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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
三章 【呪縛】
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『嵐の前に』

 「……何と言うか異世界には、もっとこう幻想的なイメージを抱いてたんだけどなぁ。例えばホウキで飛ぶとかさぁ」

越喜来が唐突に呟いた。しかし、それは風に遮られて聞こえない。


 越喜来は、考えていた。

この異世界について、考えていた。具体的にいえば、この世界の技術力についてだ。


 (この世界には、電気がないらしい。だから、電池もないし電灯もない。でもその代わりに、魔力を使った機器が生み出されているようだ。何気にすごい技術だよな、それって)

越喜来はそんなことを考えながら、手の中で弄んでいた"魔力カメラ"を使い、夕日に染まった景色を撮影しようと試みた。フラッシュとともに、火花が散る。


 出てきた写真には、グチャグチャな何かが写っていた。全くもってブレブレである。

しかし、ここで彼の撮影技術を責めるというのは酷な話だろう。

だって彼らは今、超高速で移動している最中なのだから。


 

 「快適ですね、リリーさん! 魔法もなかなか捨てたものではないでしょう?」

アイリスが、後ろに座っているリリーに呼びかける。

「ええ。でも、よくこんなの持ってたわね……」

リリーはそう言いながら、自分が今乗っている"こんなの"をジロジロと見つめた。

「いやだなー。褒めても、何も出ませんって! ちょっとカラクの人達に頼んだら、よろこんで"これ"を貸してくれたんですよー!」

褒められて調子に乗ったアイリスは、さらに"これ"を加速させる。アイリスから魔力が供給され、車輪が勢い良く回り出す。



 アイリスはあの後、カラクの人達にこれからも遠隔で魔力を供給することを約束して、街から出てきたのだ。"これ"は、その時街の人に借りたものだった。

そう、彼らが乗っているのはなんと、魔力で回る四つの車輪によって移動する、超最新型の魔力機器だったのだ。


 というか、そのまんま自動車だった。越喜来が落ち込むのも無理のない話である。



 「あれ? どうしたのよ越喜来。さっきから随分とテンション低いじゃない」

「いいんだ、気にしないで。別にホウキで空を飛びたいなんて思ってたわけじゃないんだ。本当だよ」

拗ねたように景色を見つめる姿を見てリリーが声をかけるが、それに対して越喜来は暗い声で返事をした。

どうやら、ホウキ等で空を飛ぶことにかなり強い憧れを抱いていたらしい。

「多分酔っちゃったんでしょう。まったく、情けないですね。私のハンドルさばきは、まだまだこんなもんじゃないですよ!」

それを聞いたアイリスは馬鹿にしたようにそう言うと、ハンドルを切ってデコボコとした岩場を切り抜けていった。


 ちなみにこれは自動車っぽいものであって、自動車ではない。それに、アイリスへの"少女"という表現もあくまで越喜来の主観に基づくものであり、実年齢はわからない。

だから、『免許もってなくない?』とか『運転できるの? というかしていいの?』とかいったツッコミを入れることは、決してしてはいけないのだ。

してはいけないのだ。



 そんなこんなで、三人を乗せた自動車(仮)は猛スピードで次の街へ向かった。

その街までは村からカラクまでの距離の二倍はあったのだが、この車(仮)はそれから僅か二十分後には街に到着してしまったのだった。

 




 越喜来たちを乗せた車は、黒い門の前で止まった。

三人は車からおりると、そのなんの変哲もない門を開き、街の中へと入っていった。



 「ここが、あなたの言ってた『アドルが次に向かった街』? 何だか、その、すごく普通というか……」

「……素朴で、いい街ですね! リリーさん!」

「そ、それよ! それが言いたかったの。素朴でいい街だわ。うん」

リリーとアイリスは、その街をなんと形容していいのか分からず、そんな無難なコメントで済ませることにした。


 あまりにも普通。あまりにも平凡。特徴が無さすぎて、コメントのしようがない街だった。

村ほど建物が少ないわけでもなく、カラクほど技術が発展しているわけでもない。

レンガ造りの建物がそれなりに並び、人もそれなりに住んでいる街だった。



 「なるほど。すごく地味だ。なんの面白みもない。僕だったら、こんな街には住みたくないかな」

「ごめん。本当に黙っててくれない?」

越喜来の発言をリリーが注意するが、もう遅い。その失礼な言葉に反応して、近くにいる人が一斉に三人の方を睨んだ。

「あ、あはは。えっと、その、すみませんでした!」

「あー! 待ってくださいよリリーさん!」

リリーは気まずい空気に耐えきれず、越喜来を引っ張って走り出してしまった。その後ろを、アイリスが急いで追いかける。




 「はぁ、はぁ、まったく。あなたが不用意な発言で反感を買うと、私達まで巻き込まれるのよ? 少しは自重してよ」

宿屋らしき建物の前で足を止めると、リリーは肩で息をしながら言った。

「わかったよ。というかリリー、君僕を引きずる時だけ異常なパワーを発揮するよね? 何で片手で人引きずりながらそのスピードかでるのさ」

ボロボロになった越喜来が返事をするが、リリーにはそれに答える余裕はなかった。

「まあ良かったじゃないですか。おかげで、真っ暗になる前に宿屋に着けましたし」

その流れに、アイリスが口を挟む。


 「ん? アイリス、君すごく余裕そうだね。実は体力に自信あったの?」

「何でそんなに馴れ馴れしいんですか? ……まあ、いいですよ、教えてあげましょう」

越喜来からの質問に相変わらず不機嫌そうにそう答えると、アイリスは小さな鞄から細長いホウキを取り出した。彼女はこれに乗っていたのだろう。

「じゃん! 空飛ぶホウキです!」

「ちょっとツッコみたいことあるんだけどいいかな!?」

しかしアイリスが得意気にそのホウキを紹介するのを見て、越喜来は慌ててストップをかける。



 「なんですか? 細かいことを気にする人ですね……」

説明を止められたアイリスが、蔑むような目で越喜来を見る。

「その鞄、絶対に魔法の道具だよね? というか確実に四次元か何かが関わってるよね!?」

「次元? 何言ってるんですか。これはただの召喚魔法の応用ですよ」

「あ、そう?」

冷静に答えるその様子を見て、越喜来はそれが自分の考えすぎだったことを知った。あまりにもそれが自分の知っている四次元の"アレ"に似ていたので、取り乱してしまっていたのだ。


 「それと! 君普通に飛べるホウキ持ってるじゃないか! 前に『ホウキで空飛ぶなんて古い』ってバカにしたのは何だったんだよ!」

それを聞いて、アイリスはギクリと効果音が聞こえそうなほどわかりやすく動揺した。

そう、カラクを出発する前越喜来がホウキについて質問しまくった時、アイリスは面倒臭そうにそう答えたのだった。


 「そ、それは、越喜来さんがホウキで空飛びたいってうるさいからですよ!」

「黙らせるだけなら、僕をそのホウキに乗らせて満足させても同じじゃないか!」

「いえ、越喜来さんに私物を触らせるくらいなら私、死んだほうがマシなので」

「君は僕を何だと思ってるんだ……?」

二人がそんなくだらないやりとりをしている間に、リリーは既に宿屋で部屋をとっていた。





 

 数分後、三人は宿屋の階段を登っていた。相変わらず、越喜来とアイリスはいがみ合ったままである。

「さてと! それでは男子の越喜来さんは、ひとり寂しく寝ててください。私は、リリーさんとつもる話があるので! へへへ……」

部屋のある二階につくと、アイリスは女の子がしてはいけないような変態的な表情をしながらそう言った。

しかし、それを聞いた二人はキョトンとした顔をしている。


 「アイリス、何言ってるの? 私達全員同じ部屋よ?」

リリーは可哀想な子を見る目でアイリスを見ると、なんてことなしにそういった。

それを聞いて、アイリスははしゃいだポーズのまま固まる。

「い、一緒の部屋とは。つまり、越喜来さんも……?」

「そうよ?」

何かの聞き間違いではないことを理解したアイリスが尋ねるが、リリーは『だからどうした』と言わんばかりにそれを切り捨てた。


 「ああ、アイリスには言ってなかったっけ? 僕ら宿屋では同じ部屋で――」

「うわあああああああん! そんなのいやだああああああ!」

「ガチ泣き!? 君は僕と同じ空間にいるのがそんなに嫌なのか!?」

更に追い討ちとばかりに越喜来が話しかけたせいで、アイリスが本気で泣き出してしまった。当然だが、越喜来に悪気はない。


 「ま、まあ落ち着いて! 何も同じベッドで寝るわけじゃないんだし!」

リリーが、全然フォローになっていない言葉をかける。

「だ、だいたい、何でリリーさんはこんなやつと一緒の部屋に寝てるんですか!」

アイリスは越喜来を『こんなやつ』呼ばわりすると、大声で抗議を始めた。


 「え? だってほら。二部屋借りるとお金が倍かかるじゃない? どうせ何人か寝れるスペースあるんだから、一部屋にした方がお得でしょ?」

(それでいいんですか、あなたの貞操観念は……)

しかし、リリーは金のことしか心配していなかった。それを聞いて、アイリスは心の中で嘆いた。

そもそもいくらでも金を使い放題なリリーが何故ここまでケチ臭いのかは、永遠の謎である。

彼女のが金を躊躇なく使うのは、私利私欲を満たす時だけなのだ。




 「さて、じゃあそろそろ寝ましょうか!」

リリーは、部屋に押し込んでもまだうるさく騒ぐアイリスの口を無理矢理布で塞ぎ、体をベッドに縛り付けると、笑顔でそう言った。

「リリー、君たまに僕より悪人に見える時があるよ」

越喜来はそう言うと、その後に続くリリーの抗議を無視して、自分のベッドに潜ってしまった。



 街についた初日。三人は、こんな街の名前すら口に出さない何の中身もない時間を過ごした。

しかし、越喜来は知らない。この街で、彼はまたもや殺されかけることになるのだということを。

そして、この街に滞在中彼がグッスリと眠れるのは、この夜が最後なのだということを。

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