『防具屋』
越喜来の防具を買うことに決めた二人は、近くに防具屋が無いか探した。
しかし、二人がいる地点の周辺には、それらしき建物が見当たらなかった。
「おかしいわね。これくらいの規模の街なら、一軒や二軒くらい防具屋、もしくは武器屋があってもおかしくないんだけど……」
リリーが、頭を掻きながら言った。
「とりあえず、近くの人に聞けば何とかなるかもしれない。もしかしたら見落としてるだけで、どこかにあるのかもしれないしね」
越喜来はそうは言ったものの、一向に動く気配がない。
「……え? 私が聞くの?」
「そのつもりだったけど、違った? 僕は人付き合いが苦手だからね。できればそうしてもらいたいんだけど」
驚くリリーに、当たり前のように返事をする。
(この流れ、言い出したやつが聞きに行くべきじゃないの?)
そう思ったリリーだったが、どうせ越喜来は絶対に譲らないだろうという確信があったので、仕方なく周りの人に話を聞くことにした。
「防具屋? そんなのないよ。この街で何言ってるんだ君は」
これで、十九人目。
あれからリリーは何人もの通行人に声をかけたが、帰ってくる答えは全て同じだった。
『ここに防具屋は無い』。皆、口を揃えてそう言うのだ。
「ねぇ、私もう諦めてもいいよね? これ一体何の罰ゲームなの?」
リリーが、疲れ果てた声で呟く。
「何だろう。初対面の時に僕を責めたバチが当たったんじゃないかな」
「まだそれ引きずってたんだ!?」
二人は、もはや諦めていた。この街には、何故かは置いておいて防具屋が一軒も無いのだ。そう結論を出してしまっていた。
「どうせだから、もう一人聞いてみよう。そうしたら二十人でキリもいい」
越喜来が、あくまで自分は動かずにそう提案する。
「実際に声をかける私の身にもなってよ……これで最後よ?」
リリーはため息をつくと、ちょうど近くを通りすぎようとしていた男に話しかけた。
「え? 防具屋? 今のこの街には、一軒もないんじゃないかな」
「やっぱり……」
しかし、この男もやはり返答は同じだった。予想通りの答えに、肩を落とす。
「あ、でもそういえば、あそこの建物の中で一日中剣の練習をしている男がいるって、聞いたことあるよ」
男が、思い出したように言った。
「え、本当ですか?」
「うん。あの建物はもともと武器屋だったんだ。もう潰れたはずなんだけどね。あそこに行けば、防具屋について何かわかるかもしれないよ」
そうとだけ言うと、男は歩いていってしまった。
「最後の最後で、いい人に当たったわね」
男にお礼を言った後、リリーがそう言った。
「うん。あの建物だっけ? ……とても武器屋には見えないけど」
越喜来はそう言うと、男の指示した建物を眺めた。
その建物に看板はなく、他の建物と違い魔法による装飾が一切ない。パッと見では、ただの空き店舗に見えた。
「うーん、まあ、見た目で判断できることには限りがあるし、とにかく行ってみましょう?」
リリーは相変わらず荷物を全て越喜来に任せると、その地味な建物へ向けて歩き出した。
建物は、近くで見るとさらに地味に見えた。
「もしもーし、誰かいますかー?」
ドアを何回かノックして、リリーが呼びかける。しかし、中から反応はない。
「誰もいないみたいだね。やっぱり、ここはただの閉店した武器屋だったわけだ。戻ろうか」
早速諦めた越喜来が、地面に置いた荷物を抱えなおす。
「ん? 待って! ……この扉、鍵がかかってない」
リリーは越喜来を静止すると、ドア手をかける。手首を捻ると、ドアノブは何の抵抗もなく回った。
(もしかして、何か事件が起きているとか? 一体ここで何が……)
そう考え、リリーはドアを開いて中に入ろうとした。
その時、
「お前達、俺の店の前で何をしている!」
二人の背後から、無駄に大きな声が発せられた。
驚いて振り返ると、そこには剣を腰にさげ、二人を睨らみつける大柄な男の姿があった。
「さては強盗だな!? ええい卑劣な! 俺がこの手で成敗してやる!」
男は腰から木製の大きな剣を抜くと、二人に向けて構えた。
「え、えええええと違うんです! 私達はただ防具が欲しくて! 店がなくてここが武器屋で怪しいものじゃないです! それでその――」
突然の出来事に慌てたリリーが、パニックになって訳のわからないことを口走る。
しかしそれを聞いた男は、一瞬きょとんとしたあと、剣をしまって笑い出した。
「そうか、お前達はお客さんだったのか! ならそうと先に言ってくれよ! ははは。さ、遠慮せずに入った入った!」
男は豪快に笑いながらそう言うと、二人の肩を掴んで店内へ無理やり連れていった。二人には、抵抗する暇もなかった。