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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
29/41

『悪夢』

 「おーい! 二人とも、大丈夫だった!?」

それからしばらくして、リリーが二人のもとにたどり着いた。

「越喜来はいなくなるし、アイリスも奥に飛んでいっちゃうし、何があったのよ?」

三人の中で最も戦えないリリーは、あの後目立たないように隠れていた。

そのせいで気がついたら置いていかれていて、急いで追いかけてきたのだ。


 「え、えっと、何があったといいますか、その……」

その質問に対しアイリスは、言いにくそうに言葉をつまらせた。視線の先では、越喜来とジニアが何かを話している。



 「師匠! どうやったら、あんな風に攻撃を躱せるんですか?」

「まあ、そうだね。日頃の鍛錬を欠かさないことが大切かな」

ジニアが、越喜来に尊敬のまなざしを向けながら質問している。越喜来はそれに対して適当な返事をすると、リリーがいる方を見た。

「あ、リリー。一応全員片付けたよ。といっても、ほとんどアイリスの魔法だけどね」

越喜来はそう声をかけたが、リリーは驚いた顔をして黙ってしまった。そして何回か目をこすると、自分の頬を強く引っ張る。


 (ゆ、夢じゃないわよね? 越喜来が、初対面の女子から好印象をもたれてるなんて……)

「リリー、心の中だからって言っていいことと悪いことがあると思うよ」

リリーの心をちゃっかり読むと、越喜来は不機嫌そうな声で抗議をした。


 「本当に、信じられませんよ。こんな人になびく女の子がいるなんて。だいたい倒したのは私なのに……」

アイリスはジニアが越喜来に依然くっついているのを見て頷くと、リリーの『信じられない』という反応に同意した。指をくるくると回しながら、越喜来を睨む。

「うーん。君たち、何か勘違いしてない?」

そんな二人の失礼な反応に、越喜来は苦笑いをしながら言った。

一方ジニアは三人のやりとりを見ながら、不思議そうな顔をしている。

「何が勘違いなんです? 『実は性格も悪くなくて、僕はモテモテだった』とかいうつもりですか?」

「いや、そうじゃなくてさ」

それにアイリスが露骨に嫌な顔をして返した言葉を、越喜来は静かに否定する。


 「――この子、男だよ?」



 越喜来が発したその言葉の意味を理解するのに、二人は数秒を費やした。

「「はあああああああ!? 男!?」」

ようやく自体を把握すると、ピッタリ声をハモらせて叫ぶ。

「やっぱり君たち、この子を女だと思ってたのか……いくら探してもいじめられてる女の子が見つからないわけだよ。そんなのどこにもいないんだから」

彼女達が"女の子"と表現していたジニアは、男だった。

だからあの時いくら探したところで、越喜来の視界にいじめられている女の子など入るはずなかったのだ。

「筋肉の動き、仕草、表情。それらを分析したら、男だって結論が出たんだ。いや、最初は僕も目を疑ったけどね?」



 「す、凄い……!」

それを聞いていたジニアは、これまで以上に目を輝かせると、感動して声を震わせる。

「初対面でボクを男だと認識したのは、師匠が初めてです!」

そしてそう叫ぶと、越喜来の腰に力強く抱きついた。

「お姉ちゃんに髪型も指定されて、皆女の子と勘違いしてきて嫌だったんですよ! なのに凄いです!」

そう言ってはしゃぐと、彼は満面の笑みを見せた。

「そ、それにしても凄く懐いてるわね……」

リリーはショックから気を取り直すと、ジニアの様子を見てそうコメントした。

それを聞いて我に返ったジニアは顔を真っ赤にすると越喜来から離れ、三人の方を向く。


 「あ、その、すみません! ボク、誰かに助けてもらったことなんてなかったから、つい舞い上がっちゃって……迷惑、でしたよね?」

ジニアは申し訳なさそうにそう言うと、頬を染めたまま三人を見た。



 (か、かわいい! なんなんですかこの子。すごい敗北感が……)

それを見たアイリスは、驚愕していた。どう考えても、ジニアは女子にしか見えないのだ。

「ぐっ、こ、これはちょっと……」

一方、リリーもそれを見て困惑していた。

(な、何だろう。女として、何か負けた気がするのは気のせいかしら……)

そんなことを考えて黙ってしまった二人を交互に見て、ジニアは困ったような顔をして越喜来を見た。


 「あの、ボクなにかしましたか? 師匠」

戸惑いを隠せない様子で、越喜来に問いかける。

「いや、あの人達は勝手にダメージを受けてるだけだ。だから気にしなくていいよ」

越喜来はそれに淡々と答えながら、ジニアの全身を眺めた。



 

 「それで、君はどうして襲われていたの? 見たところ、剣士みたいだけど」

ジニアの鎧と腰に提げてある剣を見て、越喜来は尋ねた。

「少なくとも、あれほどの大人数に執念深く追われるということは、かなり恨みを買っていたとしか思えない。何があったのかな?」

越喜来のその言葉に、ジニアは表情を暗くした。


 「その、ボクは生まれてから今まで、何かと人に迷惑をかけてきたんです。だから、多分それで恨まれたんだと思うんですけど……」

ジニアは、その『迷惑』の部分を具体的に言おうとしなかった。越喜来はそれに気づいたが、今はあえて黙っておくことにした。

「そうだったのね。それでも、やっぱり大人数でいじめるのはやりすぎよ。間に合って良かったわ」

リリーはそれを聞いて納得すると、ジニアを助けられたことにホッとした。



 「それじゃあ、僕たちは行くよ。帰りも気をつけてね」

話が一区切りついたところでそう言うと、越喜来はジニアに背を向けて薄暗い路地を引き返していった。その後ろを、リリーとアイリスが続く。

と、そこで背後から大きな声がかかった。


 「あ、あの! ちょっと待ってください、師匠!」

その声に反応して、越喜来が振り返る。そこには、何かを言いたげに口を開けているジニアの姿があった。

「ぼ、ボクが通っている剣術指南所に招待したいんですけど、いいですか? 師匠のこと、"先生"に紹介したいので!」

ジニアは顔を赤くすると、両手を握り締めてそう叫んだ。






 数時間後、越喜来たちはジニアの話していた指南所の前に立っていた。

「結局、断れませんでしたね」

指南所の看板を見つめながら、後悔するようにアイリスは呟いた。

「仕方ないわ。あんな真剣に頼まれて断れる人間なんて、越喜来くらいしかいないもの。もっとも……」

その横でリリーはそう言うと、指南所の入り口でくっついている越喜来とジニアを見た。


 「師匠! 師匠は何故この街に来たんですか?」

「あ、アドルって人を探しに来たんだよ。それよりジニア、もう少し離れてくれないかな……」

越喜来は先程から鬱陶しいほど絡んでくるジニアに困惑し、苦笑いを浮かべることしかできないでいた。


「……あんな風に全力で慕われちゃ、流石のあいつでも断れなかったみたいだけど」

そう言っている間にも、越喜来は腕を引かれて指南所の中に入っていってしまう。

二人は大きくため息をつくと、この街のイメージにピッタリな、素朴な指南所へと足を踏み入れた。



 「先生! 今日も来たよ!」

指南所の扉を開けて、ジニアが元気良く言った。

広い殺風景な稽古場の中、黙々と木剣を振っていたその"先生"は、ジニアの声に顔をあげた。その顔には、剣による深い傷が刻まれている。

「ああ、ジニアか。今日は随分と遅いじゃないか……ん? 誰だよその男。見ない顔だな」

先生と呼ばれた男は越喜来の存在に気づくと、警戒して目つきを鋭くした。もともとキツい目が、更にキツくなる。

「あ、怪しい人じゃないよ! この人は、ボクの師匠!」

ジニアはそれを見て慌てると、越喜来のことを『師匠』だと紹介した。


 「師匠? この男が? へぇ……」

男はそれを聞いて、品定めするように越喜来の全身を見始めた。

「師匠って言うからには、随分と腕のたつ野郎なんだろう――なっ!」

そしてさりげない動作で木剣を構えると、とてつもない速度で越喜来に攻撃を仕掛けた。


 越喜来は、その行動をとっくに予測していた。だからいつものように、それを躱せばいいと思っていた。

しかし、

(……速い!)

男の攻撃は、越喜来の身体能力を超えた速さで繰り出されたのだ。

踏み出すと同時に横に薙ぎ払われたその木剣を、越喜来は背中を逸らすことでよけようとする。しかし完全に躱すことはできず、男の剣は越喜来の鼻をかすめると、空気を裂いて振り切られた。



 「――俺の攻撃を、躱すか。ははは! 気に入ったよ"師匠"さん。入りな。」

男は自分の攻撃がよけられたことを自覚すると、先程とは一転大声で笑いだし、越喜来達を稽古場へとあがらせた。

「な、何なのよあの男!? 突然斬りかかるなんて、失礼にもほどがあるわ!」

その一連の出来事を見ていたリリーは、男の後頭部を睨みつけて憤りをあらわにした。

「落ち着いてよリリー。確かに今の行動は酷いけど、別に悪い人じゃ無さそうだ」

よけた勢いで尻餅をついた越喜来が、立ち上がりながらそれをなだめる。

そして必死に謝りまくるジニアを連れて、彼は稽古場の中へと入っていった。



 

 『稽古の様子を、見ていってください!』

ジニアにそう言われて、三人は稽古場の端に腰をおろしていた。

目の前では、男とジニアが木剣で稽古をつけている。

「まったく。結局この街でも時間を無駄にしてるじゃない」

リリーは木製の壁にもたれかかると、うんざりしたように言った。

「まあまあ。それに前の街で時間が無駄になったのは、ほとんど君の買い物のせいじゃないか」

それに言葉を返すと、越喜来は稽古を観察し始めた。



 越喜来には、男がジニアに対してかなりキツく指導を行っているように見えた。

ジニアが剣を振る度に、男はどこがおかしいのかを厳しく指摘し、時に怒鳴る。実践型の稽古でも、全く手加減はせずにその剣を払っていった。


 「なーんかあの先生、私好きになれませんね。あの子に対する指導は無駄に厳しいし、顔の傷からして怪しいですし」

アイリスは稽古中の男を見て、嫌悪感をあらわにした。

「私も、嫌いね。稽古云々より、最初の攻撃が有り得ないわ。どういう神経してるのかしら」

リリーはそれに同意すると、目つきを鋭くして男を睨みつけた。

しかし男はそれに気付かず、厳しい指導を続けていく。



 稽古は、外が暗くなるまで行われた。

「ど、どうでしたか師匠……はぁ、何か直した方が良い点などは、ありましたか……」

稽古が終わり、汗だくになったジニアは越喜来に尋ねた。既に体力の限界なのか、肩で息をしている。

「いや、特に無いよ。いいんじゃないかな」

しかし剣術に疎い越喜来はろくなコメントが思いつかなかったので、当り障りのないことを言って誤魔化した。

と、その時指南所の扉が開いて、若い女性が入ってきた。


 「ジニア、迎えに来たわよ……あら? そっちの男の人は誰?」

青い髪のその女性は、越喜来を見ると不機嫌そうな顔をして尋ねた。

「あ、お姉ちゃん! この人はボクの師匠だよ。今日襲われたところを助けてくれたんだ!」

ジニアは、どうやら越喜来たちにしか敬語を使わないようだった。嬉しそうに言うと、その女性のもとへ歩いていく。

「そうだったんですか!? 私はジニアの姉で、モネっていいます。今日は、本当にありがとうございました!」

『お姉ちゃん』と呼ばれたその女性はそれを聞いて顔に笑みを浮かべると、越喜来に深く頭を下げた。


 「いえ、いいんですよ。僕は人として当然のことをしたまでですから」

越喜来はお礼をされて調子に乗ったのか、まるで全てが自分の手柄だとでも言うような口ぶりでそんなことを言った。

彼女の顔をしばらく眺めると、少し間を空けて微笑み返す。


 「だからほとんど私がやったんですってば!」

「ま、まあまあ。いいじゃない別に」

それを聞いて腕に魔力を集め始めたアイリスを、リリーが必死になって止めていた。





 その日の夜、三人はまたもや同じ部屋に泊まっていた。

アイリスは昨夜と同様ベッドに縛り付けられ、もがいている。


 「リリー、アレほどかなくていいの?」

越喜来はものすごい勢いで暴れるアイリスを見て、心配になってリリーに確認をとった。

「ええ。というか、本人が『ほどかなくていいから、むしろもう少しキツく』とか言い出すんだもの。意味わからないでしょ?」

「ああ、そういう……」

リリーの証言から何かを察した越喜来は、下手に関わらないように早く寝ることにした。

ベッドに潜り込むと、目を閉じて気を落ち着かせていく。




 越喜来は、暗闇の中で誰かの声を聞いていた。

それは不鮮明で何を言っているのかわからなかったが、強い恨みから発せられたものだということだけは理解できた。


 ふと気配を察知して振り返ると、そこにはジニアが立っていた。

「あれ? 君何してるんだ? というか、ここはどこ――」

越喜来がそう言いかけた時、ジニアがゆっくりと剣を抜いた。

『師匠……あなたを殺します……』

ジニアはそう呟くと、おもむろに剣を越喜来に振りおろす。その剣に切り裂かれ、越喜来は地面に倒れた。




 「う、うわあ!」

大声で叫んで、飛び起きる。手で体を触り、怪我がないことを確認。ここでようやく、越喜来はそれが悪夢だったことを理解した。

「何よ、うるさいわね……って、あなたその目どうしたの!?」

その声に目を覚ましたリリーは、越喜来の目に紫色の魔法陣が描かれているのを見つけた。

「こ、こういう時は、魔法のプロに聞いてみましょう! 何かの呪いかもしれない!」

リリーは焦ってそう言うと、縛り付けられてもがいている"魔法のプロ"を開放した。


 

 「これは、悪夢を見せる呪いですね」

数分後。体に縄の痕を残したままで、アイリスは至極真面目に言った。

「悪夢を?」

「はい。それも、条件を満たす相手全てに同じ内容の悪夢を見せる、悪質な呪いです。ただ効果はもうすぐ切れますし、そこまで深刻なものでもないかと」

聞き返したリリーに笑顔で答えると、髪を指でくるくると弄びながら越喜来の方を向いた。


 「越喜来さん、どんな悪夢を見たか覚えてますか? それによって、犯人が特定できる場合もあるんですが」

アイリスが真剣に尋ねる。それを聞いた越喜来は、顎に手を当てて考えた。

「うーん。確か、ジニアが僕に切りかかってきたんだ。それ以外の音や映像は不鮮明で、わからなかった」

越喜来は精一杯悪夢の記憶を探ったが、思い出せたのはその部分だけだった。

「ジニアって、あの子よね? そんな、呪いをかけられるようには見えなかったけど……」

リリーはベッドに腰掛けながらそれを聞くと、ジニアの人物像を思い浮かべてそう言った。


 「まあ、それについては明日本人に聞いてみよう。今はとりあえず、睡眠不足に陥らないようにしないとね」

越喜来のその言葉を合図に、三人はまたベッドに潜り直した。

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