初めての喧嘩(バトル)③
「痛ってっっぇぇぇぇぇぇぇーーーーくない?
あれ? 全然痛くないぞ。
ここは……俺の部屋か?」
(あれだけボコボコにされたのに、
痛くもないし傷一つ残っていない)
そして俺の部屋に戻ってきている。
どうやら倒されると部屋に戻ってくるシステムの様だな。
なるほど。
しっかりとゲームになっているようだな。
倒されるとどうなるか確認できて良かったぜ。
この確認を怠るとーー
「何わざと聞こえる大きさでブツブツ言ってるガオ。
オマエ負けたガオ。
あっガォハッハあんなけカッコつけといて
ガォハッハ棒立ちでやられ……
だ、駄目ガオ。
我慢できなぃガォハッハッハッハ!
お、思い出しても、クソ笑えるガオっ!
ガォハッハガォハッハッハッハッハッハ〜」
キィィィィィィィィィ!
こ、こいつ本気で笑いやがって。
こっちは喧嘩なんか一回もした事がないっつーの!
いくら強化されてるとは言え、
心は純真無垢な赤ん坊のままなの俺は!
……だが何かおかしいんだよなぁ。
ーーーーーーーー
「待たせちまったな、やっさん。
ホントはゆっくり遊んでやりたいんだが、
俺は忙しいんでな。
速攻速殺で終わらせて貰うぜ。
ふふ、きな。
先攻はくれてやるぜっ!」クイックイッ
俺の一言にブチ切れたやっさんは、
全力で俺に向かってくる。
右拳を振り上げ、
それを俺の顔目掛けて振り下ろしてくる。
不思議だ。
それら動作を喧嘩もした事もない俺が、
完全に見切っているのだ。
右か左、どちらに避けようか。
そんな事を考える余裕まであるのだ。
これがステータスの差か。
右に避けとくかーーなっ!?
「う、動けなグハッ!
な、なんガハッでーー
ちょ、ちょっとタンマぁゴグハッ」
やっさんの拳と膝の連打がやってくる。
ちゃ、ちゃんと見えている……が、身体が動かない!
こ、これはーー恐怖!?
殴られた事なんてない俺は、
自分の心の奥底で恐怖を感じてしまっているのか。
それで身体が硬直してしまい動けないのか!?
この感覚は高揚ではなく恐怖だったのか!?
「さっきの威勢はどうしたワレェ〜?
反撃してこぉ〜へんのかぁ〜?
おぉ〜?
ならこいつで決めちゃるでぇ勝負をよぉ〜。
スキル【下っ端乱撃ダンス】!」
やっさんがそう叫ぶと、やっさんの手足が白く輝き出す。
そして、先ほどのまで余裕があった筈の攻撃が、
目で追えなくなっていた。
綺麗な光の残像が、夏の夜に飛び交うホタルの光の様だ。
ヤクザの癖に綺麗なスキル持ってるじゃないか。
焦る心を妖精達が癒してくれ……るかぁぁぁぁボケェェェ!!
なんでこうもビビってるんだ俺は!!
このままじゃやばいっ。
痛みはそこまでひどくはないが、
ダメージが蓄積されていくのを感じるぞ。
くそっくそっくそっ!
く、くやじぃ……グスッ……余裕だと思って……実際いけると思ったのに。
グスッ………あ”んなにがっごづげだのにぃぃぃぃぃぃぃぃーー
(ゴフッ、ぐぞっぐぞっ、ガハッ、
何びびってんだ俺! 動け! 動けよ!!
ングフッ、ハァハァ……やばい……意識が…………遠の……く……)
ーーーーーーーー
今思い出してもクソ恥ずかしい。
なぜあんなにカッコつけてしまったのだろうか。
しかし、攻撃も見えていたし、痛みも思った程でもなかった。
俺の方が完全に格上だと思ったんだがな。
……いやそれよりも、うさ耳に申し訳ない。
こんなチュートリアルで負ける様な奴が、
自分のキャラクターだなんて。
しかも、リセマラもできな仕様……
俺だったらもう消してるよこんなクソゲー……
「あ、あの……うさ耳ごめーー」
「ごめんねっキング!
あんなひどい事してっ。
わ、私一応止めたんだよ?
で、でも……ミエルが面白いからって……」
ん? ボクじゃなくなってるな。
こういう時はうさ耳は本気で喋ってる証拠だ。
はてはて、ひどい事?
まさかいきなりクソ強い敵に挑まされたのか?
「うさ耳様が謝る必要なんてないガオ!
キングがカッコつけて人の話聞かないのが悪いガオ。
キング、これはチュートリアルガオ。
分かるガオが?」
う、うむ。
それは分かってるつもりだ。
チュートリアルバトルだから……なんなんだ?
全然言いたい事が伝わってこないぞ。
「バトルに弱いだけじゃなく頭も弱いガオ。
これはうさ耳様の為のチュートリアルバトルガオ。
だからプレイヤー操作限定だガオ。
まるで自分の身体の様に、
自由にキングを動かせる様に、そういう為ガオ」
ブァッ!!??
だ、だ、だ、だからか。
ど、どおりで身体が全く動かないはずだ……
いや……え? うさ耳が俺を自由に動かせるの?
まぁ……考えても見れば動かせるのは当然っちゃ当然だが。
寧ろうさ耳が動かせなかったらただ見てるだけのゲームだもんな。
しかし一体どうやって動かすのだろうか。
後ろから抱きつき、
手足を一緒に縛って二人羽織的な……でへへ。
「さっ、次こそちゃんとやるガオ。
そろそろ中断する時間だガオ。
ゲームは一日一時間だガオ」
いや、もうとっとくに一時間なんて過ぎてると思うが。
一応運営的な建前は言っとかなきゃ駄目なのかな。
まぁ俺も今日は疲れた。
そろそろゆっくり休みたいよ。
「オッケー♪
じゃぁ戦う前に操作も慣れときたいし、
今回はこっからボクが操作してくよー」
パンッスー
プレイヤー操作ON! ポンッ
うぉっ! この感覚はーー!?
セブンナイツにハマっております。