其の五
魔物退治に道士は乗り気ですが、娘は不満な様子。
遠く西門よりくる娘の操る馬車。やがてその後へ続く人の列に気付き、これを眼にした人々は皆一様に体を凍りつかせた。
ガラガラと軋み行く車を、ぎこちなく歩み追う者等の異様の風体。鉛色に萎んだ身へ朽ちた衣を纏い、しかし破れているのは衣ばかりでなく下の皮膚も同様で、そのあちこちの穴から無数の蛆や地虫を沸き出させている。腹部だけが臨月のごとく膨らんでおり、内には腐り落ちた臓腑が溜まっているらしく悪臭が開け放しの口より洩れていたが、これが周囲をたまらぬ屠殺場の空気に変えていく。列は延々として途切れず、これらの内にも老若男女の判別がついたが、破れ腹よりたらした腸を摺ってゆく小児の姿を認めるや、多くの者がその場に呻き、こらえきれずに嘔吐した。
どこからか甲高い女の悲鳴が聞こえてくる。知らず水汲みよりもどって行列と出くわし、目玉の抜けた眼窩と対面したらしい。しかし、先に戻って来た者らの呼びかけがなければ、男達とて声をあげこの場から逃げ去っていたに違いなかった。
長くひいた列の尾が、やがて東門に消えると、道家の車だけが返って来る。
集った人々に道士が言う。
「準備は整えました。あれら死者を前線へ、里人は後方で弓の陣をとり、先の原にて凶事を迎え討つ考えです」
死屍たる殤鬼を死屍たる力にて撃つ――これが道家の案であった。
帰ってきた者らの話を聞けば、飢饉に潰えた村へ着くや道士は骸を集めるよう指示したという。時節柄、死体は見慣れていたもののさすがに難色を示した彼らの前で、道士は自ら家屋へ入り干からびた体を抱えてきた。これを見てはやむをえず、鼻口を手拭で覆い、うなる羽虫を払いつ硬い遺体を運び出すと、同じく口元へ白布を巻いたあの道家の娘が、右に筆、左に墨壺を提げ待ち構えていた。娘は隠された口で何かぶつぶつ不満事を洩らしている様子だったが、筆もつ白い手が素早く走ると、死者の胸や腹には“火魄”の二字が朱墨にて書き記されていった。「火と赤には強く陽の気が含まれております故、これが法術の要となるのです」問うと娘は眠たげに答えた。
腐敗や損壊の激しいものは省きながら、それでも日没の頃にはおよそ四百の屍が村道へ敷き詰められた。男達は疲れきった体を空家へ横たえたが、道士と娘は火を焚き遅くまで供養をしていたらしい。そして一夜を明かし手伝いの者らが眼にしたのは、まるで冥府へ迷い込んだが如きかの死者たちの並び立つ異景であったという次第――。
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