『魔女』
武器屋での出来事の後、外はすっかり夜になっていたので、二人は宿に泊まることにした。
歩いた疲れに防具選びも重なって疲労が溜まっていた二人は、その夜泥のように眠った。
そして翌日。二人は、街の中心部にやってきていた。
昨日の店主の情報を元に聞き込みを行うことで"アイリス"に近づき、主人公についての情報を得ようと考えたのだ。
「そうだ。僕らは主人公を探していたんだった。どこかの誰かが買い物に夢中だったからすっかり忘れていたよ」
「……あなた、嫌味しか言えないわけ?」
昨日のことをぶり返され、リリーは不機嫌そうな顔をした。
「とにかく! 辺りを見回して、"魔法使いっぽい人"を見つけるのよ。そして、その人に情報を聞いていけば、自然とアイリスのところへ辿りつけるはずよ」
本当にそんな単純な方法で効果が出るのかはわからないが、少なくとも二人はやる気だった。
天気の良い昼下がり。街を埋め尽くす大勢の人の中から、魔法使いを探すのだ。
「あ、ねぇリリー」
「何よ。何か問題でもあった?」
「魔法使いっぽい人って、どんな人?」
越喜来の質問に、リリーはハッとした顔をする。
今の世の中、別に魔法は変な服を着たり三角帽をかぶったりする必要はないのだ。どんな格好だろうが適正があれば魔法などいくらでも使えるので、見た目で魔法使いを見分けることなどそもそも不可能だったのだ。
「え、えーっと……ごめん、わからない。そういえば魔法使うのに服装なんて関係ないし、この作戦はもとより失敗してたようなものだわ」
リリーは申し訳なさそうにそう言うと、ガクリと肩を落とした。
「なんだ。そうだったんだ。僕はてっきり、"あんな感じで"、三角帽をかぶってホウキを持ってる人のことを言ってるのかと思ったよ」
越喜来は、そう言いながら指で近くのある人物を指さした。
その指の先には、三角帽をかぶり、ホウキを片手に持ち、分厚い本を黙読する少女の姿があった。
「……確かに、良く見たらそこまで魔法使いっぽくもないか。ごめんね。勘違いしてたよ」
「いや、それっぽいから! 超それっぽいから! あの娘絶対魔法使いよ! むしろ魔法使いじゃなかったらなんなの!? お掃除マニアか何か!?」
越喜来の指さした少女は、驚くほど魔法使いっぽかった。というか、どこからどう見ても魔女だった。
「ん? あの子魔法使いなの? よし、任せて。僕がたっぷり話をしてくるから」
自体を察した越喜来は、何故か素直に納得すると、自分から少女へ聞き込みをしに行った――
「って、待ってよ! 何で今回だけあなたが聞きに行くの!? まさか相手がかわいい女の子だから!? あなた変態!? 他人嫌いな設定どこ行ったのよ!」
しかし、防具屋探しの件を思い出したリリーが、その動きを止める。あの時二十回連続で聞き込みをさせられた恨みを、彼女はまだ忘れていないのだ。
「え、いやあ。変態ではないんだけどさ? ただほら、小さい女の子相手だったら、怒られても心折りやすいしなんとかなるかなーと」
「そうね。変態っていうか、あんたのそれはもうただの外道よ! いいから、私に任せて!」
こんな男に聞き込みは任せられない。そう思ったリリーは、越喜来を無視して聞き込みを始めようと立ち上がった。
「あ、待ってよリリー。聞き込みするなら、これに書いてあることも聞いてくれない? 僕は黙ってついていくからさ」
越喜来は動き出したリリーに何やらメモのようなものを差し出すと、「頼んだよ」とばかりにガッツポーズをした。
「ねぇ、そこのあなた。あなたって、もしかして魔法使い?」
リリーは先程の少女の後ろまで近づくと、警戒させないようにそう声をかけた。
「え? はい! 私、魔法使いです! 何かご用ですか?」
その声に反応して、少女は勢い良く振り向いた。
少女は、肩にかかる程度に切りそろえた赤い髪の上に、大きな三角帽を乗せていた。全身を黒いローブに包み、大きなホウキを抱えている。
「えっと、私リリーっていうの。こっちは越喜来。私達今アンケートをしてるんだけど、協力してもらってもいいかしら?」
リリーはその何の捻りも無い魔女っぽさに呆気に取られたが、気を取り直して聞き込みを開始した。
「この街って、随分と魔法が流行ってるみたいね」
わざとらしく周囲を見回すと、リリーはそう言った。
「はい、そうみたいですね。そのおかげで経済も安定しましたし、いいことです!」
その言葉に、少女は笑顔で返事をした。全く裏表のない、いい笑顔だとリリーは思った。
「でも、それで困っている人もいるみたいなのよね。どう思う?」
リリーはあえて急に核心にせまらず、徐々に詳しく聞いていくことにした。手始めに、この街の現状について話を聞いていく。
「うーん。でも、私自身は魔法使いなので、この状況に不満はありませんかね」
少女は、いまいちよくわからないといった顔でそう言った。
確かに、魔法使いとそうでないものとでは、感じ方も異なるのかもしれない。リリーは少女の意見を聞いてそう考えた。
そこで、リリーは越喜来に渡されたメモのことを思い出した。彼女はそれを広げると、そこに書かれていることを質問する。
「でも、結果的に産業を支配してしまっているわけだし、これって結局あんまりいいことじゃないわよね?」
越喜来のメモには、『アイリスのしたことを批判し、それに同意を求めろ』と書いてあった。リリーには、それにどんな効果があるのかわからなかった。
リリーのすぐ横では、越喜来がそれに反応する少女の表情をじっくりと眺めている。
「そうですか? みんなの為を思ってやってるんですし、悪いことだとは思いませんけど」
しかし少女は、特に深く考えずにそう答えた。顔には、不思議そうな表情が浮かんでいる。
そこでリリーはこっそりと越喜来の方を確認したが、越喜来はゆっくりと首を横に振った。どうやら、何かに失敗したらしい。
「そう? まあ、一般的にはそんな意見が多いかもね」
リリーはそう言うと、いよいよ本題に入ろうとした。
「それで、私達はそれを行ってる魔法使いを探してるのよ。名前は、アイリスっていうんだけど、何か知っていることはない?」
と、リリーがそこまで言った時、少女は突然手から本を落とした。
「え? どうしたの?」
「……その、私今から用事があるので、失礼しますね!」
少女はリリーの問いかけに笑顔でそう答えると、本を拾い上げてパタパタと走っていってしまった。
「どうしたのかしら。私、何か変なこと言った?」
少女が去っていく姿を見ながら、リリーが呟く。
その後ろで、越喜来は納得していないような顔をして、いつまでも少女の後ろ姿を睨んでいた。




