其の三
道士らしき男と少女はいわくありげな村へと招かれます。
屋内には村の代表達による円座の席が設けられており、報せを受け、古老は道士らを歓迎すると、静かに事情を語り始める。
「これより東方二百里にそびえます庸嶺山には、かつて都から戦へ向かうのに用いられた坑道がございました。しかしあるとき楊度なる将がここを抜けようとした際、同胞の裏切りに遭って出入口を塞がれてしまったのです」
秦代の頃に活躍した武将の話である。将軍楊度は勇猛でその名を馳せていたが、一方ではその余りに傲然とした気質に眉をひそめる者も多く、ある戦の折、出立前に上臣を侮蔑するかのような言葉を吐いたのが災いしたらしい。勝戦に揚々引き上げる帰途、恥辱を受けた臣の姦計により将軍以下五十余名の者が山中へ生き埋めにされたのだという。それから数百年の経過した今になり件の山膚が地鳴りと共に崩れた。再び開いた洞穴からは、在り得ぬ事に、錆びた鎧に身固めた骸の兵が這い出てきたのである。
「殤鬼と化していたか」
憂いを含んだ道士の声に、老人は頷くと、
「天意離れれば国衰え、果ては鬼魅生ずると申しますれば、おそらく昨今の政乱に応じた怪異災象が地下の気を乱し、屍兵をも呼び起こしたのでございましょう。魔性と化した楊将軍は死者の軍勢を率い人を襲うようになったのです。この手に掛かった者は、また同じく殤鬼となり果てて、その数は増し今や千にも及ぶ勢いと聞いております……」
話者の声が静かになると、座の視線は客人に向けられた。長と名乗った壮年らしき道士は、豊かに伸びた顎鬚の前で腕を組み泰然と眼を伏せたままでいる。病でも抱えているのか、灯りに浮かんだ肌はどこか褪せて見えたが、しかし彫り深く強く締まった面構えは、壇前で儀文を読み上げるよりも、どちらかといえば馬上で檄を飛ばす武人の勇を忍ばせるものがある。
その横の道家の弟子と思しき朱蘭なる娘は対称的である。雪の肌に眉目のはっきり黒映えした、仙女の如き鮮やかな美貌にはだれもが息を呑んだが、話の最中、娘は退屈を隠しもせず、長爪を気にしたり、牡丹の髪飾りをいじくったり、時折は欠伸をかみ殺してまでいて、
「それで、頼みたいことってなんでしょう?」
黙したままの道士に焦れたらしく、先んじて口を切った。
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