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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
一章 【初陣】
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『召喚』

 直後、越喜来はパニックに陥っていた。

それも無理のない話だった。扉をあけた途端に光が溢れだし、彼の体を包み込み始めたのだから。

「うわっ! なんだこの光……僕を引っ張ってる!?」

その光は少しずつではあるが、確実に彼を扉の中へと引っ張っていた。

混乱したままの彼は、ずるずると光の中へと引きずり込まれていく。

「やめろ! 僕をどうするつもりだ!」

叫んで必死で抵抗するが、扉が吸い込む力は変わらない。

それどころか、抵抗すればするほど力は増し、周囲の空気を巻き込んで越喜来を飲み込んでいくようだった。


 (ああ、僕は死ぬのか。今までの行いの悪さが原因だろうな。仕方ない。この扉は、ちょっとお洒落な地獄の門だったってわけだ……)

もがいてもどうにもならないことが分かったのか、越喜来は急に冷静になった。

体から力を抜くと、抵抗をやめて光に引かれるままに扉へと進む。

そして彼は誘われていったのだった。こことは違う、別の世界へと。



 「いでよ! 別世界の住人ー!」

村のはずれ、木々に覆われた空間の中で、誰かがなにやら呪文らしきものを唱えている。


 金色の髪を長く伸ばし、丈の短いワンピースの様な上下一体の服を着た少女。その少女が、可愛らしい外見に似つかわしくない禍々しいデザインの魔法陣の上に立ち、必死で杖を振り回している。

「我にー! 力をー! 頼むからー!」

後半がもはやただのお願いにしか聞こえないのは気のせいだろうか。

ともかくその呪文(のようなもの)を唱え終わり、魔法陣に何も変化がないことを確認すると、落胆した様子の少女はペタリと地面に座り込んでしまった。


 「ダメだ、全然成功しない……何が悪いのかしら?」

少女は手元の厚い本を開くと、ページをめくって手順を確認しなおす。

いつの時代に書かれたものなのだろう。既にページの端はボロボロになっており、一部の文字はかすれて非常に読みにくくなっている。

「やっぱり、もうこの時代に異世界に行きたいとか本気で思ってる人なんていないのかな。どうしよう、このままじゃ……」

少女が目に軽く涙を浮かべ、そうひとりごちた時、突如足元の魔法陣が光り始めた。


 《いっそのこと、違う世界にでも生まれ変わりたいな……》


 魔法陣から、気の抜けた声が響く。

「やった! ついに見つけた!」

足元から発せられた声を聞いた少女は、先程とは一転して明るい表情を浮かべ、急いで飛び起きる。

そのまま喜々として声の主を確認すると、そこには何やら冴えない青年が映っていた。 


 (うーん。何か色々と微妙な男だけど……この際、誰でもいいわよね!)

そんな少し失礼なことを一瞬だけ考えると、少女は小さく咳払いをして、

「生まれ変わらせてあげましょうか?」

と声をかけた。

それと同時に杖を操作し、青年の背後に巨大な扉を出現させる。

魔法陣の中では、青年が驚いて振り返り、扉に気を取られていた。

(よーし! 後はこいつが扉を開けてこっちの世界に来れば一安心ね!)

少女は青年を待ち構えようと、魔法陣の上で仁王立ちになった。


 十秒、二十秒と時間が流れる。しかし、いっこうに青年が出てくる気配はない。

「――あれ?」

初めはニコニコと嬉しそうな顔をしていた少女も、徐々に不安そうな顔をし始めた。

おかしい。こんなに転移に時間がかかるはずがない。

そう思った少女は、焦りながら足元の男に向けて声をかけようと下を見た。


 その時、これまでよりも強く魔法陣が光り始め、青年が頭からにょきにょきと土筆つくしのように生え始めた。

「えっ!? ちょっ、うわあ!」

あまりに急な出来事に慌てる少女をよそに、青年は少女の真下――ちょうど足の間あたりから生え続ける。そして、すぐに全身が転移し終えてしまった。



 「ん? 光が消えた。ここが地獄? 思ったより明るいところだな……」

視界をおおっていた光の流れがやんだことを理解し、越喜来が目を開いた。辺りを見回す。

木々が青々と茂り、花は色鮮やかに咲き、空気も澄んでいる。

(イメージと違って、なんかすごく住みやすそうだな)

越喜来が呑気にそんなことを考えていると、

「――して」

自分の背後、頭のある位置より少し高いくらいの高さから、そんな声が聞こえてきた。


 「え?」

「――ろして」

突然の声に驚いて、越喜来は首だけひねって後ろを見た。これがいけなかった。

次に越喜来が目にしたのは、真っ白な何かであった。

それが何か理解する前に、頭上から大きな声が聞こえてきた。

「ちょっと! なんでスカートに頭突っ込んでるの!? いいから早く降ろしてよ!」

そう、今越喜来が目にしていたのはパンツだった。

転移場所の問題で、越喜来が少女を肩車する形になっていたのだ。

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