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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
二章 【魔法】
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『アイリス』

 「ここが、私の家です!」

そう言って少女が指さしたのは、城と見間違えてもおかしくないほどの大豪邸だった。大きな門の両脇では、鎧を着込んだ兵士がその周囲を監視している。

「あ、あのー。もしかしてあなたって、すごいお嬢様かなにかなの?」

その豪華さに圧倒されたリリーが、少女に尋ねる。

「えーと、ちょっと違うんですけど、まあ似たようなものですかね」

少女はそんな微妙な返答をすると、二人を家に招き入れた。



 「今お茶を用意するので、そこの椅子に座って待っててください!」

二人が家に入るのを確認すると、少女はそう言い残して奥へ走っていってしまった。

「いやー。お茶まで入れてくれるなんて、本当にいい子ね。妹にしたいくらいよ!」

リリーは笑顔を浮かべてそう言うと、用意されていた椅子に腰掛けた。

それに対して越喜来は、リリーのその明るい表情を見て、逆に暗い顔をしてしまう。


 「ねぇ、どうかしたの? あなたあの子絡みの話になると、途端にテンション落とすじゃない」

その様子を怪しく思ったのか、リリーが問いかける。

「いや、こんなことは言いたくないんだけどね? リリー、あの子は――」

「お待たせしましたー!」

越喜来がその問いかけに答えようとしたその時、ちょうど少女が帰ってきた。



 「お口に合わないかもしれませんが、どうぞ」

少女はそう言うと、テーブルの上に高価そうなティーカップを置いた。

「ううん、そんなことないわ。美味しいわよ! 越喜来もそう思うでしょ?」

リリーは飲んだ後そう同意を求めて「しまった」と思った。越喜来が、同意を求められて素直に返事をするはずがないのだ。

「……うん。とても美味しいね」

しかし、越喜来は特に反抗することもなく、素直に味を褒め始めた。

それを見てリリーはますます越喜来の様子を怪しく思ったが、深く追及はしないでおいた。


 「さてと。それじゃ、話の続きをしましょうか」

紅茶を全て飲み干すと、リリーは少女に向けてそう話を切り出した。

「私達はアイリスって魔法使いを追っている。そこまではもういいわよね? それで、できたらその魔法使いの情報を知りたいなーなんて思うんだけど」

もう何回も繰り返した質問を、もう一度投げかける。


 「アイリス、ですか……」

それを聞いた少女は、少し考えるような仕草をした。

「実は私も、あまり知らないんですよね。ただこの街を魔法で救ったっていうくらいしか」

少女がそう答えると、リリーはため息をついた。

「やっぱりそうよね。魔法使いだからって、他の魔法使いに詳しいとは限らないもの。でも、協力してくれてありがとう」

リリーは落ち込んだ気持ちを表情に出さないように気を使いながら、少女にお礼を言った。


 「お役に立てず、すみません。ところで、お二人は何故そのアイリスという人を探しているんですか?」

少女は時計を確認すると、二人に質問した。

「ああ、それなら――」

「それは、僕が答えるよ」

その質問にリリーが答えようとしたが、越喜来はそれを遮った。



 「僕たちはね、主人公を探しているんだ」

越喜来は少女とリリーを交互に見ながら、慎重に説明を始めた。

「"主人公"? 何ですか、それ。聞いたこともありませんけど」

少女は困惑した顔で、越喜来の次の言葉を待った。

「そうだね。これじゃわかりにくい。リリー、その主人公の名前って、何ていうんだっけ?」

越喜来がそう問いかけると、リリーは不思議そうな顔をした。

「それって今聞くこと? ……確か"アドル"だったかしら」

リリーがそう答えた時、何かが割れる音がした。


 「あ、アドル?」

割れたのは、少女のティーカップだった。少女はカップを落としてしまったことを気にもとめず、青ざめた表情を浮かべている。

「そうだよ。アドルだ。別に普通の名前だと思うけど、何か心当たりでも?」

その顔をじっくり見ながら、越喜来は言葉を続ける。


 「僕達は、自分の役目を放棄したバカな主人公を探している。その使えないアホを早く見つけるために、かつてそいつの仲間だったアイリスを探す必要があるんだ」

越喜来は必要以上に主人公のことをけなしながら、説明を続けた。それを聞いて少女は、顔を赤くして震えている。

「ん? どうしたの? 赤の他人を貶されてイライラするなんて、君らしくもないじゃないか」

挑発するようにそう言うと、越喜来は盾を取り出して立ち上がった。


 「ねえ? "アイリス"さん」


 越喜来がそう言った瞬間、リリーが大声で抗議を始めた。

「な、何言ってるの!? この子がアイリスなわけないでしょ? 他人嫌いも程々にしなさいよ!」

しかし、越喜来はそれを無視して少女を睨む。

「初め会った時の反応では、まだ確証はなかったんだ。でも、さっき再開した時に確信した。君はアイリスだ」

越喜来の言葉に、少女はしばらく黙り込んでいた。


 「証拠はあるんですか? いきなりそんなこと言われても、困るんですけど……」

少しの間の後、少女が口を開く。時計をチラチラと見ながら、困ったような顔をしている。

「あるさ。僕たちとの会話での君の反応。その全てが証拠になる」

越喜来はそう言うと、思い出すように目を閉じて話し始めた。


 「リリーが聞き込みをする時、僕は『アイリスを貶せ』と指示を出していたんだ。もし君がアイリスに近い人物なら、きっと不快な顔をするだろうと踏んでね」

越喜来はリリーに渡したメモと同じものを取り出すと、少女に見せた。

「でも君は反応しなかった。全く動揺せずに、アイリスの正当性を主張したんだ。だからこの時点では、君をただの魔法使いだと思い込んでた」

そう言うと、越喜来は少しずつリリーの方へと歩き出した。


 「でも、その後の君の反応は真逆だった。『アイリス』という言葉が出る度に、君は例外無く動揺し、話題を逸らしたり、はぐらかしたりしていた」

それを聞いている少女はというと、黙り込んで顔に汗をかいたまま、越喜来を見つめている。

「僕は悩んでいた。この子はどっちなんだ? アイリスなのか、そうじゃないのか? ってね。でもその時、君は最大のミスを犯したんだ」

越喜来はリリーのところまでたどり着くと、少女に向けてそう告げた。


 「ミス? 私が何をしたっていうんですか? さっきから、具体的じゃないことばかり言ってますけど……」

少女は、焦ったような口調でそう返した。

「『"魔法による傷"も治療できます』だよ。君は、さっきそう言ったんだ。僕はこの傷が、魔法によってできたなんて一言も言ってない」

越喜来はこの傷について尋ねられた時、曖昧な返事をしただけだった。そのやりとりだけでは、傷の原因はわかるわけが無いのだ。


 「そ、それは、あなたたちが昨日襲撃事件に巻き込まれたのを知っていたからですよ! それに、傷口を見れば、それが魔法によるものかどうかくらいすぐにわかりますから!」

少女は誤魔化すように大声を出すと、越喜来を睨んだ。


 「いや、それはおかしい。昨日の二つの襲撃事件のうち、僕らが巻き込まれた方は人通りの少ない路地だったんだ。それに僕らは、野次馬が集まる前に既にそこから移動している」

しかし越喜来はその発言の矛盾を見つけると、容赦なくその言い訳を崩していく。

「そして、この傷は"砕けたレンガのせいで出来た傷"だ。これを見て、魔法の傷だと言う人間はいないよ」

越喜来はそう言うと、一旦口を閉じて少女の目を睨んだ。


 「これが証拠だよ。何か反論はあるかな、アイリスさん」


 その言葉に、返答はない。少女――アイリスは、ただ黙ったままでいる。

「う、嘘でしょ? この子がアイリスなの? 私達を殺そうとした、あのアイリスだっていうの?」

リリーの言葉に、越喜来は何も返さない。アイリスと同じように、ある一点を見つめたまま黙り込んでいる。

「あれ? さっきからあなたたちどこを見て――」

リリーが目線を向けた先には、時計があった。その時計は、ちょうど九時を指すところだった。

「――っ!?」

秒針がゼロを指した時、リリーの体から力が抜けた。脳の命令を、体が無視する。


 その瞬間、越喜来とアイリスが同時に動いた。

リリーを庇うように、越喜来が盾を突き出す。そこへ、アイリスから放たれた閃光が衝突し、激しい火花を散らした。魔力と魔力がぶつかり合い、奇妙な音をたてる。

「あれ、失敗しちゃいました? ちゃんと薬は、両方のカップに入れておいたはずなんですけど」

アイリスはそう呟くと、魔力を纏った腕を構えた。その目は、紅く光を帯びている。

「敵から出された飲み物を、律儀に飲むやつがどこにいるのさ。それに、君は時計を見すぎだよ。あれじゃバレバレだ」

越喜来は盾を突き出したまま、そう答えた。越喜来のカップには、注がれた時と同じ量の紅茶が残っている。


 「なるほど。頭がいいんですね! 尊敬します! でも……」

アイリスは先程までと同じような明るいトーンでそう言うと、腕に魔力を集中させる。

「私とアドルの邪魔をする人は、消さないと!」

少女がそう言って腕を振ると、そこから巨大な火球が飛び出した。それは、武器屋の店主の持っていた筒のものとは比べ物にならない火力たった。

(……速い!)

越喜来はそれをよけようとしたが、不可能だと悟り盾で防いだ。


 「まったく、野蛮だな。怒ったから相手に攻撃をするなんて、そんなの猿でもできるよ?」

盾を構えたまま、越喜来がわざとらしく大声で言った。

それを聞いたアイリスが、目つきを鋭くして越喜来を睨む。

「人を馬鹿にするのも、いい加減にしてください!」

アイリスはそう言うと、リリーのことは後回しにして、越喜来だけを狙い始めた。

連続で飛んでくる火球を、越喜来はなんとか盾で防ぐ。


 「僕は口を出すのは好きだけど、手を出すのは嫌いなんだ」

越喜来はそう言うと走り出し、リリーから充分離れた位置で止まった。

「だから、話し合いで解決しよう」

アイリスの狙いが完全に自分に固定されたことを確認して、越喜来はそう呟いた。

この話から、少し文字数が増えてます。基本的には今までの二話分→ここからの一話分と言った感じになりますので、宜しくお願いします。

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