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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
31/41

『事情聴取』

 「あ、あれ? ボクは何を? それに、師匠は……」

翌日ジニアが目を覚ましたのは、既に三人が指南所を飛び出してしまった後のことだった。

ジニアは昨日の夜の出来事を思い出そうとしたが、ある時点を境に記憶が途切れてしまっていて、上手くいかない。

「……これ、何だろう?」

三人がいないことを確認した彼は急いで立ち上がると、越喜来が寝ていた場所に小さな紙が落ちていることに気づいた。

それを拾い上げると、書いてある内容を黙読する。



 『ジニア。昨夜の記憶があやふやになっているかとは思うけど、怖がらなくてもいいよ。

僕たちは三人で、君の体質を調べることしたんだ。

まあ、また何かわかったら指南所に向かうよ。それじゃよろしく』



 越喜来からの文章を読み終わると、彼はそのメモを小さくたたんで元に戻した。

(そうだ。師匠はボクの体質を解明するって言ったんだ)

ジニアは昨夜の最後の記憶を思い出すと、小さくため息をつく。

 「師匠……」

心配そうな表情をして俯くと、不安を隠せない声でそう呟いた。





 一方その師匠はというと、病院の一室で男に睨み付けられ、冷や汗をかいていた。

「だ、だからさ。そんな恐い顔しないでよ。僕たちはただ、君に話をしに来ただけなんだ」

顔を引きつらせてそう言う越喜来を依然睨んだまま、ガラの悪い男はベッドの上で鼻を鳴らした。

「ふん、好きにしろ。言っとくが、俺はお前らにボロボロにされた恨みを忘れたわけじゃないからな」

男の髪は、焦げてチリチリになっている。そう、越喜来達は今、あの時の『リーダー格の男』と話している。

お見舞いと称して病院に乗り込み、事情聴取をするつもりなのだ。


 「でもそれって、結局はあなたたちがジニアをいじめてたからですよね。そんなの自業自得じゃないですか」

越喜来の横に立っていたアイリスが、悪びれずに言った。

「こ、このクソ魔女が! 俺らをほとんど一人で片付けておいて、何他人事みたいなこと言ってやがる! それにそもそも、俺らがいじめをしてたって認識から間違ってんだろうがよ!」

男はアイリスの声を聞くのも嫌なのか、それをかき消すように大声で怒鳴った。


 それもそのはず、彼の率いる男達は、ほぼ全員彼女のせいで病院送りにされているのだ。

そんな彼女に対して、トラウマを持たないわけがなかった。



 「そうそう。それが聞きたかったんだ。あの時君達が、"何故ジニアを襲っていたのか"について、話してもらってもいいかな?」

越喜来は男の発言の中から目当ての情報を見つけると、それを深く掘り下げていく。

「ああ? 何で俺が、タダで情報提供しなきゃいけないんだよ。何か報酬でもくれるってのか?」

男はそんな越喜来をキツく睨むと、絶対に話さないという意思を全面に押し出して言った。


 「いや、報酬なんてないよ。他人に何かをさせるときは、『した時の褒美』より『しなかった時の罰』を用意した方が効果的だからね」

頭を掻きながら言った越喜来は、アイリスの方をチラと見て言葉を続ける。

「もし君が何も言わないのなら、彼女にまた魔法を使わせよう。今度は、痛いでは済まないかもね。少なくとも命の保証はできない」

それを聞いた男は、恐怖と怒りが混ざりあった顔で口を開いた。



 「い、一度倒したやつが治療中なところに押しかけて、そのうえ脅して情報奪い取るってのかよ? ……この外道が!」

男は心の中の恨みを全て込めてそう叫ぶと、諦めたように肩を落とした。

「そう、僕は外道だよ? よくわかったね」

軽い口調でそれに返した越喜来は、一瞬ニヤリと笑うと、またいつもの真顔に戻った。





 「ねぇ、あんな嘘ついて脅さなくても、あなたなら簡単に尋問できたんじゃないの?」

男への事情聴取が終わった後、病院の前でリリーは越喜来に声をかけた。

「うん。でもちょうど彼はアイリスにトラウマをもってたし、せっかくの弱点を利用しない手はないと思ってね」

越喜来は男の情報を紙にまとめながら、リリーの方を見ずにそう答える。


 あの時、『言わなければアイリスに魔法を使わせる』などと言ったのは、全て嘘だった。

そもそも、アイリスは彼の言うことをほとんど聞かないのだ。そんな越喜来がアイリスに魔法を使わせるなど、不可能に近い。

『命の保証はできない』という言葉も当然、男により恐怖を植え付けるために付け加えたハッタリだった。


 「聞き出す手段なんてどうでもいいじゃないですか。重要なのはあいつの情報ですよ」

アイリスは二人の会話に口を挟むと、越喜来の持つメモを覗き込んだ。 

「それもそうね。結局、あいつは何て言ってたの?」

リリーもそれに同意して、メモの内容を確認し始めた。



 

 「彼らは、過去にジニアと親しくなって死んだ知り合いの、敵討ちをしようとしていたらしいんだ」

越喜来はメモを指差すと、二人に向けて説明を始めた。

「彼らの知り合いも僕と同じように、皆『仲良くなって』『好意を持たれて』『近くで寝ようとした』。そして、何者かに斬られて死んだらしい」

男が話した数々の事件は、どれも昨夜の状況と一致していた。


 「やっぱり、ほとんど私たちの予想通りですね。恐らくその人達を斬ったのも、暴走したジニアなんでしょう」

そこまで聞くとアイリスは、メモから目を離して顔をあげる。

「でもどうするの? 結局今までの死亡事件がジニア君の体質のせいだとわかっただけで、解決に至るような情報はないわよ? いつもみたいに聞き込みでもしましょうか」

リリーの言葉を聞いて、越喜来はおもむろに立ち上がった。


 「いや、一度指南所に戻ろう。少し気になることがあるんだ」





 「ああ、何だまた"師匠"さん達か。もう怪我は大丈夫なのか?」

指南所に入ると、稽古場には"先生"だけが立っていた。

「怪我はもう平気だよ。それより、ちょっと聞きたいことがあってね」

「聞きたいこと?」

越喜来は聞き返した男に頷くことで肯定の意思を表すと、一気に本題を切り出した。


 「過去に、この指南所で事件とか起きなかった?」


 その言葉を聞いた途端に、男の顔から余裕が消えた。

「な、何で、知ってんだ? そんなこと」

男は慌てて尋ねると、越喜来から目を逸らす。


 「さっき、ある男に言われたんだ。『あの指南所も可哀想に。ジニアのせいで、まったく人が寄り付かねぇ』ってね。何かあったとしか思えないんだけど」

越喜来は、事情聴取の最後にリーダーの男からそんなことを言われていたのだ。

それを聞いた男は一瞬目を瞑って大きく深呼吸をすると、決意したように目を開いた。


 

 「思い出したくも、ないんだけどな……あれは嫌な、いや最低な事件だった。ジニアを除く見習い全員が、誰かにぶっ殺されたんだ」

過去の事件を思い出しつつ、男は額から汗を流しながら話し始めた。

「ちょうど合宿をしてる時だった。ジニアを含めた十人ちょっとの見習いが、同じ部屋で寝泊まりしていた」

男は目を宿泊スペースへと向けると、話を続ける。 

「その時、"何者かが"その部屋に侵入したんだ。その"犯人"は隠れてたジニアを除く見習いを皆殺しにして、俺の顔にまで傷をつけて逃げていきやがった」


 「え?」

そこまで聞いたリリーが、驚きの声をあげた。

「待ってよ。今の、何かおかしい――」

そのまま何かを言おうとしたリリーの口を、越喜来が手で塞いだ。

「ん? 俺、何か変なこと言ったか?」

「いや大丈夫。話してくれてありがとうね」

それを見て不思議そうな顔をした男だったが、越喜来に適当に誤魔化されてしまう。

「そうか? ……それよりも、お前凄く汗かいてるな。丁度風呂わいているし、はいっていけよ」

男は越喜来がやけに汗をかいていることに気づくと、そう言ってまた稽古場の奥へと歩いていってしまった。


 「ちょっと越喜来、何で止めるのよ! どう考えてもあいつの証言、"色々とおかしい"じゃない!」

リリーはようやく越喜来の手から開放されると、途端に大声をあげ始めた。

「確かにそれは僕も思ったよ。でもまだだ、あの男にはまだ何かある。今全てを暴こうとするのは、得策じゃない」

越喜来はそう言うと、暴れるリリーをなんとかなだめた。

「一目見た時から、怪しい男だとは思ってたんですけどね。もう少し時間をかけて、調べてみましょうか」

二人のやりとりを聞きながら、アイリスは人差し指をくるくると回して魔力を弄んでいた。





 「お風呂、か。指南所というより、もはや軽い宿泊施設じゃないか? この建物」

越喜来は男に案内された脱衣所の前で佇むと、そんな独り言をしていた。

あの後、越喜来は結局風呂を借りることにしたのだ。

(まあ、あの男はここに住んでるみたいだし、生活環境が整ってるのは当たり前なのかもな……)

越喜来はそんなどうでもいいことを考えながら、脱衣所の扉を開けた。



 「えっ?」

「あっ」

しかし、脱衣所には既に先客が居た。ジニアである。

ズボンだけを穿いて上半身裸の状態の彼は、入ってきたのが越喜来なのを確認すると胸をなでおろした。

「な、何だ……泥棒かと思いましたよ。師匠、どうしたんですか? お風呂になんか来て」

長い髪をほどいたままの彼が、越喜来に近づいていく。

(一瞬、叫ばれるかと身構えてしまった……そういえばこれ、男どうしだから問題無いんだっけ)

越喜来はそんなことを考えると、逸らしていた目をジニアに向ける。

と、そこで彼はジニアの胸に奇妙な円が描かれているのに気づいた。


 「ジニア、君の胸にあるその模様、何?」

彼の胸を指さして越喜来がそう言うと、ジニアは一瞬首をかしげた。

「はい? あっ! こ、これはその、小さい頃からある傷なんですよ!」

しかし何を言われているのかを理解すると、彼は慌ててそれを手で隠した。手で隠しきれない部分の模様からは、わずかに紫色の光が放たれている。

「小さい頃からある? あのさ、もっとよく見せてもらってもいいかな」

越喜来はそれを見て何かを確信すると、恥ずかしがるジニアに向けてそう頼んだ。


 「こ、この傷、小さい時から気にしてたんです。お姉ちゃんからは『良く分からないし、気味悪いから隠しなさい』って言われるし……」

「お姉さんが、"隠せ"と?」

彼が小声で言ったその言葉に、越喜来は眉をひそめた。

「はい。で、でも、師匠になら、見せてもいいですよ?」

ジニアはしばらく悩んだ後に決心すると、顔を赤くして手をどけた。


 「これって……」

彼の胸に描かれたそれは、素人の越喜来が見てもわかるほど、魔法陣らしい魔法陣だった。

円の中にいくつもの文字が記され、複雑な記号がこれでもかと書き込まれている。

「あ、あの。何かわかりましたか?」

ジニアは越喜来を遠慮しがちに見ながら、恐る恐る問いかけた。

「いや、僕だけでは判断できない。後で二人にも見せて、詳しく話し合ってみるよ」

真剣な口調でそう言うと、越喜来は懐から"魔力カメラ"を取り出した。



 フラッシュが、ジニアの体を照らす。

「よし、ちゃんと撮れてる。ありがとうね、じゃあそういうことで!」

越喜来はカメラで(見た目は)女子の胸を接写するという行動を難なくやってのけた後、簡単にお礼を言うと足早に去っていってしまった。

「え? あ、ちょっと師匠! お風呂はどうするんですか?」

ジニアはその背中に向けて必死に声をかけたが、既に越喜来は声の届かない距離まで行ってしまっていた。





 「うわあ、これは酷いですね」

宿屋の一室で、アイリスは写真を眺めてそう感想を述べた。

「やっぱり、この魔法陣ってヤバめのやつだったの? アイリス」

越喜来は、食い入るように写真を見つめるアイリスに向けて問いかけた。

「いえ、こんな遠慮もなしに人の胸を接写する越喜来さんの人間性が」

「頼む。真面目にやってくれないかな」

いつもならアイリスの悪口にツッコむ越喜来だったが、今回はふざけている場合ではなかった。


 「わかってますよ冗談ですって! 実際、これかなり酷い呪いですよ。寄生・支配・拡散・暴走って、今回の事件に関わるあらゆる要素がこの呪いで引き起こされてます!」

アイリスは気を取り直すと、今度は真剣に解説を始めた。

「その寄生とか、拡散ってのは何なの? 私、呪いには詳しくないんだけど……」

リリーはそれを聞いて疑問に思ったのか、アイリスに質問した。



 「寄生はもちろん、今胸にくっついてる状況のことですよ。拡散は、越喜来さんの目に小さい魔法陣を生み出したあれですね。とにかく今回の事件は、この呪いで全て説明がつくんです」

その質問を聞いてアイリスは指を回しながら少し考えると、そう答えた。

「なるほどね。これでようやく、解決の糸口が見えたって訳だ」

越喜来は写真を手に取り魔法陣を見つめると、嬉しそうにそう呟く。



 「……あ! そういえば、こういう呪いって、効果の期限が決まってるんです! だから呪いをかけ直すタイミングを狙えば、もしかしたら犯人を捕まえられるかもしれません!」

その様子を見ていたアイリスが、突然大声をあげて飛び上がった。そして越喜来から写真をひったくると、魔法陣に記された文字を穴があくほど睨み始めた。


 「かけ直し!? でも、別に魔法なら遠くからかけ直せばいいんじゃないの? それじゃ捕まえるのは無理よ」

リリーは、突然テンションが上がったアイリスに驚きながらもそう言った。

「こんな複雑な呪い、遠隔でかけ直すのは私でも難しいですよ。並の魔法使いじゃ、近くでかけ直すのすら難しいんですから」

その言葉に首を横に振りながら答えたアイリスは、写真をしばらく見つめた後、突然動きを止めた。


 「ん? どうしたの? 結局かけ直すタイミングはいつだった?」

その不審な様子を見て、越喜来が声をかけた。

「もしかして、かけ直しまで一年かかるとかじゃないでしょうね……?」

恐る恐る尋ねたリリーだったが、それに返ってきたのは予想外の言葉だった。



 「いえ、その。私の計算が正しければ、かけ直しのタイミングは……明日の夜です」

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