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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
四章 【宗教】
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『左右』

 「予想通り? どういうことだよ」

越喜来の意味有りげな発言を、ロックは不信に思ったらしい。

くぐもった声で言った彼は、越喜来に疑いの目を向けていた。


 「ここに来た時から、何か宗教が流行っているとは思ってたんだ。それで今君の話を聞いて、納得したってわけさ」

一方の越喜来は、この程度の視線は慣れっこなのか涼しい顔をしていた。

「え? でも師匠。そんな宗教が流行ってそうな様子ありましたか? 確かに、『聖壁』とかそれらしい言葉はでてましたけど……」

「いや、それだけじゃない。疑わしい要素なら数え切れないほどあったよ。君が見落としているだけで、世界には無数の情報が散らばっているんだ」

首をかしげたジニアにそう言って、越喜来は話を続けた。


 「無意味な男女の区別。これは結構いろんな宗教に存在するんだ。ここは違うみたいだけど、普通はどちらかの性が差別されることが多い。それに、性別によって服装が固定されている。こういう習慣には、宗教的な意味合いがある場合が多いんだよ」

この時彼は、かつて自分がいた世界の宗教を思い出していた。

世界は違えど、宗教の成り立ちや思考パターンは同じなはず。そう踏んで、彼は宗教の流行を予想していたのだ。


 「それに、ジニアが『リリー』という"女性名に聞こえる単語"を言っただけで、僕たちは睨まれたからね。その後誤魔化したから良かったものの、あの時彼らからは殺気すら感じ取れた。あそこまで人を統率できるのは、宗教しかありえないよ」

「あっ、だからあの時『ウサギのリリー』なんて言ったんですね?」

「うん。まあ、本人にウサギなんて言ったら怒られそうだけどさ……」

ジニアの言葉を聞いた越喜来が、怯えた顔をして冷や汗をかく。

彼の頭の中では、リリーがウサギの耳をつけながら猛烈な勢いで怒っている姿が再生されていた。


 そんな彼らの気楽な姿を見て気が抜けたのか、いつのまにかロックの顔からは疑いの色が消えていた。

「すごい観察力だな……てっきり、妙な魔法でも使ったんじゃないかと思っちまったよ」

感心して目を見開いたロックが、越喜来をジロジロと眺めて言う。

「そんな魔法、使えるわけないじゃないか……それより、もう一つ聞きたいことがあるんだ。いいかな?」

「聞きたいこと? なんだよ」



 「君、壁を越えようとして怒られたんだよね?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「そもそも、なんで越えようとしたのさ。この街にいる人なら、普通ルールを破るなんてことしないはずでしょ?」

越喜来が、ロックの目を見つめながら問いかける。それを聞いた彼は、明るさを取り戻した顔をまたもや曇らせてしまった。

「それは、ちょっと色々あってだな……」

言いにくい内容なのだろうか。ロックは目を伏せて頭を掻くと、恥ずかしそうに口を開いた。 


 

 「こらああああああああああああああああああ!」

しかし彼の口から言葉が発せられた瞬間、それをかき消すほどの大声が辺りに響きわたった。

突然の出来事に、固まる三人。そんな彼らの目の前に、巨大な魔法陣が現れる。

そこに映る映像の中では、リリーがものすごい剣幕で彼らのことを睨んでいた。


 「り、リリー。どうしたんだ? 何か怒ってるみたいだけど……」

「どうしたですって!? 怒らせたのはあなたでしょ! なに勝手に連絡魔法切ってんのよ!?」

「いや僕はただ、あの状況で最善のことをしたまでで……」

「何が最善よ! ただでさえ合流できないんだから、なるべく連絡を絶やさないようにしなきゃいけないことくらいわかるでしょ!?」

リリーは怒り心頭と言った様子で、慌てる越喜来に文句をぶつける。その迫力といったら、魔法陣から飛び出してきそうなほどだった。


 「だいたい今だって何してたのよ! やけに慌ててるけど、私の悪口でも言ってたんじゃないでしょうね!?」

越喜来の様子を見て怪しんだのか、リリーが興奮気味に言った。それを聞いた越喜来はギクリとした顔をして、黙って汗を流すことしかできない。

「何よその反応。やっぱり悪口言ってたのね!」

「い、いや言ってないよ。ウサギだなんて一言も……」

「ウサギ?」

(しまった!)

ジロジロと見られるプレッシャーに耐えきれず、越喜来はつい口を滑らせてしまった。突然発せられた場違いな言葉に、リリーが眉をひそめる。


 「ま、待ってください! ほら、師匠は『ウサギみたいでかわいい』って言ってたんですよ! ね、師匠?」

「え? あ、ああ、そうだよ。リリーって小動物的なかわいさがあるからね。ははは……」

そんな二人のやりとりを見て、ジニアが堪らず助け舟を出した。越喜来はとっさにその話に乗っかると、苦し紛れに苦笑いを浮かべる。


 「そ、そう?」

「うん! かわいいかわいい。別に悪口なんて言ってないって。だから落ち着いてよ」

「な、ならいいけど……」

面と向かってかわいいと言われ、リリーは怒りも忘れて黙り込んでしまった。その顔は赤く染まり、表情は緩んでいる。

それもそのはず。彼女は今まで仕事漬けで、"かわいい"などと他人から褒められたことなど無いのだ。それが突然容姿を褒められれば、こんな反応になるのも無理のない話だった。


 その後ろで、アイリスは宝物を奪われた子供のような顔をしていた。すっかり照れてしまったリリーをしばらく見つめると、涙ぐんだ目で越喜来をキッと睨みつける。

「……なにかな? アイリス。僕何だか殺意を感じるんだけど」

「なんでもないですよ……」

アイリスは不機嫌そうな声でそう言い切ると、黙ってそっぽを向いてしまった。



 と、そこでリリーは何かに気づいたようだった。ニヤけた顔を元に戻すと、越喜来達の方を指さす。

「ねぇ、そこでちっちゃくなってる人、誰?」

「ん? 誰のことを……ってうわ! ロック、どうしたの!?」

越喜来が指差す方向を目で追うと、そこには恥ずかしそうに縮こまり顔を隠したロックの姿があった。


 「だ、だって仕方ないだろ? 生まれてこのかた、妹以外の女を見たことなんてほとんどないんだ。それでいきなりそんな露出の多い女子が出てきちゃ、緊張しないわけ無いだろ……」

「それもそうだけどさ……話が進まないから、一旦出てきてよ」

リリー達を見て照れるロックを引っ張り、越喜来は無理矢理魔法陣の前に彼を立たせた。

露出の多い彼女達を前にして、どこに目をやっていいのかわからないのだろう。ロックは目を横に逸らし、チラチラと伺うようにして二人を見ている。


 「彼はロック。さっき聖壁を越えようとして兵士にボコボコにされてたところを、ジニアが助けたんだ」

越喜来は魔法陣の奥で軽く引いてしまっている二人に対して、彼のことを、そして先程彼から聞いたことを説明し始めた。





 「カトレア教、ねぇ……」

説明を聞き終えたリリーが、ぽつりと呟いた。

「どういう宗教か知りませんけど、タチが悪いですね。男女を無理矢理分けるなんて、何のためにしてるんでしょう?」

それを受ける形で言ったアイリスが、指先で髪を弄んでいる。


「実は、僕たちも詳しい説明は聞いてないんだ。そこで今、彼に何故ルールを破ったのかも含めて説明を受けようとしてたのさ。ロック説明の続き頼めるかな?」

越喜来はそう言ってロックを見つめると、ゆっくりとした口調で彼に頼んだ。



 「……さっきも言った通り、カトレア教では男女交流を禁止しているんだ。誰も理由は知らねぇんだけどな? ただ、ある程度の年齢まで達していない子供だけは、家族とともに異性側の区画に住んでいいってルールがあるんだ」

ロックは説明を促す越喜来に頷くと、神妙な面持ちで口を開いた。


 「俺の家は両親が早死しててな。妹のポットと二人で、男区画の方に住んでたんだ。あいつ、まだ一人で夜も眠れねえようなガキなんだよ。それなのに、この前あいつは強制的に女区画に移動になったんだ」

「急に? 変な話だね」

「ああ。あいつの歳じゃ、まだこっちに居ても良かったはずだ。それでどうしても気になって、こっそり女区画に忍び込もうとしたってわけさ」

ロックはそこまで説明すると、口を閉じて魔法陣の方へ体を向けた。


 「なあ、あんたら今女区画に居るんだろ? よかったら、俺の妹を探してくれないか。青い髪してて目立つから、すぐ見つかると思うんだが……頼む!」

そう言って頭を下げる姿には、一切の迷いがない。彼が妹のことをとても心配しているということが、はっきりと見て取れた。

「別に私はいいけど……それと並行して、合流するための方法を探さないといけないんでしょ? 何だか忙しくなりそうね」

「いや、その点に関しては大丈夫じゃないかな?」

それに対し若干不安そうな声をあげたリリーに、越喜来が反論した。


 「どういうこと?」

「もしこれで妹さんの行方がわからなかったら、『行方不明者の捜索』って立派な理由が出来るだろう? そうすれば、僕らは堂々と合流できるってわけさ」

「じゃあすぐに見つかっちゃったら?」

「その時は空いた時間でまた合流法を探すまでだよ。少なくとも、負担が二倍になるなんてことにはならない」

越喜来が、リリーを説得する。その横では、ロックが心配そうな顔で結論が出るのを待っていた。


 「……それもそうね。わかったわ。明日、あなたの妹を探してみる。いいわよね、アイリス?」

「私がリリーさんの意見に反論するわけ無いじゃないですか! 賛成ですよ、当然」

確認するようなリリーの言葉に、当然のようにアイリスが同意する。

「ほ、本当か? ありがとう! 俺には感謝することしかできねぇが、妹のこと頼んだぜ!」

妹を助けてもらえるとわかり、ロックが目を輝かせて礼を言った。


 その後、一通り情報交換を済ませた彼らは、明日に備えて休息を取ることにしたのだった。





 翌日。街のベンチに座った越喜来とジニアは、ただひたすらに暇を持て余していた。


 「いやー、それにしても暇だね」

「ですね……って、『暇だね』じゃないですよ! なんでボクたちこんなにグータラしてるんですか!?」

大きく伸びをしながらあくびをする越喜来に、ジニアが大声をあげる。

時刻は既に朝を過ぎ、まもなく昼になろうとしていた。


 「何をそんなに怒ってるのさ。今はリリー達が頑張ってくれてるんだから、僕達はゆっくり休もうよ」

「いや、だからですね? 仲間が頑張ってるのを横目にゆっくり休憩できるって、師匠はどういう神経してるんですか!?」

越喜来は全く気にしていないが、ジニアのように責任感の強い人間にとって、全てを仲間に任せて怠けるという行為は酷く抵抗を覚えるものだった。


 そもそも今日は教会を探し、少しでもこの街の宗教について知っておこうという予定だったのだ。

だというのに全く行動を起こさない越喜来に、ジニアは憤りさえ感じていた。


 「でもさジニア、現に今僕達にできることなんて何もない。ロックは朝一番に『こうしちゃいられねぇ!』とか言って宿から飛び出していっちゃったし……彼がいなきゃ、街を見て回ることすらできないよ?」

「それは、そうですけど……」

理屈はわかるし、筋も通っている。

それでも反論したくなるような越喜来の発言に、ジニアは言葉を見つけられず口をパクパクとさせて戸惑うことしかできなかった。


 「そ、そうだ。道がわからないなら、街の人に聞けばいいじゃないですか!」

「いや、それは不可能だ。周りを見てみなよ」

なんとか言葉を捻り出し反論したジニアの言葉を、越喜来はあっさりと否定する。

彼の指差す先では、普段と変わらない様子で街人が生活していた。


 「特に変わったところはありませんよ?」

「……君がそう思うならそうなんだろうね。なら実際に道を聞いてみたらどう?」

「え? まあいいですけど……」

越喜来に促され、怪訝な顔をしながらジニアはベンチから立ち上がり、街人の方へと歩き出した。

と、彼が接近してくるのを見るやいなや、街人達は突然表情を固くし、彼から目をそらし始めた。


 「あのーすみません。ボクたち今、教会への道がわからなくて困ってるんですけど……」

「へっ!? お、俺は今忙しいんだ。よそを当たってくれよ!」

ジニアが近くの男に声をかける。しかしその男はジニアを見て額から汗を流すと、そんな言葉を残して足早に去っていってしまった。


 「あ、あの! えーと、その。すみません、誰か……」

ジニアは必死に声をかけるが、全て無駄だった。

街人は彼を見た途端目を逸らし、ろくに返事もせずに逃げてしまうのだ。



 「だから言ったでしょ? 道を聞くのは不可能だって」

涙目になってオロオロとしているジニアのもとへ、越喜来が歩いてきた。


 「昨日、リリーの名前を出したこと。それに、街のルールを無視したロックを助けたこと。この二つの件で、街の人からの僕達のイメージは最悪なのさ」

「イメージが……?」

「そう。それに、これだけ閉鎖された街だ。"よそ者"ってだけで、迫害を受けるには十分すぎる理由を持ってると言えるよね?」

その顔にはいつも通りのニヤけた表情が張り付いていたが、ジニアは何故だか少し馬鹿にされているようにも感じた。


 「うう、自分は何もしてないくせに……」

「何もしてない? 心外だな。いいかいジニア。『ただ時間を無駄にする』のと、『ある目的のために待機している』のでは意味が全然違うんだ」

越喜来はジニアの発言を受けてそう言うと、『そろそろかな?』などと呟いて目を閉じ、耳に手を当てて口を閉じた。


 と、その時何か大きなものがぶつかり合うような音が聞こえてきた。

腹に響く振動に驚いたのか、ジニアがキョロキョロと辺りを見回す。


 「何ですかこれ、鐘の音……?」

「そう、鐘だよ。今は丁度昼だからね」

越喜来は何の気なしにそういうと、その鐘の音に注意深く耳を傾けた。


 「大抵、こういう大きい宗教の教会には鐘がついてるんだ。まあ確実じゃないけど、少なくとも闇雲に歩くよりは、鐘に向かって歩く方が確率高いだろう?」

「もしかして、師匠はずっと鐘が鳴るのを待って……」

「うん、そういうこと」

彼は、何もただダラダラと過ごしていたわけではなかったのだ。

すっかり怠けているだけだとばかり思い込んでいたジニアは、その説明を聞いて目を丸くした。


「音はそう遠くない……北西の方角から聞こえてきてるみたいだ。よし、じゃあ僕達も動こうか」

そう言って早足で歩き出した越喜来に、ジニアが慌ててついていく。


 「……って、動こうかじゃないですよ! 今まで『道がわからない』って散々言ってたじゃないですか。方角だけわかったところで、結局迷子になっちゃいませんか?」

街の道は、複雑に入り組んでいる。

方角だけを頼りに進むには、少し厳しいと言えた。

「ん? ああ、それはわかってるよ。大丈夫、ちゃんと街の人に道を聞くからさ」

越喜来は立ち止まることもなくそう答えると、軽い足取りで進んでいく。



 「"道を聞く"? で、でも! さっきボクが聞いたときはだれも答えてくれませんでした。それは師匠も知ってるでしょう!?」

ジニアは、先程の光景を思い出していた。

どんな聞き方をしても、街人は目を泳がせるだけで、全く話にならないのだ。


 しかし越喜来は、そんなジニアの言葉を無視してどんどん進んでいく。

そして、道が左右に別れたところで立ち止まった。


 「うーん。どっちに進めばいいのかな? ……おーい、そこのおじさん!」

越喜来はしばらく悩む素振りを見せたあと、近くを通り過ぎようとした男に声をかけた。


 「ひっ! お、俺か?」

「うん。僕達教会に行きたいんだけどさ、"右"か"左"、どっちに行けばいいと思う?」

単純な問い。しかしそれを聞いた男は困ったように目線を動かし、黙り込んでしまう。

「す、すまねぇ。俺はもう行かなきゃ……」

結局男は顔にじっとりと汗をかくと、早口にそう言ってその場を離れてしまった。


 「あーあ。だから言ったじゃないですか。『道を聞くのは不可能だ』って」

先程の意趣返しのつもりか、ジニアが越喜来の口調を真似する。

一方越喜来はというと、男に逃げられたにもかかわらず、満足そうな笑みを浮かべている。



 「よしわかった、ここは右に曲がろう」

「……え?」

驚き固まるジニアを他所に、越喜来は右の道へと歩き出した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! さっき、あの人何も答えてませんでしたよね?」

「そうだよ? 僕は『道を聞く』としか言ってない。『それに答えてもらう』なんて、一言も言ってないさ」

「それって、一体どういう……」

まだわからないという風に口を開きかけたジニアを、越喜来が手で制する。

立ち止まると、彼は振り返って説明を始めた。



 「僕が人の心を読めること、忘れたわけじゃないよね? 言ってなかったっけ?」

「いえ、それは知ってますけど……」

そんなことくらい、ジニアも知っている。

かつて自分を助けたとき、何故攻撃をよけ続けられたのか。

それが"心を読む"特技のおかけだというのは、既に何回も説明されてきた。


 「でも、これは万能じゃないんだ。あまりに複雑な考えは、流石に表情だけじゃ読み切れない。だけど……」

越喜来はそこで言葉を区切ると、右手の指を三本立てて説明を続けた。


 「『"右"か? "左"か? それとも、"このまま直進すればいい"のか?』 これくらい簡単な質問に対する答えなら、表情からでも充分予想できる」

「そ、そうか! だからさっきの質問も……」

「うん。答えてもらうまでもなかったよ」

ジニアの考えすら読んでいるのだろう。若干食い気味のタイミングで、越喜来が言葉を返す。


 実際のところ、あの時の会話は質問した段階で終わっていたと言っても過言ではなかった。

『"右"か"左"、どっちに行けばいいと思う?』

この時、"右"という言葉を言った瞬間だけ男の表情が変化していたのだ。

それは目線の僅かな動きや筋肉のこわばりなど、常人には到底読み取れるものではなかったが、越喜来は既に"常人"ではなかった。


 「流石に、方角すらわからない状況でこんなことしてたら日が暮れちゃうからね。鐘が鳴るまで待ってたってわけさ」

そんな事を得意げに語り終えると、越喜来は『これでどう?』といった顔で首をかしげた。

それに対しジニアは、口を閉じたまま下を向いているだけだった。


 「あれ? おーいジニア。どうしたの? ああ、僕の才能に感激しちゃったとか――」

「凄いです! 流石師匠! まさかそんなに計算して日々を過ごしているとは!」

おどけた口調で話す越喜来に、ジニアが目を輝かせて飛びつく。

越喜来の予想通り――と言っていいのかはわからないが――ただただ感激に打ち震えていたようだ。


 「ちょっとちょっと、落ち着いてよ」

飛びついてきたジニアを、越喜来がなんとか宥める。

流石に、ここまで褒められると彼も気まずいのだろうか。

「僕がすごいのは真実だけどさ、照れるじゃないか」

……まんざらでもない様子だった。


 「はっ! す、すみません師匠。今はとにかく、教会目指して急がないといけませんもんね」

注意されて、我に返ったのだろう。ジニアが顔を赤くして越喜来から離れる。

「うん。単純に時間がないのもあるけど、それ以上に急がなきゃいけない理由があるからね」

「急がなきゃいけない理由?」

意味深な事を言った越喜来に、ジニアが首をかしげた。

「まあ、それについては後で説明するよ。今はとにかく時間が惜しい」

越喜来は話をはぐらかすと、今までと同じペースで歩き始めた。



 鐘の方角に進み、道が別れたら街人に質問する。

そんなことを繰り返し、十分ほどたった頃だった。


 『うわああああああああああああ!』


 突然、二人の前方から、大勢の男の慌てふためく声が聞こえてきた。

「えっ!? な、何ですかこの声!?」

「くっそ、遅かったか!」

その声に辺りは騒然とし、街人は余裕を失っていた。

越喜来はそんな人々を無視すると、事態が飲み込めていないジニアの手を引いて走り出した。


 「師匠、何が起きてるんですか!?」

「ロックだよ! 初めて会った時から、『すぐにカッとなって感情的に動く人物』だって予想はしてたんだ!」

越喜来は柄にも無く顔をしかめると、走るペースを少しあげた。

「そもそも、妹のためなら街のルールすら簡単に破る男だったんだ! そんなやつが、妹を奪った宗教の本拠地に乗り込んだら、一体何をしでかすか……!」

と、そこで越喜来は話すのをやめ、突然立ち止まった。



 「うわ、ロック、君何してるんだよ……」

呆然と立ち尽くす二人の前には教会があり、演説のための豪華な台が設置されている。問題はその台の上で起きていた。


 立派な服を身に纏い、誰がどう見ても偉いであろう人物。

その胸ぐらをロックがつかみ、いまにも殴りかかろうとしていたのだ。

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