『襲撃』
その後、二人(というかほとんどリリー)は、通りすがった人に手当たり次第に聞き込みをしてまわった。
しかし情報を得るどころか、それ以降聞き込みをした相手の中に、魔法使いは一人もいなかったのだ。
結局のところ、その日彼らがまともに話を聞けたのは、先程の少女だけだった。
「はぁ、何なのよこの街。これだけ魔法を使っておいて、生粋の魔法使いはほとんどいないんじゃない」
すっかり暗くなった街を、リリーが文句を言いながら歩く。
「まあ、ここには魔力を込めた製品があるからね。わざわざ訓練を積まなくても使えるんだし、魔法使いも減るってもんだよ」
その横を、越喜来がいつも通りの表情を顔に貼り付けて歩いている。
そして二人は宿屋へ向かうために、人通りの少ない路地に入った。
その時、越喜来の目は視界の隅で何かが光るのを捉えた。
「――危ない!」
"それ"は、越喜来が盾を構えてリリーの上におおいかぶさるのとほぼ同時に起こった。
雷のような大きな音が響くと同時に、まばゆい閃光が走り、越喜来の盾に直撃する。
盾は彼の魔力に反応して青白く光ると、その衝撃を周囲へ逸らし、二人の身を守った。
足元のレンガが砕け、辺りに埃が舞う。
その中心部で、二人はしばらく同じ体制を保っていた。
(まだ、追い討ちで撃たれるかもしれない。今盾を外すのは危険すぎるな……)
そう考えた越喜来だったが、いつまで経っても二撃目は来ない。
「なんだ。もう犯人は何処かへ言ったみたいだ」
安心した越喜来は、ようやく盾をどけて立ち上がった。
「い、今のって。私たち殺されかけたってこと?」
リリーが、青ざめた顔で呟く。
「多分。あんなのが直撃していたら、まず無事では済まなかったからね。後で武器屋の人にお礼を言わないと」
越喜来はそう言って傷一つない盾を撫でると、それをしまった。
「って、あなた少し怪我してるじゃない! 治療しないと!」
その様子を見ていたリリーが、驚いた声を上げる。越喜来の腕には砕けたレンガで切り傷ができ、血が流れ出ていた。
「いや、これはそこまでたいした傷じゃないよ。それよりも、嫌な予感がするんだ。このままだと……」
越喜来はその傷を隠すと、そう言いかけた。
次の瞬間、遠くの方で大きな音が鳴り響いた。直後、空が一瞬明るくなる。
「あ、アレさっきのと同じやつじゃない!? それに、あっちは確か……」
「確か、あの武器屋のあった方向だ。急ごう!」
越喜来は予感が現実に変わったことを理解し、リリーを連れて武器屋へ向かった。
二人は、暗い街を全速力で走った。
やっとの思いで武器屋にたどり着くと、そこには既に人だかりができていた。
そしてその人混みの先、武器屋の建物はといえば、先程の閃光により真っ黒に焦げてしまっていた。
「何よこれ、ひどい……」
リリーがそう言ったのと同時に、店内から店主の男が運ばれてきた。服のあちこちが焦げているが、命はあるようだった。
「また襲撃事件かよ。これで何件目だ?」
その時、一人の野次馬がそう言っているのを越喜来は聞いた。
「ねえ、こういう事件って最近多いの?」
越喜来は、その野次馬に向けて話しかけた。
「ん? いや、最近というより、もはや恒例行事みたいな感じだな。あいつみたいに、今の魔法産業に不満を言うようなやつは、いつからか死なない程度に痛めつけられるようになったんだ。ああ恐ろしい」
野次馬は越喜来にそう返事をすると、不吉なものでも見たかのように足早に帰っていってしまった。
「ねぇ、越喜来。この馬鹿みたいな魔法の規模といい、その襲撃対象といい、この事件の犯人って……」
「うん、"アイリス"だね。間違いない。どうやら僕たちは、何がなんでもあいつを見つけ出す必要があるみたいだ」
二人は犯人がアイリスであることを確信すると、主人公を探すために、そして自分たちを襲撃した犯人を懲らしめるためにも、そう誓ったのだった。
✱
その翌日。二人は宿屋の前で、どうすればアイリスを見つけられるかについて話し合っていた。
実際のところ、今の二人はアイリスに関する手がかりをほとんどつかめていないのだ。
「で、どうする? 手当たり次第に聞き込みするのは昨日私が試したし、何かいい案ないかしら」
リリーは周囲の人物をチラチラと確認しながら言った。
「うーん、そうだな。あ、ねぇリリー。あそこに居るのってさ、この前の女の子じゃない?」
越喜来がそう言って指さす先では、昨日の少女が同じように本を読んでいた。
「こんにちは。また会ったわね」
黙々と本を読み進める少女に、リリーは心なしか嬉しそうに話しかける。
声をかけられた少女は二人を確認すると、何故か驚いた顔をした。
「は、はい!? あ……すみません。いきなり話しかけられて、ビックリしちゃいました」
少女はすぐに気を取り直すと、二人に笑顔でそう言った。
「この前、君は話の途中で帰ってしまったからね。僕としても、また会いたいと思っていたんだ」
越喜来がそう言った時、少女が越喜来の腕の怪我に気づいた。
「あれ? この傷、どうしたんですか? 痛そう……」
「ん? いや、ちょっとね。気にしなくていいよ」
少女が原因を尋ねたが、越喜来は適当に流してその話題を終わらせた。
「そんなことより! この前聞きそびれちゃったんだけど、私達アイリスって魔法使いを探しているの。あなた、何か情報をもって――」
リリーは、昨日聞けなかった本題について、少女の意見を聞こうとする。
しかしその瞬間、少女が慌てて口を開いた。
「え、えーっと! 続きは、私の家でしませんか? 家でなら落ち着いて話もできるし、その魔法による傷も治療できますし!」
少女は大声でそう言うと、顔を赤くして黙ってしまった。
「す、すみません。いきなり家に人を呼ぶなんて、変ですよね?」
二人を伺うように、少女はそう言った。
そのいじらしい態度を見てリリーは目を輝かせると、少女の手を取った。
「な、何ていい子なの!? 今までこんなやつとばかり話してたから、余計ウルっと来ちゃったわ!」
「リリー、僕にも傷つく心はあるんだよ?」
そのまま少女を褒め続けるリリーに、越喜来が呆れたように言葉をかけた。
「それじゃ、さっそくこの子の家に行きましょう?」
少女がすっかり気に入ったリリーは、越喜来の意見も聞かず勝手に行くことを了承してしまった。
「では案内するので、ついて来てください!」
それを聞いた少女は、笑顔のまま二人の前に立ち、先導するように歩き始めた。
しかし、越喜来は目を閉じたまま動こうとしない。
「ちょっと! 何してるのよ。置いていくわよ?」
リリーにそう呼びかけられ、越喜来はゆっくりと目を開いた。
「わかったよ。すぐに行く」
越喜来は明るくそう返事を返したものの、その目は笑っていなかった。




