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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
34/41

『独占欲』

 「何が話し合いよ、バカバカしい。ジニア、《殺しなさい》!」

モネは、越喜来の言葉を聞いて顔をしかめた。

そしてジニアに向けて命令すると、自身も腕を構えて動き出す。

「ううううっ! ぐああああっ!」

彼女に命令されたジニアは、うめき声を上げながら剣を構え、越喜来に斬りかかった。


 「くっ!」

越喜来はそれをかろうじて盾で受けると、そのまま二歩ほど後退する。

「うあああっ!」

しかし、ジニアはその一撃の後も止まることなく剣を動かしてきた。二回三回と、連続して越喜来へと追撃していく。

「ジニアにばかり気を取られて、隙だらけよ!」

二人が戦闘していると、そんな言葉とともにモネから魔法が放たれた。

彼女の表情を見てそれを察していた越喜来は、更に後ろに下がることでそれを躱した。


 (クソ、口を開いてる暇がないな。これじゃいつまでたっても勝てやしない)

彼女らの攻撃をしのぎながら、越喜来は考えていた。

(あの姉の魔法は大したことない。速さや威力を考えても、アイリスの魔法の方が断然強かった)

越喜来はそんなことを思うと、ジニアの方を向いた。

(問題はジニアだ。彼には今自我がない。心が読めない剣士が相手じゃ、僕は盾で防ぐので精一杯だろう。躱すことは不可能だ)

と、そこにまたジニアが斬りかかってきた。

越喜来は自身に迫る刃だけを見ると、またもギリギリのところで盾を構え、それを防ぐ。

(身体能力――特に瞬発力は大幅に引き上げられているとはいえ、僕の反射神経は凡人並だ。このままジニアの攻撃を見切り続けていては、いずれ限界を迎えてしまう……!)



 そう考えた越喜来は、二人に攻撃されながらも無理矢理言葉を続け、なんとか動揺させようと試みた。

「僕は、君の動機がわからないんだ。実の弟に呪いをかけるなんて、正気じゃありえない」

越喜来は早口でそう言うと、自身に向かってきていた魔弾を上半身を捻ることで躱した。

「グダグダうるさいわね! あなたは黙って、私達に殺されてればいいの!」

と、そんな越喜来を見て腹が立ったのか、モネはこれまでよりも一回り大きな魔弾を撃ち出してきた。



 それを防ごうと越喜来が盾で体を庇った時、背後から飛んできた閃光が、その魔弾を打ち消した。

「越喜来さん。あなた『任せろ』とか言いましたけど、やっぱこれ一人じゃ無理ですよ!」

彼が後を見ると、アイリスが腕を構えて立っていた。

「だ、ダメだアイリス! 痛めつけるだけじゃ、ダメなんだ!」

「違いますよ! 痛めつけたりしませんって!」

それを見て慌てた越喜来に対して、アイリスは『心外だ』とばかりに頬を膨らませた。


 「『魔法を相殺する』だけです! この状況、ジニアを相手にするだけでも厳しいのに、魔法まで躱してたら身が持ちませんよ?」

彼女はそう言いながら、手の中でバチバチと火花を散らせた。

「この程度の魔法、私なら余裕で打ち消せます。だから越喜来さんは、彼の剣を見切ることに集中してください」


 アイリスがそう言ったのを聞いて、越喜来は目線をジニアへと戻した。

「ありがとう、アイリス。僕のために……」

「は? 別にあなたの身を案じてるとかじゃないんですけど? ここで負けられると色々面倒なので、早く何とかしてください」

「……うん。わかった」

戦闘中であろうが、アイリスに容赦は無かった。

越喜来は早速心が折れそうになったが、何とかこらえて盾を構え直した。



 「魔法の相殺? 余計なことを!」

モネはアイリスに魔法が打ち消されたことを理解すると、そう叫んで今までよりも多くの魔弾を生成し始めた。

「魔法のことは気にしないで、言葉を続けてください!」

アイリスはその全てを空中で打ち消しながら、越喜来に言った。



 越喜来の周囲で、魔力によるカラフルな小爆発が起きる。

彼はその異様な景色の中で、ゆっくりと口を開いた。




 「さっきも言ったけど、僕にはあなたの動機がさっぱりわからない」

越喜来は虚ろに佇むジニアを見つめ、しかし意識は彼の姉に向けたままでそう言った。

「だから、僕は思い出してみることにするよ。僕がこの街に来てから今まで、あなたがどんな表情をしてきたのかを」

彼のその言葉に反応するかのようにして、ジニアが動き出した。剣を持った手を振り上げると、即座に越喜来に向けて振りおろす。

「あなたは初めて僕を見た時、明らかに不機嫌そうな顔をしていたね」

越喜来は話している途中でその攻撃をなんとか防ぐと、何事をなかったかのように話を続けた。



 「その時は『僕ってそんなにムカつく顔かな』とか思ってたけど、今考えてみたらそれは間違いだった」

続けざまに放たれる剣撃に、越喜来は盾にしがみつくようにしながら耐える。

盾を通して伝わる衝撃に体を震わせながらも、しっかりとした口調で発言をしていく。



 「あなたは、僕が"ジニアと親しそうにしている"から不機嫌だったんだ」



 その時、魔弾が空気を裂く音とは違う、鈍い銃声が辺りに響きわたった。

それと同時に彼の言葉は具現化し、文字通りの"凶器"となってモネへと飛んでいく。

「なっ……なにを言ってるのよ!」

ギクリ。という擬音が、どこからか聞こえてくるようであった。

彼の言葉が胸に突き刺さると同時に、彼女の顔から怒りが、そして余裕が消えた。代わりに表れたのは、純粋な焦りである。

彼女はジニアを操ることや魔弾を撃つことも忘れると、目を見開いて越喜来の方を向いた。



 「図星か。あの表情からすれば、まあ当たり前だけど。なるほど、"弟に対する感情"がキーワードらしいね、あなたは」

それを見て納得したように頷くと、越喜来は確かな手応えを感じて微笑んだ。

「さてと、じゃあもっと詳しく聞いていこうかな。あなたの動機の元になった感情について」

越喜来はそう呟くと、彼女の目を見つめ返した。

一方ジニアはというと、命令を失ったからであろうか、剣を握ったままだらりと脱力し、感情のない目で越喜来の背中を見つめている。



 「あなたは弟と親しくされると不機嫌になる。そして、この呪いは『ジニアと親しくなった人物を殺す』呪いだ。この二つは、何か関係があるんじゃないかな?」

越喜来が二本の指を伸ばしつつ言ったその言葉に、モネは顔を俯かせる。

もう完全に追い詰めた。彼はそう考え、ニヤリと口元を歪ませた。

「そう。多分僕が思うに、あなたは――」

「黙れ!」

そして越喜来が何かの言葉を撃ち出そうとしたその時、彼女は大声をあげてそれを遮った。


 「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! ジニア、何してるの!? 早くこいつを《殺して》よ!」

完全にパニックに陥った彼女はそう叫ぶと、おもむろにジニアへの命令を再開した。

「――やばっ!」

越喜来が振り返った時には、もう遅かった。

ジニアはその命令に即座に反応し、剣を上段に構えていた。

("追い詰められた人間の起こすパニック"! クソ、どうしてこんな簡単なことを考慮しなかったんだ僕は! 調子に乗って、責めすぎた!)

心の中でそう反省したが、だからといって何かが変わるわけではない。

「う、う、うがあああああああああっ!」

ジニアが唸り、剣が動く。越喜来は死を覚悟して、目をきつく閉じた――




 その時、金属と金属がぶつかるような音がした。

越喜来は、いつまでたっても自分が死なないことに疑問を抱いて、恐る恐る目を開いた。



 「――まったく。情けねぇ顔してるなよ、"師匠"さん」


 

 そこには、あの"先生"が居た。剣を横に構え、ジニアの振りおろした剣をしっかりと受け止めている。

「……うらあっ!」

男は掛け声とともに剣を弾くと、そのままジニアを転ばせてしまった。


 「え、なんで!? あの男、あんなに怪しかったのに! てか私むしろこいつが犯人だと思ってたのに!」

男に悪いイメージしか持っていなかったリリーは、その光景を見て驚きを隠せない様子だった。というかもうただの失礼な奴だった。

それを見た越喜来が、苦笑いをして彼女に声をかける。

「いや、そもそも彼はこの事件の被害者だよ。彼は、ジニアのことを庇っていただけなんだ」

彼がそう説明すると、男は意外そうな顔をした。


 「なんだ? お前、そこまで気づいてたのかよ」

男のその問いかけに、越喜来は静かに頷いた。

「あなたは過去の事件について『ジニア以外の犯人がいる』と証言した。しかしあの状況から考えると、あなたは犯人がジニアだと知っていなきゃおかしいからね」

越喜来は男を見ると、笑顔で続ける。

「実際傷を負わされているのだから、あなたは犯人ではなく被害者だ。あなたが事件以降ジニアに厳しくなったのは、また親しみを持たれて呪いが発動するようなことが起きないようにするためだったんだ」

その言葉を聞いて、男は頭を掻いた。



 「お前、とんでもねぇな。あんな少しの情報から、俺の考え見抜いちまうなんて」

男は、越喜来に賞賛とも取れるそんな言葉をかけた。

「まあね。……『ジニアと寝る』という発言を聞いて、心配して見にきてくれたんだよね? ありがとう。助かったよ」

越喜来は男に感謝の言葉を述べると、体勢を立て直した。


 「いいってことよ……それよりもてめぇ、どういうことだ! 実の姉であるお前が呪いをかけるだなんて、意味わかんねぇぞ!」

男はそれに静かに答えると、一転声を荒らげてモネに言った。

 「う、うるさいわね! どうせ、あなたたちには、私の気持ちが理解できないのよ!」

彼女はその気迫に一瞬たじろいだものの、すぐに気を取り直して攻撃を再開した。

無数の魔弾が撃ち出され、同時にジニアも動き出す。倒れていた体を無理矢理起こすと、今までよりも速く剣を振り回した。


 しかし、彼女の魔弾はアイリスに打ち消され、ジニアの剣撃は男に受け止められて無効化された。

「こいつの攻撃は俺らで食い止める。だからお前は、このバカ女の目を覚まさせてやってくれ!」

男が、ジニアの剣を凌ぎながら大声で言った。

それを聞いた越喜来は黙って頷くと、モネの目をまっすぐ見つめ、彼女を壊すための理屈を組み立て始めた。



 

 「さっきもいいかけたけど、あなたは『ジニアと親しくされたくない』。そしてこの呪いは『ジニアと親しくなった奴を殺す』。この二つには、なにか関係があるはずなんだ」

越喜来は少し目を瞑って考えた後、唐突に口を開いた。

それを見たモネは必死で黙らせようと攻撃を激しくしたが、その全ては越喜来に届く前に無効化されてしまった。


 「あなたは、弟のことが本当に大事だった。だから、"弟に近づく奴は、皆死ねばいいと思った"んじゃないかな?」

彼からこの言葉が発せられるとともに、心を砕く銃弾と化した言葉が、彼女のもとへと飛んでいく。

「っ! 違う! 違う違う違う!」

自分めがけて飛んでくる言葉を、彼女は魔法で撃ち落とそうとしたが、それらは全て弾かれてしまった。

彼女は既に、越喜来の言葉を聞いてしまっている。その時点で、この言葉の槍を防ぐ術はないのだ。

心に、深く言葉が突き刺さる。


 「それと、僕たちは色々な要素に気を取られるあまり、大事なことを見落としていた。『最も親しく』『最も好かれていて』『最も近くで寝ている』人間。そんなあなたが、何故か一度も呪いの被害にあっていないんだ」

越喜来は彼女の反応を確認すると、次の言葉を放つために新たな話を展開した。

「あなたは自分以外の人間がジニアと親しくなることに耐えられなかった。だから、『自分以外の人間がジニアと親しくなると死ぬ』。そんな呪いをかけたんだ」

その言葉に、モネは汗を流して動揺した。

越喜来はそれを見ると、もうひと押しするように口を開いた。


 「つまりあなたを突き動かしていたのは、"弟に対する異常なまでの独占欲"だったんだ」


 その言葉が、三本目の槍として彼女へと撃ち出された。

言葉は魔弾や剣をくぐり抜けると、猛スピードで彼女に突き刺さる。

「そ、それは……」

越喜来に考えを読まれ、モネは言葉に詰まった。

と、そこに越喜来は、真相を解明するでもなくただ侮辱の言葉を投げかけ始めた。


 

 「でもさ、弟をそこまで大事にするって、ぶっちゃけキモくない? それにさ、だからって呪って殺すとか、頭おかしいでしょ」

彼のその言葉を聞いて、彼女は目つきを鋭くした。

「どういう、意味よ」

「どういう意味って、キモイの意味も知らないの? 気持ち悪いだよ。"気持ち悪い"。あーあ。姉に異常なほど大事にされて、呪いまでかけられるとか、ジニア本当に可哀想だなー」

しかし、依然として越喜来はその侮辱をやめようとしない。どころか、彼女の反応に応じてより激しくなったようにも見える。



 「……うるさい! ジニアは私の全てなの! もう、放っておいてよ!」

その言葉に、モネはついにキレた。

体中から怒りを沸き立たせると、攻撃するのも忘れて越喜来を睨みつける。

と、その時越喜来の目が赤く変色した。


 同時に、彼女の心が越喜来に流れ込んでくる。

(この、心をつなげる現象の発動条件は、やっぱり相手の理性の崩壊なんだな。もしかしたらと思って怒らせてみたら、本当に成功しちゃったよ)

越喜来は、この現象を意図的に発動したのは初めてであった。

目の前に、様々な映像が浮かび上がる。そのうちの一つが、紫色に光を帯びていた。


 (これが、彼女に対する切り札なのか……?)

越喜来はそれに恐る恐る手を伸ばすと、その記憶を再生し始めた。





 私の両親は、二人とも呪術系の魔法使いでした。

呪術系の魔法を極め、その道ではかなりのレベルの腕を持っていました。

両親は呪術魔法の正しい使い方を、丁寧に私に教えてくれました。

私はそんな両親を誇りに思いましたが、街の人は違いました。


 『呪い』だなんて不吉な言葉は、この平凡な街にはそぐわなかったのです。

両親は街の人から距離を置かれ、その娘だというだけで私まで避けられました。

私はそれが嫌で、呪術が使えることを次第に隠すようになっていきました。


 十数年前、弟のジニアが生まれました。

私は弟が出来たことを喜びましたが、その喜びも長くは続きませんでした。


 その数日後、私の両親が死んだのです。

街の人が言うに、外で魔物に襲われたそうです。


 しかし、街の人はだれも両親の死を悲しみませんでした。

行くあてのない私達を、誰も助けてくれませんでした。

そのあまりに残酷な態度に、私は絶望しました。


 

 もう、私にはジニアしかいないのです。私をわかってくれるのは、ジニアだけなのです。

ジニアは、私が守ってあげないといけないのです。

だから邪魔する人間は、皆死ぬべきなのです。





 「……ただのヤンデレじゃないか!」

心を読み終えた越喜来が、唐突に叫んだ。

「ヤン……? 何ですか? それは」

「かつての君みたいな人のことだよ、アイリス……」

その言葉に首をかしげたアイリスに、越喜来は呆れたように呟いた。

「実の弟相手にこれはキツいよ。僕がジニアだったら、今すぐにこの街から出ていくね」

越喜来は腕を抱えてわざとらしく震えると、うんざりした声で言った。


 「何を訳のわからないことを言ってるの!? ふざけないで!」

と、それを聞いていたモネは、無視されたことに怒ってそう叫んだ。

「おっと、そうだった。僕はあなたの心を折ろうとしてたんだっけ?」

越喜来はその言葉に我に帰った。


 「さて、切り札は手に入れた。ここからはお待ちかねの、心粉砕タイムだ」

そして手で銃の形を作ると、彼女へ向けて撃つ仕草をした。

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