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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
33/41

『姉弟』

 「お姉ちゃん……?」

部屋に入ってきた人物が自身の姉であることを確認すると、ジニアは驚きを隠せない顔でそう言った。

一方その彼女自身も、突然四人が起き上がったことに驚き硬直してしまっていた。

「な、なんで? あなたたち、もう寝たはずじや……」

彼女は信じられないといった表情を浮かべると、四人の顔をうろたえながら見た。

「"なんで"はこっちのセリフだよ。どうしてあなたは、この部屋に侵入なんかしたのかな?」

越喜来はそんな彼女をじっとみつめ、静かな口調で問いかけた。


 「え、えっとその、私あの後やっぱり弟のことが心配になっちゃったんです。それで、みなさんに迷惑をかけないようにと、弟に注意しに来たんですよ」

モネは口元を隠すと、微笑みながらそう答えた。顔には、軽く汗をかいている。

「な、なーんだ! てっきり、お姉さんが犯人なのかと思っちゃいましたよ!」

彼女の弁明を聞いて、アイリスは胸を撫で下ろした。

「まあ、そんな訳がないわよね。姉が弟に呪いをかける理由なんて、思いつかないもの。あはは、何だか緊張しちゃって馬鹿みたい」

それと同時にリリーも緊張を解くと、安心からか肩の力を抜いて笑い出した。


 「……あはははは!」

と、その時会話を聞いていた越喜来が、唐突に笑い出した。

「何よ、あなたがつられて笑うなんて珍しいわね」

リリーは 自分と同じように笑い出す越喜来を見て言った。

「ん? ああ、これは別につられ笑いじゃないんだよ。ただ……」

しかし越喜来は彼女の言葉を否定すると、笑いすぎたせいで涙の浮かぶ目でモネを見た。



 「……本当に、わかりやすい嘘をつく人だなって思ってさ」



 越喜来のその言葉が発せられると同時に、部屋の中に緊張が走った。

「う、嘘? 私がさっき、どんな嘘をついたっていうんですか?」

モネが、そう言って越喜来を睨みつける。

「どんな嘘っていうか、さっきの発言全てがでまかせだよ。あなたは、もっと別の理由でここに来たはずなんだ」

越喜来は彼女の視線を無視すると、先程の発言が嘘だと考えた理由について話し始めた。



 「そもそもあなたは、『僕らが寝ていることを確認して』部屋に入った。これは直前の発言からわかることだ。それにも関わらず、『弟に注意をしに来た』は無いだろう」

それを聞いて、彼女はハッと顔を上げた。その反応を見た越喜来は、構わず話を続ける。

「本来そんなに注意をしたいのなら、もっと早い時間に訪れるはずだ。仮に真夜中に思いついたのだとしても、寝てる人間を叩き起さなければいけないほどの内容じゃない」

越喜来の続けたその言葉に、姉は目つきを鋭くした。


 「……そんなの、全部あなたの想像じゃないですか! 私は弟をとても大切に思ってるんです。だから、夜中に起こしてでも注意しておきたかったんですよ!」

彼女は越喜来の発言に何の根拠もないことを指摘すると、自身の正当性を訴えた。

「そうか、根拠を出してまで追い詰めたくは無かったんだけど、そう言われちゃ仕方ないな」

しかし彼はそれを聞いても依然表情を変えず、淡々と根拠について述べ始める。


 

 「あなたは僕と会ってから、今のを除いて二回嘘をついているんだ」

越喜来は彼女に向けて拳を握ると言った。

「一回目は、『たまに稽古を見に来る』という発言。ジニアによれば、あなたはこれまで稽古に来ることなどなかったらしいからね。これは言うまでもなく嘘だ」

そう言いながら、人差し指を伸ばす。

「二回目は、『家以外で寝ても問題ない』という旨の発言。この時あなたは、不自然なほどに目線を逸らしていた。これも、嘘をついている証拠だ」

二本目。言い終わると同時に、中指が伸びる。


 「それらが、嘘だったとして、今のと何の関係があるんですか?」

モネは自身の嘘を見抜かれていたことに動揺したが、途切れ途切れの言葉で越喜来に反論しようとした。

しかし、それはまったくの無駄であった。



 「"口元を隠す仕草"だよ。これら二つの嘘をつくとき、あなたは無意識に口を隠そうとしていた」

それを聞いた彼女が、慌てて自分の口を押さえる。

「人にはそれぞれ、嘘をつくときの癖があるものなんだ。あなたは、さっきの発言の時もまた"口元を隠していた"。これが、三回目の嘘の根拠だよ」

越喜来は余裕の笑みを浮かべて三本目の指を伸ばすと、彼女の目を見つめた。



 (ど、どういうことです? じゃあ、お姉さんが犯人だった……ってことですか?)

嘘を指摘されたまま黙ってしまったモネを見て、アイリスは頭の中で混乱していた。

「お姉さん、あの、大丈夫?」

それに対してリリーは、下を向いているモネを心配し、声をかけようとした。



 「な、何なんですか、さっきから! 私は弟が心配で来たんです、嘘じゃありません!」

ところが、その時彼女は突然口を開いた。怒りで顔を真っ赤にすると、強い口調でそう言い切る。

「お、お姉さん、落ち着いて……」

黙っていたリリーがなだめようとしたが、彼女はそれを睨むことで止める。



「あなた達も、こんな寝たふりまでして、そんなに私を呪いの犯人に仕立てあげたいんですか!? もううんざりです、私はジニアを連れて帰ります!」

彼女は怒りをあらわにするとジニアのもとまで歩いていき、彼の手を乱暴に掴んだ。

「お、お姉ちゃん待ってよ! 引っ張らないで!」

「あなたは黙っててちょうだい! いいから家に帰るわよ!」

ジニアはそれに少し抵抗したが、結局彼女に引っ張られていってしまった。

二人はそのまま、部屋の扉へと近づいていく。

(ど、どうするのよ! これじゃ、犯人が誰だか突き止められないじゃない!)

リリーはそれを見て焦ると小声で越喜来に言ったが、彼はそれを無視して一歩扉へと近づいた。



 「"『呪いの犯人』に仕立て上げる"。か」

越喜来がわざとらしく大声で言ったその言葉に、モネが足を止めた。

「はい? まだ何か言いたいことがあるんですか? もういい加減に――」

そして彼女がそう言って振り返ろうとした時、越喜来が言葉を続けた。



 「僕、あなたに『呪い』と『犯人』を含む言葉は、"一度も使ってないんだけど"?」



 「……あっ」

越喜来の指摘に、モネがつい声を上げる。

「おかしいのね? 僕らはジニア本人以外に呪いのことを話していない。つまり、この呪いのことを知っているのは"『僕たち四人』か『犯人自身』だけなはず"なのにさ」

そんな彼女に向けて、越喜来は流れるように言葉を紡ぎ、追及していく。


 「そういえば……お姉さんが呪いについての情報を持ってるなんて、不自然です!」

アイリスが納得したように言う。それを聞いて、モネはアイリスを睨みつけた。

「な、何言ってるの!? そんなの、ジニアの胸の魔法陣を見れば、誰にでもわかることじゃない! それに医者とかだって魔法陣は見るはずだし、あなたたち以外にも知ってる人は大勢いるわよ!」

彼女はなりふり構わず大声を上げ、越喜来の理屈を無理やり否定しようと意見を述べた。



 「いや、それは違うね」

しかし、越喜来はそれにも反論した。一言で彼女の発言を斬り捨てると、全ての矛盾に食らいついていく。

「あなたはジニアの魔法陣に『何だかわからない』とコメントし、『誰にも見せるな』と言ったんだ。ジニアは僕以外にはこれを見せていないし、発言通りならあなたは呪いのことを知らないはずだ」

それを聞いて、姉は『余計なことを言って……』とでも言いたげに鋭い目でジニアを見た。

「もし呪いだと気づいていたのなら、あなたはアレが呪いと知りながら隠し続けたことになる。これって、何だかおかしくない?」

越喜来が、彼女にゆっくりと問いかける。



 「お姉ちゃん? ねぇ、本当に犯人なの……?」

姉に手を引かれたままのジニアが、不安そうな顔で姉を見ている。

彼女はそれを無視すると、震えた声で再度反論を始めた。

「あ、あのねぇ! そんなことだけで犯人になるわけないでしょ!? 証拠が少なすぎるのよ! そもそも私、魔法使いじゃないから呪いかけられないし! まずそこから違うのよ!」


 

 髪を振り乱し、必死に叫ぶ彼女に対し、越喜来は一瞬虫でも見るかのような冷たい目を向けた。

「じゃあ、あなたが魔法使いだって証拠があれば、納得するのかな?」

越喜来がそう言うと、モネは怯えたように目を見開いた。

(う、嘘よ嘘よ! そんな証拠、持ってるはずがない!)

彼女はそう考えながら、人差し指をくるくると回して、髪を指に巻き付けだした。



 「"それ"だよ。それが、あなたが魔法使いだという証拠なんだ」

その時、その仕草を指さして、越喜来が口を開いた。

「……え?」

「だから、その"指をくるくると回す癖"だよ」

再度越喜来に指摘されて、彼女はようやく自分が指を回していたことに気づいた。


「それと全く同じ行動を、アイリスも度々しているんだ。彼女にも、どうやら指を回す癖があるらしい」

その言葉を聞いて、急に名前を出されたアイリスが驚いて顔を上げる。

「これはね、魔法使いが持つ特有の癖の一つなんだ。無意識のうちにやっちゃうみたいなんだけど、それを見れば魔法使いだって一発でわかるんだよ」

越喜来は、真似するように指を回しながら説明をする。

「断言してもいい。あなたは確実に魔法使いだ」

そして彼女の目を真っ直ぐ睨むと、強い確信を持ってそう言い切った。



 「そ、そんな。そんなことで、魔法使いってバレるなんて……」

越喜来が力強く断言したのを見て、モネは絶望した表情を浮かべた。

自身が魔法使いだとバレたのがショックなのか、青ざめた顔をして震えている。

と、その時何故か不機嫌な顔をしていたアイリスが口を開いた。



 

 「越喜来さん。魔法使い特有の癖って、何なんですかその設定。すごくダサいんですけど」

アイリスは越喜来をじっとりと睨みつけると、指で髪をくるくると弄びながら、拗ねたように抗議をした。

「……え」

「いやあ、君が彼女と同じ癖を持ってるのに気づいてね。少しハッタリに使わせてもらっただけだよ。悪気はないんだ」

それを聞いて固まったモネに対して、越喜来は悪びれずにあくまでも軽い口調でそう答えた。

 

 「それにしても、軽くハッタリをかけただけで、ここまで簡単に自白してくれるとはね。『魔法使いだ』って勘で言っただけなのに、勝手に暴露してくれるなんて!」

越喜来は嬉しそうに言うと、モネの方を向いた。

「ありがとう! あなたがバカで、僕はとても助かったよ!」

そして満面の笑みを浮かべたまま、彼女にそう言ったのだった。





 「……ふ、ふざけないでよ」

と、その時モネが唸るような声で言った。

「もう、いい。こうなったら、あなた達まとめてぶっ殺してやる!」

彼女は大声でそう叫ぶと、肩に提げていたカバンから水晶玉のようなものを取り出した。

「こ、これって……! 越喜来さん、離れてください! これ、強力な魔力装置です!」

その水晶玉を見たアイリスは顔を青ざめると、二人に接近していた越喜来に逃げるよう声をかける。

それと同時に、水晶玉を中心として円形の波動が広がり始めた。



 「なっ! ――くっ!」

越喜来はそれを盾で受け止めようとしたが、あまりの力にそのまま吹き飛ばされ、部屋の反対側の壁に叩きつけられた。

一方その波動の中心では、モネが水晶玉を片手に狂ったように笑っている。

「あはははははははは! もういいわ。ジニアにバレちゃったら、もうコソコソ操る必要はないもの。ジニア……《起きなさい》!」

彼女が水晶玉を掲げてそう叫ぶと、波動の衝撃で気を失っていたジニアから紫色のオーラが溢れだした。


 「そんな! 呪いって、こんなに短時間でかけ直せるものなの!?」

その様子を見ていたリリーが、驚いて声を上げる。

「あんな複雑な呪いを、すぐかけられるわけありません! 恐らく今は単純な『支配』で操って、強制的に動かしてるだけかと!」

アイリスはリリーにそう言いながら、魔力を腕に纏ってジニアに向き合った。



 「うううあああ、う、がああ!」

彼は、既に剣を抜いていた。体を魔力に支配され、虚ろな目でアイリスを見ている。

「ははははは! ジニア、いい子よ。二人であのクズどもを、ぶっ殺してあげましょう?」

モネは水晶玉を構えると、アイリスを睨みつけて言った。

(こうなったら、もう二人とも魔法で痛めつけるしかない! 少し怪我はするけど、大丈夫、死ぬわけじゃないんですから……!)

アイリスはそんな二人の様子を見て対話を諦めると、できる限りの魔法を腕から撃ち出そうとした。

その時、背後から誰かの声がかかった。



 「ダメだアイリス、僕に任せてよ。それじゃ、全く意味が無い」

声の主は、越喜来だった。

越喜来は盾を構えながらアイリスの前に出ると、魔法の射線を遮った。

「僕はまだ、あいつの『動機』を暴いてないんだ。それに暴力で黙らせただけじゃ、人は変われない」

真剣な口調でそう言うと、一転口を歪ませてニヤニヤとした顔になる。

「だいたい、心を折らないで倒すなんて、それじゃ僕がつまらないじゃないか!」

越喜来は最後にそんなことを叫ぶと、青く光る目でモネを見つめた。


 

 「はっ! まだ生きてたの? そんなに死にたいなら、かかってきなさいよ!」

その様子を見た彼女は、水晶玉を持つ手とは別の手に魔力を集め、越喜来の方を向いて構えた。

「いや、僕は暴力はしないんだって。それに、ジニアの前で姉をボコボコにするとか可哀想だしね」

臨戦態勢に入った彼女を見てため息をつくと、越喜来は両腕をだらりとぶら下げた。


 「だから、話し合いで解決しよう」

そしてナメた目つきで彼女をながめると、お決まりのセリフを吐いたのであった。

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