其の十
決着です。
二つの影がかさなり、重鉄の音が響く。真っ向よりふり下ろされた楊度の剣を長柄がうけていたが、即弾き合うようにして離れると、道士が刺突を繰り出した。これを将軍の剣が横薙ぎに返し、つづく突撃も払われて、打ちあいは次第に疾く激しくなっていく。魔人たる将軍のみならず、その動きは道士とても人の業とは思えず、留まらぬ加速はもはや見守る者らに追いきれるものではなかった。
絡みあう鋼の動きのなか、主たる攻め手は間合いに長じた道士にあった。攻防のわずかな隙をつき、腰を沈めて将軍の膝を狙っては、跳躍でかわされたところへ柄頭の打突をくりだす。見事鎧の胴をうち砕くも、引き抜かんとした柄を将軍が掴み止め、着地するや鬼の拳が叩き込まれた。鈍い音がし、長柄が中央より折られる様が人々の眼にもはっきり見えた。
攻めの利を失い、間を取らんとした道士の頭上へ稲妻のごとき一閃が落ちた。短くなった大刀でかろうじて受けたが、剣はすでに右肩半ばまで喰い込んでいる。将軍の双肩が隆と盛り上がり、圧し掛かる巨岩の重さがついに受け手に片膝をつかせた。
「道士様！」
窮地とみて、男達が死者の木剣をひろい駆け付けたが、蒼く光る鬼の双眸に射竦められ踏み入ることができない。
だが、将軍がこれらの者に気を向けた、その一瞬――道士の体が凄まじい力で跳ねあがった。
必然、刃に咬まれていた右肩は断たれ、隻腕となって将軍の背後へ着地する。即座に折れた大刀を構え振り向いたが、将軍は動かなかった。
鬼の手から剣が滑り落ち、巨躯は脳天より二つに裂け、しずかに土と還っていく。先の瞬間、片腕を捨てた道士の跳躍は、同時に対手の正中を深く斬り上げていたのだ。
凄絶なる決着に皆言葉を失っていると、落ちた右腕を拾い道士が歩み戻ってきた。汗もなく呼吸一つ乱していない様子に驚いたが、更に激戦にはだけた着物の下、その胸元が見えて「あっ」と声が上げられた。
左の胸にはあの死者達と同じく“火魄”の二字が赤く刻まれていたのである。
小屋へ入る黒衣の背を唖然として見送り、我に返って追いかけると、道士が中央で仰向けになり眼を伏せている。その横では、憔悴し切った様子の娘がへたり込んでは、
「勝手に飛び出してこのような……あなたのように主の言を聞かぬ畢は初めてです。ああ、老君に一体何と申し開きをすれば……」
嘆き、汗に濡れた顔を袖へ伏すのだった。
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