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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
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『呪い』

 「何だ? お前達また来たのかよ」

男が、面倒臭そうな顔をして言った。

「うん。少しジニアに話があってね」

越喜来はそう言って扉を閉めると、男の鋭い目つきに動じずに稽古場へと入っていった。



 あの悪夢の翌日、越喜来達はさっそくジニアに事情を聞くことにして、指南所へと向かったのだ。

三人が稽古場に入ると、彼は既に一人で剣の練習を始めていた。



 「ジニアと話したいなら、諦めろ。今日は、一日中体を鍛える日だからな。話をしてる暇なんて、今日のあいつにはねぇんだよ。わかったらさっさと帰りな」

男はそうとだけ言い残すと、ジニアの指導に向かってしまった。

「ふん。何よあの言い方。だいたい一日中あの厳しいトレーニングさせるって、この男指導を拷問か何かと勘違いしてるんじゃないの?」

完全にその男に嫌なイメージを持ってしまっているリリーは、聞こえないようにそう非難した。



 『いくら一日中といっても休憩時間くらいあるだろうし、少し待ってみよう』

という越喜来の提案で、三人は昨日と同じく稽古を見ることにした。

しかし昨日稽古を見ていた壁のところまで行くと、そこには既に先客がいた。

「あれ? あなたは確か、ジニア君のお姉さんですよね。どうしてここに?」

その先客とは、モネだった。彼女はリリーに声をかけられると、ゆっくりと三人に会釈をした。


 「えっと、私はいつも、夜に迎えに来るだけなんですけどね? あの子が先生に迷惑をかけてないか心配で、たまに見に来ちゃうんですよ」

彼女は口に手を当てて微笑むと、恥ずかしそうに目を逸らした。その表情を、越喜来が目を細めて見つめている。

「ところで、あなたたちの方はどうしてここに?」

言い終わったあとで気になったのか、彼女は同じ質問を三人に投げかけた。


 

 「ああ。それは僕がジニアの悪夢を――」

越喜来はそれに正直に答えようとしたが、後ろから口をリリーに抑えられてしまった。

「え? 悪夢?」

「いやー何でもないですよー! こっちの話、こっちの話! 私達はただジニア君にアドバイスをしてあげようと思って、ここに来たんです。そうよね? アイリス」

「は、はい! そうですよ!」

モネは彼女達の慌てっぷりを見てしばらく怪しんでいたが、自分の考えすぎだと思ったらしくまた笑顔に戻った。


 (越喜来! なんでお姉さんに悪夢のこと話そうとしてるのよ!?)

(いや、だって家族なんだし何か情報が得られるかと思って……)

リリーは小声で越喜来を責めたが、彼は『何が悪いのかわからない』といった顔をしている。

(これで怪しまれたら、ジニア君にも事情聞けなくなって元も子もないでしょうが!)

(ああ、そう言われれば確かにそうかも)

二人がそんなやりとりをしていると、モネが声をかけてきた。



 「あなたが"師匠"さんでしたっけ? あの子、昨日迷惑かけませんでしたか?」

越喜来の方を見ると、心配そうに尋ねる。

「僕は迷惑してないよ。 でも、どうしてそんなことを?」

「いえ、あの子は思い込みの激しいタイプですから……今回も師匠などといってベッタリくっついて、迷惑だったのではと思って」

聞き返した越喜来に対して、彼女は長く伸ばした髪を指に巻き付けながら申し訳なさそうにそう言った。



 目の前からは、男の指導する声がひっきり無しに聞こえてくる。

「別に師匠と呼ばれたところで、彼に何かを要求されてるわけじゃないからね」

少し間を開けてそう答えると、越喜来は彼女から視線を外して前を向いた。視線の先では、ジニアが石でできた棒を振ってトレーニングしている。

「それに、僕の方が迷惑をかけてるかもしれないしさ。大切な弟を独占されて、お姉さんちょっと妬いてるでしょ?」

「……はい? 一体、何を言っているんですか?」

越喜来が彼女の方を向き直して言ったその言葉に、彼女は疑問で返した。

その時だった。


 「危ねぇ! よけろ!」


 稽古をしている位置から、男の緊迫した声が聞こえてくる。

越喜来はそれを聞いて急いで左右を見回すが、特に何も危険は見当たらない。

「馬鹿野郎、"上だ"!」

男の続けた声に反応して上を見ると、石でできた太い棒が、越喜来に向けて回転しながら降ってきているのが見えた。

「え? ぐあっ!」

越喜来が事態を把握する前に、その棒は彼の頭に直撃した。

ゴス。と耳を塞ぎたくなるような音がして、越喜来は地面にうつぶせに倒れた。頭から流れた血が広がり、床を赤く染める。


 「ちょ、ちょっと! これ本気でやばくない?」

「い、急いで回復魔法かけますからね! 気を確かに!」

そんな声を聞きながら、越喜来の意識は遠くなっていく。

気を失う前彼が最後に見たのは、今にも泣きそうな顔で自分を見つめる、ジニアの姿だった。





 「う、ん? ここはどこだ? それに、僕はどうなったんだ?」

次に越喜来が目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていた。

「そ、そうだ! 僕は確か怪我をして……あれ?」

気を失う前のことを思い出した越喜来は慌てて頭を確かめた。しかしそこには軽く包帯が巻いてあるだけで、怪我の痕跡すら無い。


 「あ、師匠。気がついたんですね? よかった……」

状況が理解できず彼が混乱していると、横から聞き覚えのある声がかかった。

越喜来が声の方向を見ると、ジニアが真剣な目をして彼の方を見ていた。

「ジニア、あの時何が起きたの? というか、ここはどこなのさ」

訳がわからずにそう問いかける越喜来に、ジニアは泣きそうな顔で説明し始めた。


 「あの時、ボクが振っていた石の棒が、手からすっぽ抜けました。そして棒はそのまま飛んでいくと、師匠の頭にぶつかってしまったんです」

ジニアは自分の手を見つめながらそう言うと、目線を越喜来の奥へと動かした。

「その後とっさにアイリスさんが回復魔法をかけてくれたので怪我は治ったのですが、なかなか師匠は意識を取り戻さなくて……二人とも、さっきまでずっと看病してくれていたんです」

越喜来がその目線を追うと、疲れ果てて眠る二人の姿が視界に飛び込んできた。


 「あの、ごめんなさい! 僕の不注意で、危うく師匠を殺すところでした!」

ジニアは目に涙を浮かべながら、越喜来に謝った。

何回も泣いたのだろう。彼の目の周りは既に真っ赤に腫れ上がっていた。

「……いや、いいんだよ。僕はこれまでにも死にかけたことがあるからね。こういうのは慣れっこなんだ」

越喜来は、その表情からジニアがわざとやったのではないことを確認すると、それを許して顔を上げさせた。



 ジニアを含めた四人が居たのは、指南所の奥にある宿泊スペースだった。

床に毛布を四枚敷いただけの空間に、四人の人間が寝転がっているのだ。

決して快適だとは言えなかったが、気絶中の自分に寝床を提供してくれたというだけで、越喜来にとってはありがたかった。



 「……少し、話があるんですけど、いいですか?」

二人が寝転がってから数分後、ジニアが唐突に口を開いた。

「話? いいよ。どうせ僕は目が覚めちゃって眠れそうにないし、どんな長話でも聞くけど?」

越喜来は目を開いてそう言うと、彼の次の言葉に耳を傾けた。


 「ボクが他人に迷惑をかけるって言いましたよね? あれ、実は"迷惑"じゃすまないレベルの話なんですよ」

ジニアは天井を見つめたまま、何かを思い出すように言った。

「昔から、ボクと親しくなる人は、みんな何故か酷い目にあうんです。最初は、ボクに襲われる悪夢を見たり、気分が悪くなったりするだけなんですけど……」

「うん、続けて?」

越喜来は彼の声が止まったことに気づくと、フォローを入れて話を続けさせようと試みた。

するとジニアは、決心したようにまた口を開いた。



 「……ある程度仲良くなると、皆例外無く死んじゃうんです」



 それを言い終わると、ジニアは目を閉じて深呼吸をし、言葉を続けた。

「今回のも、それの予兆な気がするんです。ボクは師匠に、死んで欲しくない。だから、もう師匠と関わるのはやめようかと思います」


 仰向けに寝た越喜来からは、その時のジニアの表情を見ることはできない。

しかし、越喜来は彼が泣いているのだということを、その声のトーンから察した。

「師匠、ですから、明日からはもうこの指南所に来ないで――」

「いや、あいにくだけど、そういうわけにもいかなくなったみたいだ」

ジニアが泣きながら言った言葉を、越喜来は自分の声で遮った。



 「僕は、一度違和感を覚えたことは解決しないと気が済まないんだよ。ジニア。君のその体質は、明らかに不自然だ」

越喜来は戸惑う彼を無視して、勝手に語り出してしまった。

「魔法の影響かもしれないが、それにしちゃ効果が限定的すぎる。誰かが、何かのために意図的にそうしているとしか思えないんだ」

真剣な口調で、越喜来がまくし立てる。ジニアはそれを、困惑した顔で聞いている。


 「安心してよ。この違和感、僕が必ず解消してみせるから」

そして最後にこう言うと、疲れたのか大きく深呼吸をした。

「し、師匠……」

この言葉を聞いて、ジニアは先程までとは違う感動の涙を流した。

実際はただ越喜来が『気になった。だから調べる』と言っているだけであって、ジニアの為を思って言ったというわけではないのだが、彼にそんなことがわかるわけもなかった。



 「う、ぐ、あ!?」

その時、異変は起こった。

ジニアの体から紫色のオーラが沸き起こり、彼の体を包んでいく。

彼は紫に目を発光させると、フラフラとしながら起き上がった。

「ん? ジニア、朝にはまだ早いと思うよ?」

それに気づいた越喜来が顔を起こして後ろを見ると、彼は既に剣を抜いていた。


 「ううう、があああああ!」

不気味な声をあげたジニアが、剣を振りおろす。

越喜来はとっさに盾を掴むと、それをギリギリのところで防いだ。

「くっ! どうしたんだ!?」

そのままジニアと距離を取ると、越喜来は青く光る盾を体の前に構えた。

「うーん。あれ? もう朝? ――ってジニア!? 何してるのよ!」

剣と盾がぶつかる音で、目を覚ましたらしい。リリーは剣を抜いて虚ろな目をしたジニアを見ると、驚きの声をあげた。


 「リリーはさがってて。ジニアの様子がおかしい」

越喜来はジニアを睨んだままそう言うと、一歩ずつジニアから離れていった。

「お、おああああああ!」

何歩が下がったところで、ジニアがもう一度攻撃してきた。

越喜来はまたもやギリギリそれを防ぐと、盾で弾くようにしてジニアを転ばせた。


 (クソ、やっぱりおかしい。さっきからジニアには、まるで"心がないみたいだ")

越喜来は倒れたまま起き上がらないジニアを見て、そう思った。

先程から彼が何度心を読もうとしても、うまくいかなかったのだ。表情と行動が食い違いすぎて、彼の頭の中ではエラーが起きまくっていた。


 「あ、あ、ああああああっ!」

ジニアはしばらく地面に倒れた状態のままでいた後、突然そう叫んで起き上がった。

そして剣を構えると、越喜来めがけて突進を始めた。

越喜来はそれを受け止めようと、盾を構える。



 「伏せてください!」


 その時、越喜来の背後からそんな声が聞こえた。

越喜来がそれを聞いて急いで体を屈めると、その頭上を一筋の光が通り過ぎた。

「うえっ! あぁう……」

その光を食らったジニアは一瞬体を痙攣させた後、気を失って倒れてしまった。

「大丈夫でしたか?」

その声に越喜来が光の出処を確認すると、アイリスが真剣な顔で指を突き出しているのが見えた。

「うん。なんとかね。それより、ジニアをどうにかしよう」

越喜来はそう言って目を回して倒れているジニアを抱えて、彼の寝床へと運んだ。




 

 「ジニア君と親しくなると死ぬ?」

リリーは越喜来の話を聞き終わると、驚いて聞き返した。

「うん。彼は確かにそう言った。だから、僕にもう関わらないでくれと言ったんだ」

ジニアを毛布の上に寝かせると、越喜来はその問いかけに答えた。


 「今のを見るに、彼には親しくなった人物に、我を失って襲いかかってしまう体質があるんだろう。今までに死んだ人間のほとんどは、彼自身の手で殺されていると思っていい」

越喜来はこれまでの状況からそう結論を出すと、話の続きを促すようにアイリスを見た。

「それと、この体質は意図的に作られたものですね。間違いありません。詳しい種類はわかりませんけど、彼が何者かから魔法の影響を受けていたのは確実です」

アイリスはジニアがまとっていたオーラを思い出すと、そう断定した。


 「とりあえず、僕はこの事件がとても気になる。悪夢といい、彼の体質といい、怪しいことが多過ぎる。主人公も大切だけど、僕はそれよりもまずこの事件について調べたいんだ」

越喜来は二人を交互に見ながらそう言うと、意見を待った。

「……まあ、どうせダメと言っても聞かないんでしょ? それに、誰とも仲良くなれないなんて、ジニア君がかわいそうだもの!」

リリーは持ち前の正義感から、この事件の解決を優先することにあっさりと賛成した。

「私は別にどうでもいいんですけど、リリーさんが賛成なら賛成しますよ?」

そしてアイリスも不純な理由だが賛成し、全員の意見が一致した。



 「……異論はないみたいだね。それじゃ、明日からはこの事件について調べることにしよう」

越喜来は二人を見ながらそう言うと、さっそく謎の解明のために頭を働かせ始めた。

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