



「うお〜、今日も疲れたぜぇ…」


部活が終わってスポーツドリンクをぐびぐび飲みながら晃が声を枯らして言った。



「でも今日は図書館にいくんだからな。地獄はこれからだぜぇ〜。」


僕が笑いながら言うと



「忘れてたぁぁぁ…今日はやっぱり家で休まね?お前も疲れてんだろ?」



「図書館に行くのはお前のためなんだからな?早くいくぞ!しごく時間がなくなっちまう。」



「オレのためとか言っといて、お前はあの子が気になるんじゃねぇの〜?」


と、ニヤニヤしながら図星を言ってくる晃に焦りを感じ


「ば、ばか!んなわけないだろ!?罰としてめっちゃしごいてやる!早くいくぞ!」



晃が、まってくれよぉ〜。と急いで着替えてる中で、僕はまたドキドキし始めていた。


いるかな…。いたら何て話しかけようかな…。僕のこと、覚えててくれてるかな…



頭ではそんなことを考えながら、晃と図書館に向かった。



今日も図書館にはたくさんの人がいた。僕らはちょうど空いた席に座って晃が教科書を開き始めた。


「まずは数学だな。オレ図形だめなんだよなぁ…」



僕は三角形について晃に教えて、後は晃が問題を解くだけになった。



「じゃあ僕は暇潰しに読む本を探してくるから、ちゃんと問題やってろよ。」



「はいはい、あの子を探しにね。早く帰ってこいよ。」



「ばっか。」


馴れ合いをした後、僕は本を探しに行った。どんな本を読もうか迷っていると、ふと、夏目漱石の

「こころ」が頭に浮かんだ。


あの子が読みたかったのはどんな内容だったのかな…


ぶらぶらして、僕はあの本棚の前に来た。

ここに来れば、あの子がまたいるかもしれないと思ったけど、そこには誰もいなくて少しがっかりしてしまった。


「こころ」があった場所を見ると、そこにはもうあの子が返却したそれが置いてあった。


僕はそれを手に取り、晃が待つ机に向かった。



机に戻ると晃は頭を抱えていて今にも耳から煙が出てきそうなほど悩んでいた。


「なぁ、葵。やっぱわかんね…」


僕は呆れながら晃に問題の解き方を教えていき、気づけば閉館時間になっていた。


「いやぁ〜。今日は勉強したなぁ〜。お前のお陰で三角形はばっちしだぜっ!」


自信に満ちた晃を見て、僕は役に立ったことに少し喜びながらも、あの子が読みたがってた本を結局読めなかったことに少し悲しんでいた。



本を元の場所に戻しにいくときにも、無意識にあの子のことを探してしまっていた。



今日は来なかったんだな…


内面少しガッカリしながらその日は家に帰った。



それから僕は、部活が早く終わる時は必ず図書館にいくようになった。



それでも、あれからあの子の姿を見ることはなく、部活も大会が始まったり練習試合があったりで、図書館にも行かなくなり、だんだんあの子のことを忘れるようになっていった。




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