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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
一章 【初陣】
13/41

『切り札』

 「"切り札"、だと? お前、何を言っているんだ?」

その意味不明な行動に男は困惑した表情を浮かべ、つい剣をおろしてしまう。

「うん、切り札だよ。お前の心を折るための、最後のパーツが揃ったんだ」

越喜来は表情を変えず、手を男に向けたままそう言った。


 「はっ! 何を言い出すかと思えば、結局ハッタリか? もう、俺にその手は通用しねぇんだよ!」

その言葉をハッタリだと判断した男は、剣を構え直す。そして明確な殺意を持ったまま、越喜来を斬らんと再度突撃する――



 「また攻撃かぁ。だからお前は、何も守れないんだよ」

男の剣が触れるその直前に、越喜来が呟いた。それを聞いた男は、剣の動きを止めてしまう。

「お、俺が、何も守れないだと……?」

男は硬直したまま、額から汗を流している。

「うん。お前は何も守れてない。むしろ、他人を傷つけてばかりいるじゃないか」

相変わらず、剣は越喜来の間近に固定されている。少し動かせば肉が切れるこの位置に刃を感じていながら、越喜来は臆せずにそう言った。


 「そんなんだから、彼女も守れなかったんじゃないの?」

越喜来がそう言った瞬間、男の目が大きく見開かれた。

男は越喜来から剣を離して大きく距離を取ると、怯えた目で越喜来を見た。


 「な、何故だ! 何故お前がそれを知っている!」

男の顔は完全に青ざめている。心なしか、震えているようにも見えた。

「だから。僕はお前ことなら何でもわかるんだって。最初から言ってるだろう?」

越喜来は、一歩ずつ男に近づきながら言った。

「僕はさ、大好きなんだ。人のトラウマを使って、他人の心をへし折る瞬間が」

そう言った越喜来の顔は、笑っていた。


 「お前は死んだ恋人のためにも、早く偉くなりたかったんだよね? うんうん。それはとてもいい話だ。素晴らしいことだと思う」

もっともらしく頷くと、近づくペースを早める。

「でもさ、お前がやってきたことのほとんどって、その目的には関係ないよね」

一歩につき一言。口を開く度に、銃声が鳴り、言葉は男を貫いていく。


 「や、やめろ。近寄るな!」

男が必死に叫ぶが、銃声は鳴りやまない。越喜来から発せられた言葉の槍は、的確に男の心を殺していった。

「お前みたいなやつ見てると、ムカつくんだよね。散々悪事をはたらいておいて、少し過去話が出ると途端にいいやつ扱いされるような、そんな人間を見てるとさ」

越喜来はそう言うと、男への批判をまくしたてはじめた。


 「酒をタダで飲みたい? それって出世関係あるの?」

「店で暴れ回る? それって世界関係あるの?」

「お前は結局、私利私欲を満たすために権力を使ってただけだよね?」

その言葉全てが、男の胸に吸い込まれていく。


 「恋人のためだ恋人のためだって、こんなものの理由にされた恋人の気持ち考えたことある?」

「大切な人を免罪符にして私利私欲を満たすとか、どうかしてるよ」

そして男を責める言葉を一通り撃ち尽くすと、


 「やっぱりお前、生きてる価値無いんじゃないかな?」

今度こそ男の心を折ったのだった。



 「う、違うんだ。俺はそんなつもりじゃ無かったんだよ。ごめん、ごめんな、フラン……」

男は剣を手から離して床に手をつくと、下を向いてブツブツと誰かに向かって謝り始めてしまった。

越喜来はその様子を見て、ゆっくりと男の方へと歩いていった。

「もう謝る必要はないよ。もういいんだ」

男の前までたどり着いた越喜来は、男を見下ろしてそう言った。


 「ゆ、許してくれるのか? こんな俺を」

その声に反応して、男が顔をあげた。その顔は汗と涙で濡れているが、許してもらえるかもしれないという淡い期待から、顔から暗さがわずかに消えている。

ところが、



 「いいや、許さない。というか、この世の中に、"お前を許してくれるやつなんて誰も居やしない"。だから"謝るだけ無駄だ"って、そう言ってるんだ」

越喜来はその期待を、容赦なく裏切った。

同時に、男の目から光が消える。完全に、心が粉々に砕けてしまったようだった。

こうして、越喜来と男の戦いは、越喜来の勝ちで幕を閉じた。


この最後のやりとりに関して、越喜来は後にリリーから「どっちが悪人だかわからない状態だった」などと言われるのだが、それはまた別の話。

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