『家族』
人物名「ジニアの姉」→「モネ」に変更しました。
変更前から読んでいた方は混乱させてしまいすみません。
「切り札ってなによ! まだふざけるつもり!?」
越喜来の言葉を聞いたモネが、バカにされたと思い怒りに顔を赤くする。
「ふざけてなんかいないさ。大真面目だ。僕は既に、切り札を手に入れている」
それを見た彼は顔にニヤリと笑みを浮かべると、軽く深呼吸してその"切り札"を装填した。
「あなたは、両親が死んだことで生じた孤独を、ジニアに依存することで埋めようとしていたんだ」
引き金は引かれた。
言葉と同時にひときわ大きな銃声が響き、鋭い矢印が撃ち出される。
越喜来の言葉から生み出された"それ"は真っ直ぐに彼女の心へと突き刺さると、その精神に深いダメージを与えた。
「あ、あ、あなた! なんでその事を知ってるのよ!」
モネは心の底に隠してあった記憶を言い当てられ、混乱していた。
「これだけじゃないよ。僕は、君のすべてを理解した。君がどんな思いで呪いをかけてきたのかも、全部知っている」
そんな彼女にこともなく答えると、越喜来は彼女が呪いをかけた動機についての真相を暴きにかかった。
「あなたの両親は、呪術系の魔法使いということだけで迫害を受けてきた。そしてその偏見の目は、その子供にまで向けられていたんだ」
越喜来が言った言葉に、モネは耳を塞ごうとした。しかし、手に水晶を持った状態では、
それすら不可能だった。
「あなたは両親の死後、誰も自分達を助けてくれないことに絶望した。だからこそ、唯一の家族であるジニアへの思い入れが強くなったんだ」
見透かしたような言葉が、彼女の鼓膜を振動させ、心を削り取っていく。
「『他人は敵』、『家族は味方』。そんな歪んだ考えを持ってしまったのも、当然なのかもしれない。少なくとも、"家族を危険に晒す奴は殺しても良い"と思えてしまえるくらいには悲しい出来事だっただろう」
「……ええ、そうよ。私はその出来事から、家族の大切さを学んだの! 家族は守らなきゃ。何をしてでも守らなきゃって!」
越喜来の言葉を一通り聞いたモネが、開き直って叫んだ。
「だってそうでしょう!? 周りの人は、見てるだけで何もしてくれないんだもの! 私がしてることって、何か間違ってる!? 正しいでしょ?」
彼女は顔を大きく歪めると、自身の行動が正しいことを血眼になって訴えた。
「いや、間違っているよ。全てが間違っている」
それを、越喜来は否定した。大きく首を横に振って、ため息をつく。
「誰かが気づいて、教えてあげるべきだったんだ。"あなたのしてることは間違ってる"って、言ってあげるべきだったんだ」
彼は一瞬目を閉じて悲しそうな顔をすると、直後に目を開いて彼女を睨みつけた。
「あなたは間違っている。今更遅いけど、僕が教えてあげるよ。あなたがどれだけクズだったか、そしてどんなことをしてしまったのかをさ」
そう言った口は相変わらずにやけており、真剣なのかふざけているのか見分けのつかない表情をしていた。
「私のしたことが、間違っている……? 何を言ってるのよ! あなたも知ってるんでしょ!? 私がどれだけ辛い思いをしたのか!」
「知ってるよ。でも、あなたが辛い思いをしたことは、あなたがしたことを許す理由にはならない」
「……!」
越喜来の言葉に異議を唱えたモネだったが、それはあっさりと言い返されてしまった。
彼女は何かを言って反論しようとしたが、うまい言葉が思いつかなかった。
「あなたはジニアに呪いをかけて、親しくなる人全てを殺させた。わかるかな? あなたは、自分の手を汚さずに人を殺しているんだよ」
それを聞いて、モネは弾かれたように顔をあげた。
「『ジニアに近づく人を殺したい』なんてのは、あなたの勝手な意見だろう。彼本人は、色んな人と仲良くなりたかったはずなんだ。あなたのせいで、彼が今までどれほどの孤独を抱えてきたと思う?」
越喜来の容赦ない言葉に、彼女は頭を抱えて震え出す。
「更に言うなら、あなたは魔法を"他人を呪うために"使っている。あなたの両親は、呪術魔法をそんな風には使えと言わなかっただろう? 彼らが見たら、多分悲しむだろうね」
そんな彼女に越喜来は両親の話まで持ち出すと、徹底的に心へダメージを与えていった。
「う、うるさいわよ……私は、家族のためにしてるんだもの。家族を守るのは、正しいことだもの」
彼の言葉を聞いたモネは自分に言い聞かせるように呟くと、足元のおぼつかない様子でフラフラとし始めた。
その既にボロボロな様子を見ながらも、越喜来は口を閉じようとはしなかった。
「そもそもさぁ、その『家族』つての鬱陶しいからやめようよ」
「――え?」
彼女の言葉のうち『家族』に注目した越喜来が、呆れた口調で指摘した。
その突然の指摘に、モネは戸惑いを隠せなかった。
「だってさ、『呪術を正しく使わせようとした』両親を裏切るかのように呪術を悪用して、『自分を信じてくれた』弟を裏切って殺人鬼に変えてるわけでしょ?」
越喜来は心底面倒臭そうに声を絞り出すと、ゴミを見るような目でモネを見つめた。
「そんな人間が家族家族って騒いでもさ、すごく説得力ないと思わない?」
その言葉は、彼女の心を大きく揺さぶった。
越喜来は彼女の『家族のため』という支えを、一気に根こそぎ奪い取ったのだ。
「え、でも、私家族のために守らないと、でも、でも!」
「うるさいよ」
海で浮き輪をなくした子供のように慌てているモネを、越喜来は一言で黙らせる。
その口調は強く、一切の遠慮もそこには存在していなかった。
「あなたが『家族のため』としてしてきたことは、全て家族を裏切る方向にはたらいた。あなたの行動は、ただの犯罪行為に過ぎないんだ」
斬り捨てるようなその言葉に、モネは絶望した表情を浮かべる。
それを確認した越喜来は、止めを刺すために大きく息を吸い込んだ。
「もう、あなたのことを家族だと思ってくれる人なんて、どこにもいないんだよ」
直後に、言葉がモネの心を貫通した。
彼女は水晶を抱えたままガクリと膝をつくと、俯いて黙り込んでしまった。
✱
「や、やったのか……?」
連動するようにして動きを止めたジニアに気づいた男が、恐る恐るモネを確認する。
モネは水晶を持った状態でうずくまり、黙ったままピクリとも動こうとしなかった。
「やれやれ、これでようやく解決ですね」
それを見たアイリスが安堵の言葉を発した瞬間、それは起きた。
「――ジニア、《目覚めなさい》」
モネがいた位置から、そんな声が聞こえてきた。
そして直後、男の前でグッタリとしていたジニアから、赤いオーラが溢れだした。
「なっ!? クソ、しつこいやつだなお前も!」
それを見た男は咄嗟に剣を構えなおし、ジニアの攻撃を受けようと待機した。
しかし、それは考えが甘かった。
「――ぐっ!」
ジニアは、これまでとは比にならない速度で剣を振ってきたのだ。
一撃の重さも変化していた。男が受け止めた衝撃は、その足元の床をへこませるほど大きかったのだ。
「が、が、がああああああああ!」
ジニアは目を赤く染め、体から許容を超えた魔力を発しながら、苦痛に顔を歪めて唸っていた。
限界を超えた動きについていけず、体のあちこちにダメージが蓄積している。
「お姉さん! やめてください! このままだと、ジニア君の体が壊れますよ!?」
アイリスはモネが呪いで限界を超えさせていることに気づくと、急いでそれを止めさせようとした。
しかし、
「きゃっ!」
彼女に近づこうとすると、水晶からあの波動が飛び出してきて跳ね返されてしまった。
その中でモネは、狂った目を見開いて笑っていた。
「あはははははははは! 家族じゃないなんて嘘よ。だってほら、ジニアはちゃんと私の言うことを聞いてくれるもの!」
彼女は水晶を大事に抱えそう言うと、ブツブツとジニアへ命令を始めてしまった。
「――困ったな。水晶があればジニアと一緒にいられると思って、アレに依存を始めている。折られた心を、水晶への依存で無理矢理立て直そうとしてるんだ」
越喜来が頭を掻いて困っていると、それを聞いたアイリスが近寄ってきた。
「越喜来さん! あの水晶を壊してください!」
アイリスは越喜来の近くまで歩み寄ると、彼の目を見て言った。
「あれは恐らく彼女の呪いを実現するための道具。あれさえ壊してしまえば、ジニアにかかった呪いは解けるはずです!」
その言葉を聞いた越喜来は、しかし暗い顔で悩んでいた。
「でも、さっきみたいに波動で吹き飛ばされたら意味がない。なるべく速く、気づかれないように近づかないと……」
✱
そんな場面を少し離れて見ている人物がいた。
リリーである。
(み、みんなが頑張ってるのに、私何もできてないじゃない!)
彼女は、男を含めた三人が必死で戦っているのを見ているだけで、何も手伝えない自分を情けなく思っていた。
(何か、手伝わないと!)
そう考えると、自分にもできることがないかと周囲を確認し始めた。
と、その時リリーの目にあるものが飛び込んできた。
(これは……アイリスのカバン?)
それは、シンプルなデザインをしたアイリスのカバンだった。
カバンの口からは、なにか細長い棒のようなものがはみ出していた。
✱
「ぐあっ!」
越喜来が、勢い良く吹き飛ばされる。そのまま壁にぶつかると、痛みに顔をしかめながら地面に落ちた。
その横では、アイリスがグッタリと横たわっている。彼女もまた、波動に吹き飛ばされて壁に衝突していたのだ。
(クソ、あの波動がかなりやっかいだな。それに、依存しすぎて狂った人間に言葉は通じない。なんとかしてあの水晶を壊さないと、ずっとこのままだぞ……?)
越喜来は痛む体を抑えて立ち上がると、横で戦い続けている男の様子を見た。
「あああっ、あがあああああ!」
「ぐっ! 畜生、いっも稽古の時、これくらい本気出してくれりゃあな!」
男は軽口を叩きながら攻撃を受けているが、そろそろ限界だった。
そもそも魔力によって強化された人間の相手など、長時間できる訳が無いのだ。
また、ジニア自身にも限界が近かった。呪いにより強制的に動かされる体は悲鳴をあげており、手の指からは血が滲んでいる。
「やっぱり、やるしか無いのか……」
越喜来はそれを見て覚悟を決めると、盾を体の前面に構えた。
(さっきから、闇雲に突撃しては弾かれてばかりだな。きっと、速さが足りないんだ。今度はもう少し、速く走ってみよう)
彼は心の中でそう作戦を建て、モネの方向へ向いて体を沈める。
そして神経を集中させると、はじめの一歩を踏み出した。
「きゃああああああああああああああ! 止めてええええええええええ!」
その時、そんな悲鳴が越喜来の真横を通過した。
「――え?」
越喜来はそれを聞いて走り出すのを止めると、音の進んでいった先を眺めた。
そこには、あの空飛ぶホウキに腕でぶらさがりながら超高速で突進するリリーの姿があった。
「こんなに速いなんて聞いてないわよおおおおおおおお! ――んぎゃっ!」
彼女は目にも止まらぬ速さでモネに突撃すると、そのまま衝突して向かいの壁にまで吹っ飛んでいった。
と、その拍子にモネが手から水晶を落とした。
「り、リリー? ……いや、そんなことよりまず水晶を壊さないと!」
越喜来はそれを確認すると、その水晶目掛けて全速力で走り出した。
しかし後少しでたどり着くというところで、水晶の近くで気を失っていたモネが意識を取り戻した。
「あ! 私の水晶に、触らないでよ!」
彼女は越喜来に気づくと水晶に手を伸ばし、例の波動を発動させようとした。
(また波動を出されたら、全てが水の泡だ。何とかして止めないと……! そうだ、あれだ!)
越喜来はそれを見て、波動を阻止しようと考えた。そして何か使えないかと持ち物を確認した時、越喜来はあるものの存在を思い出した。
モネが波動の準備を終わらせ、いざ発動させようという時だった。
パシャ。という軽い音とともに、彼女の顔に強力な光が浴びせられた。
「うっ! な、なにこれ! 前が……見えない!」
彼女は目が眩んだことに動揺すると、水晶を手から離して両手で目を抑えた。
「大丈夫、怪しいものじゃないさ。これはただの魔力カメラだよ」
その様子を見た越喜来は、彼女の足元に転がった水晶を拾い上げながら言った。
「このカメラ、前からフラッシュがキツイと思ってたんだ。至近距離で見たら、間違いなく目が眩むレベルだ」
越喜来は、片手で水晶を掲げながらそう言うと、モネの視力が回復するのを待った。
「なに、言って……って! それ、私の水晶! やめて、壊さないでよ!」
しばらくして、視力が回復したモネが自体を把握した。
今にも水晶を壊そうと掲げている越喜来に向けて、彼女は泣きそうになりながら頼んだ。
「お願い、やめて! それが無くなったら、私はジニアと一緒にいられないじゃない! ねぇ、やめてよ!」
泣きながら頼んだが、それは越喜来には届かない。それどころか、越喜来はその言葉に腹を立てたようだった。
「だから、呪いだとか水晶だとかさ――」
「そういうのに頼ってるから、家族になれないんだよ」
越喜来は、その言葉と共に水晶を床に叩きつけた。
水晶が砕けると同時に、モネの心までもが砕けたことは、言うまでも無かった。




