其の六
蘇った死者たちを迎え撃つという道士の考え。
法術の要は娘の手による”火魄”。
居を棄てず村を護らんという道士の考えを受け、再び協議の場が設けられた。案には村を出んとしていた者は元より、残って対策を講ぜんとした内からも反発が起きた。だが退いた所で望みはなし、ならば士の法力を頼み我らは弓を取らんかとの声も新しく出てくる。事実、あのように数多の屍を動かしたとほうもない力への畏敬の念は、すでに一同の心に根付いているのだ。
飛び交う賛否の声が静かになると、長たる古老は膝を打ち、村内より志願者を募ることを決めた。
村を出て東にある広野は、かつて湖で、秦代には人の腹より産まれし三匹の蛟が棲んでいたとも伝えられているという。今では痩せた草が赤土の上にそよぐばかりの荒地だが、ここへいま生えたように立ち尽くしているのがあの四百の死者達であった。各々手には桃木の剣が握らされ、方形に陣取る形で月光の下微動だにせず、石のような表情で東の闇を向いている。
この後ろに隠れるように、荒野の端ちかくで火を起こし、村の男達は待機していた。最後の協議より二日が経っており、陣に加わらんと集ったのは三十三名。多くは血気ある偉丈夫や盛年の者であったが、中には白い頭も幾つか見える。さすがに老夫らは控えさせようという者もいたが、道士の口添えにより弓を持つことになった。
馬走らせた者より日暮れ前には殤鬼が現われるだろうとの報せであったが、宵の口を過ぎても未だその気配はない。冷たく吹く夜風が女人の如く細く鳴き、待ち人達が寒さと緊張に襟を抱いていると、傍のあばら家よりひょいと朱蘭が姿を現した。朽ちかけの小屋はもと湖の船守の居た所だが、この内に灯明や火炉などを運んで即席の霊壇を築き、四百もの死者を兵と成すために今は道士が篭っている。
「少量ですが……」
娘は酒壺を傾け、暖のため少しの酒を振舞っていく。男達は立ったまま杯を回し、胃の腑に染み入る温かさと、焔に照らされた娘の美しさに束の間憂を忘れた。
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