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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
一章 【初陣】
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『決意』

 「この店に客が来るなんて滅多にねぇし……冒険者か? だったら、早いところうちの街に回してもらわねぇと困るんだがな」

男は面倒くさそうにそう言うと、二人をジロジロと眺め始めた。

「隊長さん。彼らはただの客だ。冒険者じゃない。一人で酒を飲みたいのはわかるが、もう少しゆっくりさせてやってくれないか?」

その様子を見たマスターは男の方を向くと、額に汗を浮かべながらそう言った。


 「客だ? ……ははは! 普段人っ子一人いないこの酒場に客とは珍しい。明日は雪でも降るんじゃないか?」

二人から目を離した男は、腹に手をあてて笑い出した。

その店を馬鹿にしたような態度にとうとう我慢できなくなったのか、マスターは男を睨みつけると

「そもそも、この店から客が居なくなったのはお前のせいだろう! お前が酒を飲んで騒ぐ姿を恐れて、村人は皆この酒場から離れていってしまったんだ!」

と、はっきりとした口調で言った。


 直後、男の顔から笑みが消えた。

「……おい、マスター。お前、俺にそんな態度とっていいと思ってんのか?」

そう言うと男はずかずかとマスターへ歩み寄り、ギロリと睨み返す。


 「な、なんか嫌な雰囲気になってきたわよ? やっぱり、早く助けないとこの店やばいんじゃ――」

「うん。やばいね。だから急ごう。今のうちに逃げるんだ。巻き込まれたくない」

「だからなんであなたはそうなるのよ!?」

険悪な雰囲気を感じ取ったリリーが隣を見ると、既に越喜来は外へ繋がる扉に手をかけていた。

先程と同じようにツッコミを入れつつ、リリーは必死でそれを止める。


 「はあ、何度も同じ事言わせないでよ。これは僕たちに解決できる問題じゃないんだ。助けるにしても方法がないし、リスクしかない」

何度も越喜来はため息をつきながら言うと、リリーを無視して再度扉に手を掛ける。

そして、そのまま外へ出ていこうとした――


 「いいか? 俺にはこの村への援助を打ち切る権限がある。これはお前だけの問題じゃないんだぞ! わかったらこれ以上俺を怒らせるな!」


 カウンターの方から、男の怒鳴り声が響いてきた。

「あ……」

それを聞いた越喜来は、扉を開こうとした姿勢のまま、目を見開いて固まってしまった。

「ねぇ、どうかしたの? 何で固まってるのよ?」

急に動きを止めた越喜来を見て心配したのか、リリーが恐る恐る声をかける。


 「嘘をついている」

「え?」

「あいつは嘘をついている。僕にはわかるんだ。あいつは何かを隠している」

越喜来は、男の声のイントネーションや大きさから、男が嘘をついていることを見抜いた。

しかし、それがわかったにも関わらず、彼はその場から動こうとしない。


 「あいつが嘘を? それよ! さっきみたいにそれを指摘してやればいいじゃない! そうすれば、何かしら解決策が見つかるかもしれないわ!」

そう言って騒ぐリリーとは対照的に、越喜来は暗い表情で考え事をしていた。

「あ、あれ? 私何か変なこと言ってる?」

その様子に気づいたリリーが問いかけるが、越喜来は依然として黙り込んだままだった


 (ダメだ。相手は剣を持っている。普通に考えて、話し合いが成立する訳が無い。

それにあんな権力のあるやつに歯向かったら、どんな目に遭うか。

リスクが大き過ぎるんだ。だから今回は、諦めよう。

深く追及したいけれど、我慢しよう)


 心の中で、いくつものネガティブな考えが沸き起こる。

しかしそこで、越喜来は思い出した。


(何故、僕は異世界に行きたいと願ったんだ?

別にドラゴンに会いたかったわけじゃない。勇者になりたかったわけでもない。

ただ、言いたいことを気兼ねなく言いたかった。それだけだった)


 (今更、何を躊躇することがある?

マスターがそうだったように、この世界は僕を受け入れてくれるかもしれない。

失敗するリスク?傷つけられるリスク?

それがどうした。そんなもの、日常茶飯事だ。

いつでも僕は失敗してきた。

いつでも僕は傷ついてきた。)


 (今ままでだって僕は、"ずっとそうやって生きてきた"!)


 越喜来はそう結論を出すと静かに目を閉じ、扉から手を離した。

そして深呼吸をすると、そのままカウンターの方へ歩き出す。

「ちょ、ちょっと! 結局助けることにしたの? 何か言ってよ!」

突然動き出した越喜来の後を、リリーが追う。


 越喜来は、男の前で足を止めた。

「ん?お前ら、まだ帰ってなかったのか」

近づいてきた二人に気がついたのか、男はマスターを睨むのをやめた。

「これは俺とマスターの問題だ。何の関係もない一般人は引っ込んでろよ」

男は二人の方を見もせずに、興味の無さそうな声でそう言った。


 「お前、嘘ついてるだろ」


 その時、越喜来の言葉が一切の遠慮もなしに男に噛み付いた。

「……は?」

あまりに急な出来事に、男は全く反応できない。

「だから、嘘ついてるだろって」

聞き返した男に、もう一度言葉を浴せた。

ようやく意味を理解した男は、越喜来の方を向くと

「喧嘩売ってんのか? お前、何様のつもりだよ」

と、目を閉じたままの越喜来を鋭く睨みつけた。


 「マスターが言っていた通り、ただのお客様だよ」

越喜来は静かにそう答えると、目を開いた。その目は、ぼんやりと青い光を帯びている。


 「うわ、恐い顔してるなあ。落ち着いて落ち着いて! 話せばわかる!」

男に睨まれていることを把握した越喜来は、軽い口調でそう言うと、柄を握り今にも剣を抜こうとしている男に向かって

「だから、話し合いで解決しよう」

と、言ったのであった。



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